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【悲報】ワイ、新入生に女教師と間違われてしまうwww

【悲報】ワイ、新入生に女教師と間違われるwww

「香月先輩“レンゅうえやじるしコウエンびーカツサレンはいふんレンはてなだいなりレンョレンォ”って何ですか?おばあちゃんだから日本語忘れちゃったんですか?」

「は?」

 遠野(はじめ)は、長テーブルを挟んだ向こうのパイプ椅子に座っている。対して僕はゆったりとソファにもたれかかっている。もちろん僕の方が偉い。偉いのに。

 僕の高専では、文化部のうち5つの部が、曜日ごとに入れ替わりで“共用部室”という建物を使っている。僕と彼は書道部に所属していて、活動日は月曜日だ。大きさは一般的な教室を少し縦に伸ばしたくらいで、文芸部や漫研などのための書棚や、大きい保管用のロッカーなどが置かれている。真ん中には長テーブルが3台縦に置かれ、各部が作業できるようになっている。色々な部が使用しているから、多様な汚れがある。綺麗とは言い難い。

 本来であれば研究室にいるべきだろうが、僕は居づらいからせめて月曜日だけでもここに居たい。遠野は遠野で、高専の部活など適当にやればいいものを、毎週来ている。

 だから勿論、毎週顔を合わせる。

 頻繁に会話することはなく、ただ同じ空間にいる。これまで月曜日の共用部室は僕の根城だと思っていたのだが、遠野は何を思っているのだろうか。彼はいつも独特な衣服を身に纏っている。今日は黒いサルエルパンツに、ふわふわでだるんとしたシルエットの黒いフーディ。モード系ファッションというやつだろう。陰キャオタク文化の空間では異質だ。何故書道部なのか。


✏︎


 遠野と出逢ったのは、2ヶ月前の高専入学式の日だ。

 その日に専攻科在学生の僕が来る必要は無かったのだが、不自然というほどではない。

 僕は入学式の始まる2時間前には敷地に来ていた。1年生の教室があるA棟の隣に池があり、その傍らのベンチでパワプロアプリをやっていた。オート操作のときにふと前を見ると、遠くにスーツ姿のショタがいた。

 僕の高専は制服が無いから、新入生の中にはスーツの子もいる。15歳のくせに、なんだか着慣れているようだった。

 僕は再びスマホに目を移し、オート操作になったところでまた前を見やった。ショタが近付いてきていた。

「あの、先生ですか?」

 これは衝撃だった。女教師に見られているだと!?

 歳の差があるから、そう思っても無理はないのかもしれない。

 高専の本科は5年制だ。呪術高専のように4年制ではないので気をつけて欲しいし、高専結界などは張られていない。最近は阪神タイガースの石井大智でも有名だ。

 そして5年生の次には専攻科へ進学することができる。専攻科は2年制で、ここの卒業で学士を取得できる。

 僕は本科を3回留年、つまり8年かけて卒業し、今年度専攻科の2年生になった。25歳だから、遠野とは10歳差だ。

 “先生”か尋ねられたことで一瞬思考がぐるぐるした。回りからはいつも「いつまで学士とれずにいるの」と言われている。だから、年齢に関わることについては複雑な気持ちになる。自分からネタにしたり、仲の良い人に軽口叩かれる分にはいいのだが、初対面の新入生に言われるとちょっとな。僕が「いえ」と言うと、向こうも「すみません」と言って去っていった。


✏︎


 さて、その遠野がいま、何か意味の分からないことを言ってきた訳だ。謎の言語だが、英語ではないはずだ。発音でそれは分かる。僕のTOEIC点数は400点台だがな。キリッ。しかし気にはなる。10歳も離れると文化が変わるからな、きっとジェネレーションギャップに違いない。遠野はスマホを見て言っているようだから、盗もうと手を伸ばした。

「ごめん、()()()()に見せて」

 素早く奪い取って画面を見る。え、充電23パーセントって正気?早く充電しな?つかインスタだのTikTokだのの通知が眩しくて見られないわ。

 目的の文字列だけを確認した。

『縺ゅ↑縺溘b豁サ縺ュ縺ー縺?>縺ョ縺ォ』

 そしてすぐ、スマホを遠野に投げ返した。

「……なんだ文字化けじゃないか。知らんのか?」

 遠野はきょとんとした顔をしやがった。このスマホ世代め。高専生の風上にも置けぬ。

「いや、香月先輩のフォルダにあったんすよ。自分で置いたのに忘れたんですか?まったくこれだからおばあちゃんは」

「論点ずらすな。

 僕のフォルダということは書道部共有の話か?」

「はい、過去問置き場に先輩のフォルダもあったんすけど、謎のファイルが入ってて」

 書道部は、Googleドライブを利用して色々なファイルを共有している。その中に、有志がテスト内容をアップロードするフォルダがある。前期中間試験が先週あり、その対策として遠野にリンクを教えていた。

