第七十五話 「血みどろの情動」
そろそろ新作も書きたいなぁって思う今日この頃です。
「チート持ちで神様転生したけれど、ハーレム無双もしないで一人娘を育て上げた転生者の話」とか需要あります?
「――『百鬼刃・射撃』」
「蓮上!?」
「っ、アハッ!」
盾として前に出ている迦具矢を押しのけて蓮上がペルセフォネへと刺突を放つ。
蓮上からペルセフォネまでの間の距離は大太刀の間合いから随分と離れていたが、刺突の瞬間大太刀の刃が物理的に伸びてペルセフォネの右肩を切り裂いた。
肩口を深く切り裂かれたペルセフォネは痛みに一瞬顔を顰めたが、次の瞬間には痛みさえ喜ばしいとばかりに喜色満面の笑みを浮かべていた。
『百鬼刃』
蓮上が使ったこの剣技はスキルによるものではなく『白木流』という古流剣術流派の技だ。
この白木流はイズメや永長が通う剣術道場の流派であり、同時に白木流の一門は赤松家とは親戚の間柄でもある。
蓮上自身は白木流の剣技を学んでいなかったが何度かイズメや永長の稽古風景を見学した事があり、ダンジョン探索の際にイズメが実際に使用している所を何度も見て来た為、その動きや術理を把握していた。
現在蓮上の肉体はエウロパの神話スキルの影響でスキル・魔法・奥義スキルの使用が出来なくなっている。
また、『朱雀羽織』も手放している為、蓮上に巣食う鳥の怪異が力を発揮する為に適した依代も無い。
そこで現在蓮上の肉体の八割方の制御権を持つ鳥の怪異は、スキルに代わる攻撃手段としてこの剣技を使用しているのだ。
『白木流・百鬼刃』は流派の開祖が百の鬼を討伐する為に考案したとされる百の型を持つ剣技だ。
実際に開祖が鬼と戦ったのかは定かでは無いが妖魔が実際に存在しており、その妖魔と戦う事のある永長が率先して学んでいる以上あながち眉唾でも無いと言える。
対人外の技を多く持つこの剣技は、人間では無い存在に対して極めて有効的であった。
それを理解している鳥の怪異は『黒百足』の形状を変化させることで大太刀を作り出し、この技を自在に操っていた。
そんな事情を知らない迦具矢は『蓬莱鉱山』での戦いでは見られなかった蓮上のバトルスタイル見て驚くのと同時に、戦闘特化型の女神の本能としてその剣技の術理を学習して行く。
一方でペルセフォネはそもそも剣技などに対する興味は微塵もなく、再び自分を切り裂いた事で刃に付着した血を蓮上が舐め取っているのを見て悦びに身を震わせていた。
「嗚呼、素敵。そんなに私の血を気に入ってくれたの? もっと食べて良いのよ。だから、貴方の事ももっと食べさせて!!」
自身の血を啜られる光景を見て、それでもペルセフォネには恐怖も嫌悪も存在しない。
あるのはかつて無い多幸感と、それをもっと感じたいという欲求だけだ。
生まれながらの捕食者であるペルセフォネにとって自身以外の全ての存在は餌でしか無く、姉妹でさえもそれは変わらない。
自覚こそなかったが捕食者である自分と被捕食者であるその他の全てで出来たペルセフォネの世界は、酷く孤独なものであった。
そんな中現れたのが自身を捕食しようとする存在、自分と同じ捕食者である蓮上だった。
蓮上の行動は自分一人で完結して居たペルセフォネの世界に土足で踏み入れるものであり、ペルセフォネに自己以外のその他大勢では無く、明確に自分と同格な他者の存在を認識させた瞬間でもあった。
故にこそ、ペルセフォネは狂的なまでに歓喜した。
一人ぼっちの世界に現れた蓮上を、狂おしいまでにペルセフォネ求めているのだ。
ペルセフォネは――いや、ペルセフォネを含めた女神姉妹たちは全員が共通して生まれながらに孤独感を抱えている。
地球上にダンジョンを生み出した大いなる存在によって製造された彼女たちは人間など尋常の生物とは違い、生まれてから現在に至るまで迦具矢と言う例外を除いて一度たりとも保護者からの親愛の情も庇護されることの安心感も得た事が無い。
もちろんそんなものを必要としない生物も多々居るが、人間に極めて近い情動を持つ彼女たちにとって一人ぼっちで生まれ誰に守られる事も無く生きて行く事は、自覚は無くとも恐怖と不安を募らせる物だ。
だからこそ姉妹の中で誰よりも早くそれを得た迦具矢は特別であり、共感能力でそれを感じ取ったメーヴは蓮上の存在を求めてやって来たのだ。
女神たちは本能的に自分を愛し、守り、育んでくれる誰かを求めている。
ペルセフォネですらそれは例外では無く、故にこそペルセフォネは蓮上の血肉を最高の美味と感じているのだ。
