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今日もゆったりゲームライフ

最終回です。

皆さんご愛読ありがとうございました。

「戦争が始まったんだって」


 やって来るなり物騒な事を言い出したのは店の常連さんだった。


「戦争って何処と何処が?」


 まさかこの世界でも戦争が起きるとはなぁ、そりゃあ人間が二人以上集まれば諍いが起きるのは仕方ないけど。


「ナカ国とコメ国だって。最近リアル世界から来た人が言ってたんだよ」


 ああ、なんだリアルの話か。


「ナカ国とコメ国か、あそこはこっちに来る前から仲が悪かったから起こるべくして起こったって感じだな」


「確かに」


「で、戦況はどうなわけ?」


「あー、こっちに来た人も細かい事は知らないらしくって、わかってるのはこのリトルガーデンに移住する人が増え過ぎたせいでリアルの生産力が大幅に減ったのが原因らしい。

 需要に対して供給が圧倒的に足りないんだと、なにしろこっちに来た住人の大半は向こうでは搾取される側の人間ばかりだったからな、何処の国も働く手足がいなくなって頭ばっかりになったからでかい国ほど混乱がひどいらしい。さらに言うと2国間の戦争のドサクサで周辺の国が略奪されたり爆撃されたりの被害を受けた所為でカンカンに怒って被害国同士で連合を組んでさらに戦火は拡大、不安に思った人達が巻き添えを恐れて電脳世界に逃げてきたわけだ」


「泥沼だなぁ」


 そうきましたか。なんかそれも運営の仕込みなんじゃないかって疑っちゃうなぁ。


「だから新規参入者がトラブルを起こさないように治安維持組織の連中はてんやわんやなんだってさ」 


 治安維持組織、いわゆる警察であり役所だ。

もともとそんな組織は存在しなかったが人が増えればトラブルは発生する。

だから経験者と志願者が協力して自警団をさらに拡大した組織が出来上がったのだ。

 とはいえ全員が全員彼らに友好的なわけでもなければ彼らの作ったルールに従う義務もない。

だから彼らは会員制をとることにした、会員になった者を優先的に守りその代わりに定期的に活動費を提供する。活動費の金額によってランクが分かれ優遇率が上がるそうだ。

まぁヤクザと政治家を足したような感じかな……うん普通に政府っぽい。

明らかに将来が怖い組織だがその時にはまた別の組織ができるのだろう。


「それでその新人さんにはどんな対処を?」


「とりあえずバックアップデータを作る事を教えてからダンジョンで実践を積ませるみたいだ」


まんま会社の研修だな、組織が大きくなればみんな同じようになっていくってことか。


[しっかし戦争かぁ、キュベレは大丈夫なのかね? 戦争のドサクサに破壊されたりしないのかな」


キュベレ、衛星軌道上に作られた巨大なパソコン衛星であり、その中で俺達が暮らすゲーム世界リトルガーデンが稼動している。


「それだけどメッセージボックス見てみな」


「メッセージボックスを?」


ステータス画面を念じると正面にステータスがポップアップされる。

その中のメッセージボックスを見ると運営からの連絡が入っていた。


「なになに?」


『サーバー移転のお知らせ


 現在リアル世界では、ナカ国とコメ国との戦争が始まり周辺国にも戦火が広がるという大変痛ましい情勢となっております。

つきましては戦争による被害を回避する為にキュベレ1号機、2号機、3号機を火星の衛星軌道上まで移転することとなりました。

皆様には大変ご迷惑をおかけいたします。

 なお以前から皆様に懸念されておりました太陽風により電子機器のトラブルですが、当社のキュベレは電磁シールドを完備しておりますので太陽風の影響を受けることはございませんことを合わせてご報告させていただきます。


