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矢田前が運転する車が人をはねたと警察から連絡が入った。
矢田前 国広 28歳 自動車運転過失傷害罪
唐津は直ぐ様警察署に出向き矢田前に会いに行った。
簡素化された白い部屋打ちに足長テーブルが置かれ、その前に矢田前が座っていた。警察官ならびに事故の被害者関係者が隣の部屋で聴取を取るなか、唐津は警察官の一人に声をかけ部屋へと入っていった。
「矢田前、、お前、、」
「すいません 申し訳ありません、、」
涙をためかすれた声で謝る姿に唐津は口を開くも言葉にすることができず強く目を瞑った。
「暫くは ゆっくりとしてろ」
言葉を飲み込むように伝え、唐津は帰りがけに会社に連絡を入れた。俊はその連絡を受け唐津と事故現場まで見に行った。
目通しのいい十字の交差点。その上に歩道橋が差し掛かっていた。何かに目を隠されるような看板も無く、歩道と車道も分離システム信号機により人と車が接触するような場所ではなかった。唐津と俊は道路に残るタイヤの跡を探したが幾つものタイヤの跡にこれといったブレーキ跡を見つけるのは素人目にも無理だった。その後歩道橋に上がり、警察署で聞いた話を元にその場を眺めた。車は駅方向から市街地方面へと向かい、進行方向右に流れるように傾いた。そして勢いそのままに反対車線のガードレールを押し倒すように突き破り歩行者と接触。被害者は、幸いにも左足を骨折するだけで命に関わることはなかった。
唐津は肩を落とし駅まで送るよう俊に頼み、そこで待ち合わせていた男と歩いていった。
場内で働く圭人らは休憩中、喫煙場所で話をしていた。
「ちょっと 聞いていいですか?」
「ん、、なんだ?」
「コンクリート車って そんな簡単に倒れるんですか?」
蒔は何も知らねーんだなと呆れるように笑い、コンクリートブロックを使い圭人に説明しはじめた。
一般的な車と違い、ダンプ車などの運搬を目的とする車には昇降サスペンションがつけられている。それはボタン1つで昇降させることが出来る手動式とシステム的にプログラム内臓されているものがある。それらは車体の後ろを上下動させるために用いられ、それらを固定させる足、すなわち車体を浮かばないようにする土台が車体下に備え付けられている。そのため簡単には倒れない構造となっており、仕様メーカーや製造元で多種多様の作りにはなってはいるが大概は同じに付けられ、コンクリート車やタンク車なども例外にもれず同じ使用となっている。唐桶工務では土台を備えた手動式回転ミキサー車を用いている。
唐津は駅で待ち合わせていた営業の国崎と事故車を見に行った。
国崎 透 48歳 既婚 営業種。
事故物件として扱われる車は、警察署が管理し事故の詳細を得るために幾度と無く調べあげ保管する。それは事故の大小問わず一時的になされる。
寒空の下、崩れ壊れた車から事故の大きさが手に取るようにわかった。運転席側は潰れるようにへこみ、後部にあるミキサーは穴が開くように傷がついている。フロントガラスは内へと飛び散り、それは話以上の衝撃だった。
国崎と唐津はその数日後、事故車の始末書類及び廃車書類に判を押し関連する物事の行方を話あった。
そしてまた数日後、警察官が会社に聴取を取りに来た。それは事故を起こしたことにより会社全体への就業状況等の取り調べに他ならなかった。従業員は一人一人事務所に作られた簡易個室へと呼ばれ、日々の労働状況を事細かく調べあげられた。そして警察官から作成された事故詳細を改めて出された。
交差点付近、余所見運転中誤ってハンドルを切り、センターブロックと接触。バランスを崩しブレーキを踏み立て直すもタイヤがロックしそのまま横転。そして対車線へと滑り込み人を巻き込む。運転手 矢田前国広 自動運転過失容疑 及 自動運転過失傷害 の罪
矢田前は全治三ヶ月。打撲に骨折、むち打ち。そして免許停止になった。唐津は罰金を肩代わりし、被害者への慰謝料を支払った。当面の間謹慎処分となる矢田前は、復帰後運転種から場内種へと移動を命じられた。
唐津は肩を落とし、圭人ら従業員も皆一様に口を閉ざした。けれど、何人かの従業員は吉葉の娘、久恵の言葉を思い出し、当て付けのように噂し始めた。
ー殺されたんじゃ、、、ー
確証となるものがないものほど人は何かのせいにしたがる。それは日々の災いを晴れた健やかな日々にするために。
ー誰かの仕業か、、、ー
くしくも事故を起こしたその日は、吉さんが亡くなった月命日と同じ日だった。
それから半月後、圭人は蒔に誘われ夜の店へとやってきた。