もしも蓮上が迦具矢と出会わなければ迦具矢はこれ程感情を発揮する事は無く、メーヴは自身の臆病さを振り切って誰かを守る事も無かっただろう。
蓮上の存在は、否が応でも女神たちの在り方に大きな影響を与えるのだ。
一方でペルセフォネの場合はその影響力が可笑しな方向に働いてしまっている。
庇護者を得た迦具矢、庇護者を求めたメーヴとは違いペルセフォネは蓮上を対等の存在として求めているのだが、その求め方に問題があり過ぎた。
自身が捕食した相手である蓮上から逆に捕食され返されたことで同格であると認識したペルセフォネは、あろうことか相互に相手を捕食する事が対等な存在である事の証明であると考えてしまっていた。
姉妹である迦具矢やメーヴであっても理解し難い考えだが、ペルセフォネにとってはそれが絶対の真実であった。
故にこそ、ペルセフォネは蓮上に襲われている現状を心から歓迎していた。
「――『百鬼刃・接撃』」
「ぐっ、良いわ! もっともっと私を求めて!!」
「! 傷が……」
迦具矢の後ろに居たはずの蓮上の姿が一瞬で消え、次の瞬間にはペルセフォネの背中を袈裟切りに切り裂いていた。
瞬間移動に等しい行いでありながら一切の魔力も用いないスキルでも魔法でも無いただの剣技を見て迦具矢は瞠目し、斬りつけられたペルセフォネはまるで堪えた様子も無く狂笑を浮かべ続けている。
それどころか、大きく切り裂かれた背中の傷も先程刺突を受けた右肩の傷も、迦具矢に切り付けられた無数の傷や拉げていた左腕さえいつの間にか完治していた。
その驚異的な回復力に目を見張った迦具矢は、『仏の御石の鉢』の解析によって超速回復の絡繰りを看破した。
奥義スキル『星の如き者』
それこそがペルセフォネの超速回復のタネであり、ペルセフォネの胸から放たれている青白い光の正体であった。
コピーこそまだ完了していないが、現在までの解析によって『星の如き者』という名称、そしてこの奥義スキルが蓮上の持つ『寵愛されし者』と同じく『神龍シリーズ』に由来する物であることを迦具矢は看破した。
また、能力の全容はまだ明らかになっていないが『寵愛されし者』と同じく複合的な効果を持つ奥義スキルである事と、判明している効果としては無尽蔵とも思える量の莫大な魔力を心臓から生成し、回復力を含めた全身の強化を行った居る事が判っている。
魔力が無尽蔵であるというだけでも脅威であるが、更に判明していない能力があると判っている以上一切の油断は出来ない。
ともすれば、迦具矢と蓮上が揃っている現状でさえも纏めて敗北する可能性も十分にあるのだ。
迦具矢は何とか蓮上と協力してペルセフォネを倒したいと考えていたが、肝心の蓮上が共闘不能な状態だ。
無表情なまま襲い掛かる蓮上とそれを笑みを持って迎え入れるペルセフォネ。
二人の戦いは刻一刻と激しさを増し、迦具矢が下手に割り込めない状態となっていた。
「アハハハハハ!! 私の血は美味しいかしら? 今度は貴方の血肉を味合わせて!!」
「――『百鬼刃・|曲撃《きょくげき》』」
「アハハ! 器用ね!」
幾度も切り裂かれ、しかし片っ端から回復する事で結果的に無傷となっているペルセフォネがお返してばかりに紫紺の大鎌を振るう。
それに対し蓮上は鞭の様な軌道で振るわれる剣閃で持ってそれを迎え撃ち、逆にいくつもの傷をペルセフォネに刻み付けて行く。
だがそれさえもペルセフォネは頬を赤らめながら嬉しそうに受け入れた。
◇
目まぐるしく戦況は変化し続ける。
だが、何事にも終わりはやって来るものだ。
エウロパの襲撃に端を発した真夜中の攻防は、意外な形で幕引きとなった。
裏設定ですけど「もし仮に迦具矢が蓮上と出会っていなかった場合、女神姉妹は一年以内に全員死亡していた」って話どっかで出しましたっけ?
女神姉妹は公主一人を除いて人類に対して友好的でも敵対的でも無いニュートラルな状態が基本なんですけど、能力の特性的に人類の敵になっちゃう子が何人かいるんですよね。
奥義スキル持ちを中心に探索者なんかを捕食するペルセフォネとか、魅了効果の感染爆発で複数の国家を傀儡にするメーヴとか、数千万人単位を覚める事の無い夢に引き摺り込む后娥とか。
蓮杖と迦具矢が出会わなかった場合、最終的に公主以外の姉妹全員が人類と敵対した上で討伐され、その後人類に協力して最後まで生き残った公主が姉妹達の後を追って自決する為、割と本気で救いが無いです。




