第19話 ある意味で異常事態な竜巣の森(ジェイコブ視点)
「これは現実か?」
「ええ、現実よ、あなた」
「俺の勘違いでもないか」
「勘違いでもないわね、ルーシャン」
「ああ、俺とルーシャンは、王立学院の中等部に上がってから初めてこの森へ入ったが、今までにこんなことはなかったよな?」
「ああ。毎回攻撃はされるが、これはないな。というか、こんなことがあったら、それはそれでとっくに問題になっているだろうよ」
「そうだよな。オリヴィア、君は初等部。いや、小さい頃からこの森へ、ご両親と森へ来ていただろう? その時はどうだった?」
「なかったわね。お母様の魔力に驚いて、避けられたことは何度かあったけれど」
「……さすがだな」
「まぁ、森を吹き飛ばされそうな魔力を出されたらな。俺も何回逃げたことか」
「ルーシャン、お母様に伝えておくわね」
「あ……、いや、うん。さすがリーフェア様だな!!」
「はぁ。今はこっちの話だ。皆。こんな経験をしたことはないってことだな?」
オリヴィア、ルーシャン以外についてきている者たちも頷いた。おそらく後ろの騎士たちの中にも、こんな経験をした者はいないだろう。
竜巣の森へ入って早々、こんな衝撃的な出来事に遭うとは思っていなかった。森が静かだという報告だけでも十分問題なのに、これはどう考えたらいいのか。
竜巣の森は以前言った通り、かなり危険な森だ。なにしろ森に住んでいるのは、ほとんどが力のある魔獣ばかりだからな。
だが、俺たちが森へ入るとすぐ、その強力な魔獣たちが、ありえない行動を取ってきたのだ。まぁ、誰でも構わず襲ってくる魔獣ではなく、基本的には何もなければ襲ってこない魔獣たちではあったが、それでもこの行動はおかしすぎた。
俺たちの今の状況、それは……。森の魔獣たちが、俺たちを食糧としか思わない魔獣から襲われないよう、周りを警戒しながら、目的の魔獣の住む場所まで護衛してくれているところだ。
しかも……。
『待っていたぞ!!』
『来るのが遅かったじゃないか!!』
『来ないのかと思っていたわよ! まったく、私たちをこんなに待たせて!』
『ほら、私たちが守ってあげるから、さっさと行くわよ!!』
と、何故か急かされるという。
本当に何が起きているのか。俺たちがここへ来るようになってから、今までにこんなことは1度もなく。俺たちよりずっと前から森に来ていたオリヴィアでさえ、初めての経験だという。
あまりの突然の出来事に、誰でも構わず襲ってくる魔獣たちではなかったため、すぐには攻撃しようとは思わなかったが。さすがに理由だけでも聞いた方が良いと、俺はもちろん話を聞こうとした。
が、魔獣たちの『早く行くぞ』という圧が凄すぎたため、結局何も聞けずに、魔獣たちに護衛されることになってしまった。
「攻撃してくる気はなさそうね」
「そうだな」
「しかし、このまま本当に洞窟に向かうかは分からんぞ。今のところは、洞窟方面へちゃんと進んでいるがな」
「ああ、まだ距離はあるからな」
「でも、聞こえてくる会話だと、本当に私たちを待っていたみたいね」
そう、進み始めてから、魔獣たちの様子を見ているのだが。聞こえてくる魔獣たちの会話は、本当に俺たちを待っていたという内容ばかりで。俺たちを襲うような会話は、今のところ一切していない。
『本当、やっと来たわね』
『あいつも、安心したんじゃないか?』
『まだ分からないわよ? 何でここへ来るのが遅くなったのか、ちゃんと理由を聞かないとね』
『そういえば。今回俺たちがこいつらを守りに来たけど。あいつもアレを求めていて、今回は襲わないとか言ってるらしいぞ』
『それ、本当なの?』
『子供も懐いてるしな。それだけで珍しいことだろう? それにアレだからな。自分に少しでも使えそうなら、あいつは襲ってこないさ』
『まぁ、あいつの本当のところは分からんが。他の連中はあいつを無視して、こっちにくる可能性もある。今のところ、あいつはあの中で1番強いから、他をまとめてはいるが。基本話を聞かず動く連中だ。そいつらから、しっかりと俺たちが守らねば』
『だな。行きも帰りもちゃんと守るぜ!』
と、こんな感じだ。
「アレって何かしら」
「何度も会話に出てくるな」
「もしかすると、そのアレっていうのが、今回の森の異変に関係しているかもしれんぞ」
「だな。それと、あいつっていうのは誰だと思う?」
「話の感じだと……タイーガのタガットのことかもしれないわね」
「ああ、なるほど」
「そうなると、タガットもアレを求めていると。本当にアレとは何なのか」
「危険な物じゃなければいいのだけれど」
「とりあえず、全員そのまま気を緩めるな。いつでも動けるようにしておけ」
「俺は後ろに下がるぞ」
「ああ」
ルーシャンが騎士たちの方へ下がって行く。
竜巣の森で、何かが起きているのは確かなようだ。しかしそれが何なのか? これから洞窟の魔獣たちに会う予定だが、なるべくこれ以上、おかしなことが起こらないで欲しい。
……などと思っていた数時間後。
「は?」
「あら、いやだわ」
「おいおい、マジかよ」
さらなる問題が待っていた。




