第30話 毒の注射
車のエンジンが唸る。窓は全開。まんぷくテロリストは基地に突っ込む。
チェリーが天に向けて銃を撃つ。攻撃開始。
まず戦車が火を吹く。メインゲートが吹き飛ばされた。後続の車が突進。高台から降りてメインゲートへ直行。まんぷくテロリストの助手席にはレモン。迎撃要員に対し銃撃している。オサムや草食も窓から体を乗り出し撃っていく。
戦車の追撃は止まらない。次々壁を砕いていく。まんぷくテロリストが基地内へ侵入。大量の弾丸が出迎えられた。草食はその一人一人。ヘッドショットでキル。プロペインの運転テクニックで基地を疾走。
基地はコンクリートでできていた。おそらく、元々あった廃墟を再利用しているのだろう。故に堅牢。とりあえずは最深部に行って混乱を誘う。
その最深部。おそらく司令部があるであろう建物。アクセルとブレーキを踏み間違えたが如く突入。壁を破壊。草食とオサムが降りた。
草食が六回ヘッドショット。オサムはそれ以外の者と交戦。剣を振られる。ナタで受けナイフで突き。脇腹をかっ斬る。だが、二人三人と続けてくる。防戦一方となる。そこへ草食の援護射撃。全滅。BBならあっという間に片付けていただろう。オサムの考えは感傷とならず二階へ。
顔を出そうとする。撃たれる。あやうく頭にもらうところだった。手榴弾を投げる。どよめきの次に爆発。
一人物陰に隠れていた。オサムが斬る。他に何もない。家具もない空白。一階に戻る。
「何かあった?」草食は手早く聞く。
「いえ何も。ベッドはここじゃないようです」
「よし移動!」
車に戻る。銃撃を受け車はさんざんに凹んでいる。
「ここはハズレ! 次行こう!」
草食の指示を受け乗車、発進。ついでとばかり草食が一人で早撃ち大会。プレイヤーが倒れていく。
全速力で走っても、後続のラストルネッサンスがハズレを引いたのを見ただけだ。まだベッドルームは見つからない。ならばと基地の北東、二時の方向へ行く。中々でかい施設がある。全面コンクリート。守りは薄い。
ハズレか。しかし敵勢力の減退も考えているので、キルしていけばするほど利になる。
その施設の前に横滑りして停車。また草食とオサムが出た。室内の探索だ。
中に入る。やけに暗い。使われてない倉庫かなんかだろうか。待ち伏せされるのにはもってこい。ぐいぐいと中に進む。下へ続く階段を見つける。ここで二人同時に行くのは愚策だろう。バックアップは欲しい。
「あたしが行く。サムは一階の調査を」
「了解」
足早に階段を降りる草食。オサムは階段から離れ、若干の光がある廊下を進む。曲がり角に入った。もちろん曲がる。右に部屋がいくつか。暗いが、何もないのは判る。
さらに奥へ。そして部屋の前に行き着いた。ドアを開けて、中に入る。その部屋は危険を感じるほど広い。先も見えない。
静かに。静かに歩く。突然、光で目が眩む。光に慣れる。ここはやはり広く何もない部屋で、奥に地下へ続く階段がある。おそらく、草食が電気をつけたのだろう。
「ハーイジョージィ」
そのしわがれた声。余裕がありすぎる聞いたことのない声。振り向く。金髪ひげ面のカウボーイがいた。そいつは、オールドスランガーズに何人かいる四天王の一人。名をマーイッカ。片手にリピーターショットガン。彼の名をオサムが知ることはない。
拳銃を抜こうとして、すぐ向けられたリピーターを認識。横へ跳ぶ。オサムの聞いたことのない銃声。ショットガンの音。超近距離にまで近付けたら簡単に狩れる。だが、この広い部屋ではダメだ。拡散する弾丸でまともに戦えない。奴のキルゾーンだ。