 僕の謎ファイルなど黒歴史の産物に違いない。しかも10年前の過去問フォルダな訳だから、中身なんて覚えちゃいない。というか教員変わってるから僕の年代まで遡る意味ないって。何で見ようと思ったんだ。

 そもそも何故文字化けを知らないんだ?今はスマホで完結するからか?基本UTF-8だからな、パソコン使わない世代なら有り得るのか?ならばヨシ。

「あれだ、それはバグだ。読めなくなってるんだ」

 大嘘だ。テキトーなテキストエディタで文字コードを弄って表示すれば簡単に読める。だが、この分だとそんなことも知らなそうだ。

「チャッピーに聞いたら、“あなたも死ねばいいのに”って教えてくれたんすけど」

 えー///。何それ。恥ずかしいって。絶対顔と耳が紅潮してるって。

「あー、確かに先輩死んでますね。この時のテスト、ほぼ赤点じゃないすか」

 ん゛〜//////。やめてくれ遠野。その術は俺に効く。

「心の相談窓口の情報も出てますよ。更年期ですか?話聞きましょうか?」

 もういいだろ!トドメを刺すな!

「それ以上言ったら、なんJにお前のスレ立ててやるからな!」

「あれ、知らないんですか?いわゆるなんJ民は今、なんGを利用している場合が多いんですよ。やっぱり懐古厨のおばあちゃんですね」

 なんでコイツこういうことに詳しいんだよっ!

「悪かったな、僕はまとめサイトとかshortsのまとめとかでしか見ないんだよ!」

「これ以降にわかは黙ってた方がいいっすよ」

 遠野は、はあっと息を吐いて続けた。 

「ところで、もう1つ文字化け?してるやつ見つけました。 本来はどういう手順で読むんですか?」

「ちょっとこっち来な」

 僕はソファの片側に寄り、隣を叩いて座るよう促した。僕はトートバッグからノートPCを取り出して広げた。僕がPCの操作をしている中、遠野はゆっくりとソファに座った。

「なあ、そのファイルのパスは?」

「ドライブ直下の活動記録の下の2016年の下の11月です。temp.txtと書いてありますが、その中身が文字化けしてます」

「何で退避用のファイルなんか見てるんだ?」

「別にいいじゃないですか」

 確かにそうだ。僕としてもどうでもいい。

「このファイルだな」

「はい」

 ファイルをテキストエディタで開いた。確かに、文字化けしたドキュメントが表示された。

「ここを開くと、文字コードを指定できるんだ。今のスマホでは基本UTF-8という、ユニコードでやり取りしているんだ。だが、昔は文字コードは── 」

「文字コードって何ですか?」

「いい質問だ。パソコンが2進数で計算しているのは知っているな?」

「流石にそれは知ってます」

「よろしい。

 文字の表示も、そのイチゼロの組み合わせで記憶されている。それを文字コードという。

 だが昔は、これが統一されてなかったんだ」

 遠野は腕を組んでなるほど、と言いながら「つまり、手話が世界共通じゃないから、自国でしか使えないみたいな感じですか?」と言った。

 解ったような口をきいているが、恐らくそんなことはない。明らかに、全く解りません!といった顔をしている。いいだろう、それで全く問題ない。だが話は続けさせてもらう。

「そーゆーこと。

 大概Shift-JISに直せば見られるはず。これは日本独自の文字コードなんだが、今は国際標準──ユニコードのUTF-8が基本だ。

 Shift-JISで書かれているのに、アプリ側はUTF-8だと思って読んでいるんだな。

 だから、読み方をShift-JISに合わせてあげればいい」

 僕が文字コードの表示を変更すると日本語が表示され、遠野は「おお」と声を鳴らした。

 え……。

 これは……、遠野に見せてはいけないものだ。

 理解と同時にノートPCを閉じた。バタンと音が鳴る。

「どうしたんですか?」

「見たか?」

「いえ、内容までは……」

「ならいい」

 僕は遠野に何も言わず、できる限り速くスマホからGoogleドライブにアクセスして当該ファイルを削除した。だが、これはファイル名からして退避のもの。つまり、どこかに正式なモノがある。それを探し出さなければ。

「遠野。お願いだ。この件は深掘りしないで欲しい」

「分かりました」

 遠野は素直に従った。僕の真剣さが伝わったようだ。僕の使命は今、できる限り早くファイルを抹殺することになった。かなり大変な作業になるだろう。明日やろうの馬鹿野郎な僕でも、これには本気を出さなくてはいけない。

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