後から蒔は笑いながら話してきたが、その当時立て続けに起きる不幸な出来事に圭人を心配し、気晴らしにでもなればと思い誘ったらしい
圭人は蒔に連れられ雑居ビルが並ぶ繁華街へと足を運んだ。町行く人達は赤い顔にフラフラと歩き、チラシ片手に声をかけては何処かに案内されている。ネオンに彩どりを見せ並び立つビルからは光と音が際立ち、そこに集う人々を呼び寄せていく。蒔はその繁華街のある一画の路地に入り、チカチカと光看板があるビルへと入っていった。手すりの無い暗い階段を上り二階踊り場で足を止めた。目の前にある簡素な作りで作られた扉にはようこそ中へと英語で書かれ、中からはリズミカルな音楽が漏れ聞こえていた。
「ほらいくぞ」
扉の前で不安そうに見上げる圭人を蒔は引っ張るように体を押し上げ、店の中へと放り入れた。
耳を割くような沈む音が体の奥に突き当たり、甘ったるい匂いが鼻をかすめてくる。じわじわと腹を殴られるような音は、頭の中をかきむしるように走り回った。
「蒔さん なんですかここ?」
初めて体感する音に耳を押さえる圭人。蒔はた飲み物の入ったグラスを圭人に渡した。圭人は言われるがままそのグラスを持ち、一気に口に流し込んだ。
「、、お、おぇぇぇ、、ッガハッゲホ」
「ひゃひゃひゃひゃ そりゃそーなるわ」
蒔は笑いながら圭人のグラスに注ぎ直し、飲み方を教えた。
赤黒いカーテンが窓を隠し、丸いボックス席が淫らにならんでいる。
圭人は何がなんだかわからないまま案内されるソファーに座り、渡されたグラスに口をつけた。
「にがっ、、、」
舌をだし手で口を拭きそのまま前のテーブルに置いた。耳を割くような音は次第に落ち着きをみせ、店内の明かりが薄暗くなっていった。靄のように流れる煙草の煙が目の前を見えなくさせていく。
「何がはじまるんだ?」
圭人は静まりかえる空間に辺りを見渡した。必要以上に静まる店内。急激に寒くなる温度。二人がけの赤いソファーに座らされた圭人は頭の中がぐにゃぐにゃと揺れていた。そんな圭人をよそに異様にも暗くなる店内は、数分後鳴り響く声とともに輝き放った。
レッツショーターイム
勢いよく弾かれた言葉は一気に音を騒がせ、薄暗かった照明はきらびやかな光となった。店内の中央に吊るされるミラーボールは光を集め鮮やかに回りだした。赤緑青、、と様々な色がフラッシュするようにチカチカと混じりあい、腹を殴られるような音がそれ以上に下から突き上げる感覚になっていった。
「さて そろそろいいかしら?」
背後から細く冷たい腕が圭人の首を滑らし、耳に吐息がかかるように小さく囁いきた。圭人は後ろから漂う甘い声にに驚くように振り向いた。
「だーめ」
その声は振り向く顔を胸で押さえ、かぶさるようにもたれ掛かってきた。
部屋の音は威圧するように流れ回り、まるでここにいるのは一人なんじゃないかと思えるほど、周りを見せなくさせていった。
細く冷たい腕は圭人の首を通り、胸から腹へと下りていく。
「ひゃっ」
「あらあら 敏感なのね」
耳元で囁く口は圭人の耳を絡め、首筋へと下りていった。腹までいった腕は胸、腹と撫でるように繰り返し肌を歩くように指先を動かしてくる。そしてゆっくりと圭人の下腹部へと滑るように雪崩れ込むと、ぎりぎりのところで手を離した。
「えっ、あ、、あ」
「まだよ」
耳元で囁く女性はそう言うと圭人の肩に手を置きソファーを避けるように歩いてきた。圭人はぐにゃぐにゃとする世界に身を委ね、姿を現す女性に目を奪われていた。
「、、、準備はいい?」
横から圭人の顔に吐息を吹きかけ今一度耳元で囁いた。頬を合わせるように重ねる甘ったるい匂いとその声に、圭人は何とも言えない心地に自然と頷いた。
「、、、はい」
女性は笑みを浮かべ圭人の下腹部に股がるように上に乗り、胸を顔に押し当て音楽に合わせるようにゆっくりと体を動かし始めた。上下左右と動く体は下腹部を締め上げるように押し付け、女性の吐息に圭人の呼吸が合わさるように、二人で一人のような感覚に次第に圭人も動きはじめる。型にはめるように、型を合わせるように互いの体は重なり合っていく。
「、、、またね」
女性は圭人の鼻に唇をあて、軽く頬を触り消えていった。
目の前がまだチカチカとするなか圭人の頭はボーッとし、下腹部だけが熱くなっていった。惑わされる失態、気恥ずかしい思いに目を回し、蒔はここぞとばかりに笑いだした。踞るように前屈みになる圭人の肩に腕を回し、蒔は次行くぞ次と大手を上げて繁華街へと戻っていった。
それからというもの、蒔は何かと圭人を誘い連れ回していった。




