37話 慢心
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「うーん……いってぇ……」
ガンガンと鳴るように痛む頭を抑えながら、俺はゆっくりと起き上がった。
周囲を見回すと、石の壁が延々と続く通路のようだった。
まるでゲームの迷宮やダンジョンのような……。
そこまで考えたところで、クルトとトラスが見当たらないことに気がついた。
いくら見回しても、それらしい痕跡のひとつすら見当たらない。
あるのは壁にかかった蝋燭の灯りだけだ。
「クルト!トラス!どこだ!無事なのか!」
叫んだ声は壁に吸い込まれるように消えていき、再び静寂が訪れるばかりだった。
蝋燭が揺れる度に影が大きくゆらめき、不気味な雰囲気を作り出している。
「クソっ、誰かいないのかよ!」
俺は思わず悪態をつきながら壁を殴る。
直後、俺の後ろから声がした。
「やかましい人ですね。そんなに叫ばなくても聞こえていますよ」
「っ!?」
背後を取られた。
殺意は感じなかったが、明らかな敵意が滲み出ている。
俺はとっさに飛び退き、マナを練り、相手を観察する。
戦闘体勢に移る、何度もガイアに教え込まれた動きだ。
「はぁ……本当に落ち着きのない人ですね……一先ず、そのマナを納めて頂けますか」
だが、返ってきたのは冷ややかな目線と深いため息だった。
「ガイアさんはコレのどこを見て合格を出したのやら……身内に甘すぎますよ……」
少女は―――いや、「幼女」は、そう言ってまた深いため息を吐いた。
「お前は誰だ……なんで師匠のことを……」
「ルゥをお前呼びとは、礼儀作法もなっていませんね。オマケに思考をすぐ口に出してしまうその軽薄さ……本当に反吐が出ます」
「ルゥはこの迷宮を守護する神、ルーリャ・ヴァレンシュタインです。あなた達がその愚かさのままに地上に出ようとしていたので、少し干渉させて頂きました。あなた達に好き勝手地上を汚されては、たまらないのですよ」
ルーリャと名乗った幼女は、そういって顔を顰めた。
眼鏡の奥の淡い青色の瞳には、軽蔑の眼差しがありありと浮かんでいる。
ルーリャの表情の全てが、嫌悪感に満ちていた。
「バライムさん、ルゥと取引をしませんか?」
「取引……?」
「えぇ、とても簡単な取引です。貴方はここでトラスさんとの縁を切ってください。回廊も契約も、何もかも」
ルーリャは一切表情を崩すことなく、そう言い切った。
「は……?急に何を……」
「では、こういえばいいですか?バライムさん、トラスさんとクルトさんを助けて欲しければすべてを捨てて消えてください。と」
それは、あまりにも淡々としていて。
二人を人質に取ったと言われたことに気が付くのが遅れたのも仕方がないことだった。
「どうしました?お二人が死ぬか、あなたが消えるか。トラスさんの言う『希望』は、その程度の判断すらできませんか?」
「お前、あいつらに何をした!二人を返しやがれ!」
そう言うと同時に、魔法を発動しながら殴りかかる。
相手は油断しているし、マナ総量も大したことない。
同じ神とはいえ、この幼女にガイアほどの力があるとは思えない。
今の俺なら、確実に勝てる。
こいつを倒してから二人の居場所を聞き出せばいい。
「まだわからないのですか!その浅はかな行動が、言葉が、思考が、気に入らないと言っているのです!」
放った魔法が、拳が、透明の壁に遮られるように虚空で止まる。
あぁ、見誤った。
そう思ったときにはすでに、ルーリャの魔法が俺の身体を切り裂いていた。
鮮血が散り、焼けるような痛みが腹部を襲う。
「いいですか、バライムさん。ルゥは貴方を認めません。ですが、トラスさんとガイアさんを信じている。だからあなたを殺しはしません。精々醜く足掻いてください。そして一刻も早く、トラスさんの前から消えてください。では、失礼します」
ルーリャはそう言い残し、踵を返す。
だが、何かを思い出したかのように振り返った。
「あぁ、そうだ。猶予は3日です。それまでにルゥの元に来れたならもう一度チャンスをあげます」
そういって、ルーリャは迷宮の奥深くへと消えていった。
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