表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
次女カリナ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/50

「博士」

「何か見つけたか?」

「はい」


 引き出しの中に、紫色の押し花を見つけた。

 よく見ると、一緒に紫色の何かが入った小瓶もある。


「ほう。あまり見かけない花だな」

「そうですね。でも関係があるか……」


 紫色の花、小瓶。

 それを見て、事前に調べておいた情報の一つを思い出す。


紫蓮草(しれんそう)……」

「ん?」

「この村の人たちが普段薬として使っている薬草です。紫色の花をつける草で、すり潰して他の薬草と混ぜて使っていたと聞きました」

「なるほど、だが紫蓮草か。あれは普通に薬草だ。毒性は持ち合わせていない……ただ、無関係ではなさそうだな。他の民家も調べてみようか」

「はい」


 一件ずつ、民家の棚や机を調べていく。

 すると、全ての建物から同じ小瓶が見つかった。

 どうやら常備薬として重宝されていたようだ。


「同じですね」

「いや……」


 わたしには全て同じ小瓶に見える。

 だけど博士は、その違いに気づいたようだ。

 小瓶の一つをじっと見つめて言う。


「なるほど、そういうからくりか」

「博士?」

「この二つをよく見ろ」

 

 博士は二つの小瓶をわたしに見せた。

 どちらも紫色の液体が入っている。


「わからないか?」

「……色の、濃さ?」

「正解だ」


 二つの小瓶に入っている液体。

 色は同じだが、その濃さがわずかに異なる。


「右は紫蓮草から作られた薬だが、左は似て非なる毒草――紫吞花(しどんか)で作られている」

「紫吞花、ですか?」

「見た目がよく似た毒草だ。同じ環境下で生えるから、素人はよく間違える」

「じゃあ村の人たちは、その二つを間違えて?」

「おそらくな。見た目で二つを判断することは不可能。判断したければ、直接摂取するしかないが、その時点で毒が回る」


 そう言いながら、博士は自分のカバンから小さな魔道具を取り出す。


「それは?」

「毒素を検出する魔道具だ。こういうこともあろうかと、念のために持ってきておいて正解だったな」


 博士が小瓶を開ける。

 色の濃いほうを一滴だけ、その魔道具に垂らす。

 すると、魔道具が毒素を検出し、赤い光を放った。


「当たりだ」


 小瓶の薬から毒素が検出された。

 博士の予想通り、村の人たちは二つの草を間違えていたらしい。

 薬だと思って飲んだものが毒だったなんて、笑えない冗談だ。


「さて、では次へ行くか」

「次? もうこれで終わりでは」

「何を言っている。本当に周辺で採取できるのか、確認しなくては終わらない。もしもこれが外部から持ち込まれた物だったのなら、話はもっとややこしくなるぞ」

「確かに……」

「わかったら行くぞ。日が沈む前にクレンベルへ戻りたいからな」


 博士はそそくさと家を出て行く。

 わたしは遅れないように後に続いて走る。

 博士が向かったのは、村を覆っている森の中。

 道という道はなく、草木をかき分けて進まなくてはならない。


「あの……こっちであっているんですか?」

「ああ」

「何でわかるんですか?」

「周りを見ろ」


 見ても森の風景。

 何の変哲もない森の緑だ。


「村の者は薬としてあれを使ってたのだろう? ならば自分たちで採取しているはずだ。普段から行き来している道なら、その痕跡が残る。僕はそれを辿っているだけだ」

「なるほど」


 そうこう言っている間に、開けた空間に出る。


「わぁ」

「ほう、中々に絶景だな」


 そこに広がっていたのは、一面紫色の花のじゅうたん。

 紫蓮草がびっしりと咲いている。


「この中に毒草が混ざっているのか……」

「博士?」

「これが一番早い」


 マスクを外し、徐にしゃがむ博士。

 一輪の花を千切り、なんと切り口を……


 舐めた。


「甘いな」

「なっ……何してるんですか?」

「おう、そんな大きな声も出たのだな」

「そんなこと言ってる場合じゃないです! 毒は?」

「心配いらない。これは紫蓮草、茎が甘いのがその証拠だ。ちなみに紫呑花は苦いらしい」


 平然とした表情で説明する博士に、さすがのわたしも声を荒げる。


「らしいじゃないですよ! もしも毒だったらどうするつもりだったんですか?」

「安心したまえ。僕には君がいる」

「えっ?」

「もしも何かあっても、君がいれば死なない。一人なら僕だってこんな無茶はしないさ。君が一緒にいるから出来ることなのだよ」


 それは信頼なのだろうか。

 ちょっぴり納得のいかない理由だけど、やっぱり嬉しいから始末に負えない。

 博士の言葉はまっすぐで、穢れのない本心。


「さっきの魔道具を使えばいいじゃないですか」

「あれは植物には使えん。手っ取り早くが最優先……うっ」

「博士!?」


 どうやら当たりを引いてしまったらしい。

 止める間もなく一舐めして、博士は膝をついてしまう。


「当たり……だな」

「しっかしりてください! 今治療しますから」


 わたしは久しぶりに祈りを捧げた。

 どんな毒でも、祈りの力なら癒すことが出来る。

 

「ありがとう。君がいてくれて良かったよ」

「そ、そんなこと言っても、勝手に無茶したことは同じですから」

「そうだな……だが、お陰で僕は生きているよ」


 素で言っている。

 博士はお世辞を言わないから。

 これだから本当に……


「馬鹿ですね」


 放っておけない。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