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36話 旅立



「よーし、しゅぱーつ!!!」


 クルトの掛け声が黄泉の山に木霊する。

 ガイアと過ごした家を離れ、新たな世界への一歩を踏み出した。

 

「あ、そうだ。ちょっと待って」

 

 家を出て歩き出そうとした直後、クルトがそういって振り返った。


「なんだ?忘れ物か?」

「ううん、違くて……今まで、ありがとうございました。行ってきます!」


 クルトはそういうと、家に向かって頭を下げた。

 

「そうだな……行ってきます」

「行ってきます……ガイア、待っててね」


 俺とトラスもそれに習って頭を下げる。

 そして、今度こそ俺たちは家を後にした。



――――――



「えーっと、ここかな」


 トラスはそういって少し崩れた崖の前で立ち止まった。

 そして俺たちに少し離れるよう言うと、崖の壁面に手を当てた。


「えー……なんだっけ?開けゴマ?」


 そして、なにやら呪文を唱え始める。

 ……が、なにも反応はない。


「あれ?おかしいな……これで開くはずなんだけど……」


 トラスがそう言って首を傾げる。

 

「なにやってんだ?」

「オルカさんがここの出方を教えてくれたんだけど、合言葉?がよくわかんなくて……」

「合言葉?」

「うん、ここに来た時と同じように唱えればいいって言われたんだけど、覚えてなくて……」


 そう言って、トラスは困ったように肩を落とした。

 

 ここに来た時?

 確か、追手から逃れようとして気が付いたらここに……。

 そうか、俺は意識がなかったから覚えてないのか。


「困ったな、俺も力になれなそうだ……」


 さすがに、気絶していたのでは覚えようがない。

 俺とトラスが頭を抱えていると、クルトがふと思い出したように口をあけた。


「ねぇ、私それわかるよ」


 そういってクルトはトラスのところまで歩み寄ると、トラスと同じように手を重ねた。


「輪廻は廻る、やがて世界を正さんと……」


 そして一言ずつゆっくりと、思い出すように詠唱する。

 すると、何もなかったはずの崖が波打つように蠢いた。


「やった!」


 クルトとトラスが跳ねるようにハイタッチを交わした。

 ……が、すぐにうねりは収まってしまった。


「え?あれ?なんで?」


 トラスが困惑した声をあげる。


「今のじゃないのかな……」

「いや、今のやり方であってると思う。多分、何かが足りないんだ。合言葉以外の何かが……」

「言葉以外って、何だろう」

「それは分からないけど……」


 俺たちが頭を抱えていると、クルトが崖をじっと見つめ、はっとなにか思い出したように顔を上げた。


「血じゃない?あの時、バラの血で手がべったり濡れてたもん」

 

 そういうとクルトは、小さなペーパーナイフを創り出す。

 

「えっと……バラ、痛いの我慢できる……?」


 心配そうな、申し訳ないような上目遣いでクルトが俺を見る。

 つまり、そのナイフで俺の血を出してみるということだろう。

 

「あぁ……傷はトラスが直してくれるしな」


 そういってトラスのほうを見ると、任せてくれと言わんばかりに鼻をフンスと鳴らしていた。

 

 ここは男の見せどころという奴だろう。

 ……ほんとに痛かったら後で慰めてもらおう。

 

 そんなことを考えながら手を差し出すと、クルトは俺の手にナイフをそっと当て、サッとナイフを引き抜いた。

 瞬間、ちくっとした痛みとともに、ドロリと血が手から滴り落ちた。

 血は止まることなくぼたぼたと垂れ続ける。

 少し痛むが、切り口が鋭いからなのか思ったより痛みは少ない。


「わっ、ごめん、切りすぎた」

「大丈夫、思ったより痛くないし」


 クルトが慌てるが、俺はそのまま壁に手を添え、呪文を唱えた。

 

「輪廻は廻る、やがて世界を正さんと……」


 唱え終えた瞬間、マナが暴れるように傷口から溢れ出ていくような感覚に襲われた。

 血が白く燃え盛り、崖全体が先ほどとは比べられないほど激しく波打つ。

 

「「「うわぁ!?」」」


 うねった壁に押しつぶされるように吸い込まれる。

 そうして波が収まった時、黄泉にはすでに俺たちの姿はなくなっていた。



――――――



「―――トラスさん、バライムさん、クルトさん……今の皆さんをエンラちゃんに会わせるわけにはいかないのです」


 長く伸びた影がゆらゆらと揺れて冷たい石の壁に写し出される。

 暗く閉じた迷宮に、少女が立ち去る音だけが響く。

 蝋燭の火がふっと消えた。



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