表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
長女アイラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/50

「流行病のことですか?」

「ああ、その通りだ」


 かしこまった話し方をするハミル。

 部屋の壁は薄いから、会話は外の兵士に聞かれている。

 いつも通りに話せないもどかしさを感じたのか、互いに小さく微笑む。


「君も知っている通り、クレンベルは現在感染症の流行期に入っている。毎年のことではあるが、今回の病は一味違う。研究班にも動いてもらっているが、どうやら全く別のウイルスに変化しているらしい」

「全く別?」

「そうだ。つまり、薬も従来通りのタイプでは効果がない。今は急いで、新種のウイルスに対抗できる薬を開発してもらっているが……」

「間に合っていない、ですね?」


 ハミルがこくりと頷く。

 この間に聞いた話より、感染症の強さが増している感じがする。

 私は事の重大さを再認識しつつ、彼の話に耳を傾ける。


「進行も早い。子供やお年寄りは免疫力も低く、一度罹患してしまうと命の危険が伴う。すでにクレンベル内だけの死者が百を超えてしまった」

「そ、そんなにたくさん?」

「ああ、これは由々しき事態だ」


 ハミルの深刻そうな表情が、全てを物語っている。

 私が考えていた以上に、クレンベルの街は良くない状況に陥っているようだ。


「城の者たちも頑張ってはくれている。だがはやり時間が足りない。このまま放置すれば、さらにたくさんの死者が出てしまう。そこで君に協力してもらいたいのは、感染してしまった人々の治療だ」


 やっぱりそうか。

 内容は話される前から察していた。

 治療法の確立されていない新種のウイルスによる感染症。

 進行が早く、免疫力の低い者ならわずか数日で死に至る。

 とても危険な病だけど、聖女の祈りなら癒すことが出来る。

 

「薬が完成するまでの間で構わない。街の人々を癒し、一人でも多くの民を救ってほしい」


 ハミルはそう言って頭を下げた。

 王子が一般人に頭を下げるなんて、普通はありえないことだ。

 たとえ彼でも……それほどに切迫した状況だというもの。

 神にも縋りたい気分なのかもしれない。


「わかりました。これも主のお導きでしょう。私の祈りが人々を救うのなら、喜んでお受けいたします」

「ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていたよ」


 ほっと安堵した表情を見せるハミル。

 この時、偶然にも考えていることは一致していた。


 この悲劇はチャンスに変えられる。

 人々を救い導いた正真正銘の聖女――

 立派に役目を果たせば、私はこの国にとって必要な存在として認識されるかもしれない。

 メルフィス王子の言っていた実績にも数えられるだろう。

 このまま放っておけば、街中を呑み込んだ悲劇となってしまう。

 だから、私の力で喜劇に変えてしまおう。

 その先にある未来を掴むために。


「では頼むぞ、聖女アイラ」

「お任せください。ハミル王子」


 目指す場所は同じだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日からハミルの指示に従い、大聖堂で患者の受け入れが始まった。

 至近距離の接触による感染拡大を防止するため、普段通りの相談や懺悔は一時的に止めている。

 それなのに……


「こ、こんなにたくさん?」


 ミスリナが驚くのも無理はない。

 大聖堂が開く前から、すでに今までの倍以上の人たちが列を作っている。

 これはこれで良くない光景だ。


「聖女様、少し早いですが」

「はい。皆さんを中へ」


 私は気合を入れ直した。

 扉を開けた途端、聖堂へ人が流れ込んでくる。

 聖女の力は万能だけど、全能ではない。

 癒しの祈りを施せるのは、一度に三人までが限界だ。

 加えて私自身の体力も消耗する。

 定刻である夕方まで、押し寄せる人々に祈り続けなければならない。


「お願いだからもってね」


 私は自分にしか聞こえない小さな声で、自分自身に訴えかけた。

 そして正午。

 一旦休憩を挟み、午後に備える。


「ふぅ……」


 さすがにきつい。

 一日に何人も癒した経験はあっても、この人数は生まれて初めてだ。

 何より違うのは、私一人だということ。

 前の国で聖女として活動していた頃は、妹二人とも負担を分け合っていた。

 その大切さが身に染みる。

 そして、やっぱり寂しいと思ってしまう。

 修道女たちやユレスさんも一緒だけど、この大変さを共有できるのは自分一人だけだ。

 

 こんな時こそ、私は思ってしまう。

 ハミルに会いたいと。


「……駄目ね、私は」


 何のために私はこのお願いを引き受けたの?

 街の人たちを、ハミルを助けるため。

 その先にある未来を掴み取るためでしょ。

 だったらこんな所で弱音を吐いている暇はないわ。

 まだ一日目。

 これが明日も明後日も続く。

 もしかすると、もっと先まで続くかもしれない。


 パンと自分の頬をたたく。


「頑張らなくっちゃ!」


 午後のお務めに向う。

 すでに待っている人たちも多く、残り時間で全員を見ることは難しい。

 絶え間なく、休みなく次へと並んでいる。

 私はひたすらに祈りを捧げ続けた。


ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