それでは今後とも弊社のリトルガーデンをお楽しみください。


株式会社ハコニワ

営業2課 スズキ シメタロウ 』



「サーバーの移転か」


「火星とは驚きだな、そういや風の噂でキュベレは深宇宙探査用の巨大スペースコロニーって言う噂があったが、案外本当かもな」


確かに電脳世界の住人なら外宇宙の過酷な環境も関係ないしな。


「まぁでも俺達には関係ないだろ」


「たしかに」


何しろここはゲームの世界、リアルはもう遠いケーブルの向こうだ。

話が途切れ店内が静寂に包まれる。


「店長いるか!?」


ドアを勢いよく開けて客が飛び込んで来たのは冒険者グループ『レッドフレイム』のリーダー、ホムラだ。続いて他のメンバーも入ってくる。


「どうした? そんなに慌てて」


「おう! 聞いてくれよ!! 実はダンジョンの狩場で素材集めをしてたんだけどさ、なんとそこで超レアモンスターと遭遇したんだってばよ!!」


「ほう、一体何と遭遇したんだ?」


「じゃっじゃーん!! 見ろ! これが超レアモンスター『ルビーフレイム』だ!!」


「「おおおおおおおおおぉ!!」」


テーブルに置かれたのは炎のような形をした赤く透明な彫刻だった。


「コイツがルビーフレイム……」


「俺、はじめて見た……」


常連が驚くのも無理はない、ルビーフレイムはサファイヤウォーター、エメラルドウインド、シトリンソイルと合わせた4大宝石モンスターと言われる超希少種だ。

強力な属性攻撃を行い特殊攻撃でしか倒せない厄介なモンスターだ。

素材として使えば超上級装備を開発できるので買い取り価格も高騰中だ。


「どうするんだ? 売るのか?」


「素材としてほとんど使う予定だよ、全員で炎系の上級装備をそろえる!! 俺達レッドフレイムの野望にまた一歩近づいたぜ!!」


相変わらず暑苦しい集団だ、新人の頃初めてウチの店にやってきた時もこんな感じだったなぁ。

あの頃は痛々しい厨二集団だと思っていたが、まさかトップランカーに名を連ねるとはオタクの執念恐るべし。


「つまりお前ら自慢しに来ただけか?」


いい度胸だ。


「いやいやいや、素材として使うけどよ、まぁちょっと位は端材が出るじゃん、だから店長買わねぇ?

小さな欠片でもあれば店にハクがつくだろ?」


ほう、面白い提案だ。


「店長には世話になってるしな、どうよ」


ふむふむ、確かに小さな欠片でもレアモンスターの素材なら欲しい奴等はいるだろう。


「わかった、買いとろう。現金が良いか? 商品と交換が良いか?」


「さっすが店長! 商品で頼むぜ! レッドフレイムとの戦闘でマジックポーションが切れちまってさ、中級を買えるだけ頼む!!」


「中級なら12本、おまけで初級を4本つけてやろう」


そう言ってメンバーの人数分の初級マジックポーションをつけてやる。


「さっすが店長、商品との交換をしてくれるのはこの店くらいだから助かるぜ!!」


「商品と交換してもらったほうがちょっとだけレートが良いもんね」


ホムラからルビーフレイムの欠片を受け取る、欠片は細長く20×5cmくらいの大きさだ。

俺はレジ机の引き出しからケースを取り出しその中にルビーフレイムを入れる。


「何だよそ…れ…!?」


ケースを除きこんだ常連とレッドフレイムの面々が凍りつく。


「これ……まさか…」


「ああ、サファイヤウォーター、エメラルドウインド、シトリンソイルだ」


「持ってたの!?」


「お前らみたいに端材の買い取りを頼みに来る連中もいるんでな。で、これで4属性全てそろった訳だ」


そういって俺はケースを見栄えのいい場所に飾る。


「ああ、そこいいポジションなのになんで開いてるのかと思ったらそのケースを置く為のスペースだったのか」


「そう言う事」


光り輝く4大宝石モンスターの素材の入ったケースを飾ったことによって、店のグレードが更に上がった気がするぜ。


「すっげぇ、4属性全部そろったのはじめてみたぜ」


「店長のコネパネェ」


その時だった。

ピコーンと音が鳴り俺の前にポップアップが表示される。


『4大宝石を集めた事で店の格があがりました。称号が「商人」から「希少宝石商人」になります』


「あ、クラスチェンジした」


「マジか!!」


どうやら条件を満たしたことで特殊クラスにクラスチェンジをしたらしい。


「もしかして特殊クラスですか!! どんなクラススキルを手に入れたんです!?」


特殊クラスになると専用スキルを手に入れることができる。

たとえば火属性の特殊クラスなら強力な火炎攻撃ができるようになったりとだ。


「えーとだな」


『精密宝石鑑定

 Aランクまでの宝石を鑑定しステータスを知ることができる。

 また偽装魔法などAランクまでのあらゆる宝石に関する偽装を見破る』


『宝石感知

 宝石のある場所を大雑把に知ることができる』


『宝石属性

 宝石系モンスターに対して耐性無視、防御力無視でダメージを与えることができる。

 特殊攻撃しか効果のないモンスターに対しても通常攻撃でダメージを与えられる。

 また宝石系モンスターからの最終ダメージを半分にする』


と言った所か。


「すげぇぇぇぇぇぇ!! なんだよそれ!戦闘系じゃねぇのに宝石モンスターキラーじゃねぇか!!」


「っていうことは俺達が4属性をそろえたら……」


「宝石ハンターになることも夢じゃない!!」


「よっし! お前ら!! 宝石モンスターの発見情報を集めに行くぞ!!!!」


「「「応!!」」」


即断即決、レッドフレイムの面々は来た時と同じように飛び出していった。


「相変わらず騒がしい連中だ……って店長なにやってんの?」


「ああ、ネットショップで宝石モンスターとクラスチェンジのレア情報を売りに出した、情報が拡散する前に売れるだけ売るわ」


「……商売人だね」


カランカラン


店の扉が開きいかにも新人といった感じの少年が入ってくる。


「いらっしゃい」


「あ、あの。冒険をするならこの店に行くと良いって聞いてきたんですが」


「はいはい。ウチは冒険に必須のアイテムが一通りそろってるよ」


こうして剣呑とした外の世界をよそに、

俺達は今日もゆったりゲームライフを楽しむのだった。


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