魔法の宮殿①
「……うわぁ、あったかい。アイリス様、これ、夢じゃないですよね?」
ニコの感嘆の声が、白銀の広間にひびいた。
ゴーレム・ゼノンの内部。一歩足を踏み入れた瞬間、別世界に書き換わったかのようだ。
外は瘴気と冷気が吹きすさぶ、死の荒野。
比べてこの場所は、陽だまりのような暖かさと、清浄な空気が満ちている。
「これが、ゴーレムの中……」
アイリスも思わずため息をこぼす。
王都の地下深くにあった、カビ臭い自分の部屋とは大違いだ。
「いや、ここはただの玄関だ」
突如、ゼノンの声が背後からひびいた。
驚いて振り返ると、人間の姿をしたゼノンがそこに立っていた。
「え、え? このゴーレムはゼノン、あなたなのよね? どうしてここにいるの??」
「私は、自分自身の内部なら自由にこの姿で動き回れる」
さも当然のようにゼノンが答える。
なるほど、そういうものかと、アイリスは驚きを抑え込み、冷静さを装った。
というのも、隣にいたニコがすぐに受け入れたからだ。
固定概念に囚われない子供の思考は、素直に見習わなければならない。
「さあ、奥へ。その少年の生命維持レベルは深刻だ。まずは浄化と栄養補給を行う必要がある」
ゼノンの声に導かれ、長い回廊を進んでいく。
その先には、広大な空間が広がっていた。
「……ここ、どこ? 外に、出たの?」
光が溢れる広大な空間を前にして、アイリスとニコは呆然と立ち尽くす。
それは無理もないことだった。
眼前に広がる空間は、捨ててきた王都が丸ごと入るほどに広かった。
足元には、青々とした草原が波打ち、見上げれば、光溢れる大空がどこまでも広がっている。
広大な空間の中心には、純白の石材と黄金の装飾で彩られた、壮麗な宮殿が鎮座していた。
「これは……幻覚、じゃないわね。別の空間を構築して、拡張させているの?」
「マスターの認識は正しい。ここは私が生成している亜空間だ。この環境は、マスターのために最適化されている」
頷いたゼノンが、宮殿へと招く。
美しく整えられた前庭を、アイリスは進んでいった。
「見てください、アイリス様! あの花を! こんな綺麗な花は見たことがありません!」
ニコの表情も花のように明るくなる。
たしかにと、アイリスは前庭の花壇を見回した。
花壇に咲く花は、季節に関係なく様々な種と色を飾っている。
草花の中を泳ぐ蝶もまた、地域の垣根を超えているようだった。
宮殿に到着したアイリスは、ゼノンにニコを預けた。
ニコはアイリスと共にいることを願ったが、首を横に振る。
「ニコ。私の身の回りの世話をしたいなら、まず身体を綺麗にして、食事をとりなさい」
アイリスはニコの頭を撫で、微笑みを見せる。
正直なところ、汚れた服を着ているのは構わない。
しかし今にも倒れそうなほどに痩せ衰えたニコを、傍で働かせるのは忍びなかった。
まずは、丈夫になってもらうこと。それがニコの最初の仕事だ。
アイリスの想いを丁寧に伝えると、ニコはようやく頷いた。
ゼノンに従い、宮殿の奥へ歩いていく。




