野生の肉体
人間は本来、野生の中に暮らしていました。
我々の遠い祖先は、霊長類と分類されている生物の中から他とは異なる身体機能の発達を経て、現在の我々の大本となる肉体を作り上げたわけです。直立二足歩行の始まり、といえばわかりやすいでしょう。
しかし彼らは二足歩行になったと言っても、身体の基本的な機能は野生的な色彩を強く残していました。
それもそのはずです。まだ強力な武器も作れず建築もできなかった頃、彼らには身を脅かす敵がたくさんいたのです。
熊や虎、猛禽類ですら彼らの脅威になり得たでしょう。
彼らはそういった脅威から自らの力で身を守らなければなりませんでした。
そしてまた、彼らは自分の力でその日の糧となる獲物を捕らえなければならなかったのです。
ですから彼らの身体は迅速に動き回り、強靭な力を発揮し、柔軟に身を捻り、まさに自在に身体性を発揮する必要があった。そのために最適な形で肉体は作られてきたのです。(厳密には最適な形で発達したものが生き残ってきた、と言えるかもしれません)
生存に必要のない機能は淘汰されたはずです。
そして彼らの肉体はほとんどそのままの形で私たちにまで伝わっているのです。
なぜなら人間の祖先が野生に暮らしていた時間は、われわれが文明を築いたここ何千、何万年程度の歴史とは、比べるべくもないほど長い時間だからです。
しかし、私たちの生活はその頃から比べて激変しているのです。
多くの現代人は、もともと人間に備わっていたはずの身体機能のほとんどを持て余してしまっています。
使われなくなった筋肉や神経は、形こそは我々の身体にしっかりと残っていますが、自分ですらその働き方を忘れてしまっているのです。
まさに忘我、自失の状態と言えるでしょう。
さて、こういった前提を踏まえた上で、我々の身体に起こっている諸問題について考察していこうと思います。