一か八か。地下への階段へ飛び込む。階段を転がり落ち廊下へ出る。走り出して隠れられる部屋を探す。しかしあるのは無限の十字路達。それでも角待ちはできる。
オサムは奴が確実に通る道の角で待つ。奴、マーイッカが階段を降りる音。そして、何かを閉める音。
しまった。退路を絶たれた。もう進むしかない。キルの道へ。
一歩の足音が複数。近付いてきた。音が大きくなる。こちらが罠に誘っているハズなのに、虎に追い込まれたネズミの気分だ。
ドンッ。足が視界に入った。斬りかかる。それを解っていたように銃で防がれる。ナイフで突き刺そうとする。肘で叩き落とされる。肘にガードがつけられていた。
弾き飛ばされた。そして銃で狙われる。撃たれた。転がりつつナイフを拾い回避。ナタを無理くり振るう。だが不安に囚われたためデタラメにしか斬れない。ストックで殴り飛ばされ転がる。
リピーターをクルリと回しリロード。その隙を逃さず拳銃を撃つ。マーイッカは数発もらって身を隠す。オサムは納刀して全力で駆けた。真向勝負で勝てるのか。
そうだ手榴弾! 次はこいつを使うと決める。窮地から容易に希望を見出だした。だが、ただ角から投げるなんてしても意味はない。なら、二個をそれぞれ別方向に投げて退路を塞ごう。オサムは作戦を立ててまた角に待つ。同じような手は読まれているハズだ。そこまで意識は向かなかったが。
足音は速い。すぐに来る。オサムは待つ。音で距離を判断する。まだ遠い。
手榴弾の射程内。まず敵、マーイッカの元へ一つ。すぐに移動し、回避先の方向に一つ。奴からすれば、自分の足下に一個あることしか判らないハズ。彼から見て左の通路に一つあるのも知らない。そこへ飛び込み、ドカンだ。
オサムはそれで勝つハズだった。しかしマーイッカは走った。正面に。爆音。多少の破片は受けただろう。強引に進んだ。オサムは爆音で気付かない。
やったか? 勝利を半ば確信して角から覗き込む。バッタリ目が合った。生きている! 敵も突っ込んでくる。逃げようと足を動かす。
距離はとれた。そう思い振り向く。奴がいた。すぐ近く。銃を向けてぶっぱなした。
ほとんど本能で避けた。けれどショットガンの弾丸は、思いの外広く、長く届く。HPが一気に三分の一まで下がるのが見えた。吹き飛ばされ地面を無様に転がる。
反撃はできない。今は逃げて体勢を立て直さないと。左手で手榴弾を抜こうとする。しかしない。おかしいと思って左腕を見る。なかった。左腕がなかった。吹き飛ばされたのは左腕らしい。
何かの感情が現れる前に、マーイッカとオサムも動いた。オサムはすかさず右手で手榴弾を投げる。全力疾走。体のバランスがおかしくてよろめく。何とか爆発範囲外まで逃げなければ。
地を蹴って地に伏せた。背から爆音。キル確認する暇はない。さらに逃げて角に隠れる。この空間は十字路しかない。なら隠れられるのも角だけだ。
やっと自分の状況を認識できた。今は左腕がなく、出血状態。左腕に持っていたナイフもどこかへ消えた。呼吸が狂う。パニックになりかける。左腕がない。痛みがない。そうだこれはゲームだ。だから痛くない。故に恐ろしい。
策を練る余裕はカラカラ。とにかく逃げたい。これ程巨大な敵と、一人で戦うのは初めてだった。ブロンド相手だって、BBと一緒だったのだ。BBさえいれば。
BBさえいれば! そこにわずかな希望と絶たれた望みを発見する。BBだったらあのひげ面朝飯前だ。ショットガンの弾全てを避けれるだろう。そして、守ってくれるだろう。BBがいれば、守ってくれる。
……守ってくれる? オサムは自分が出した思考に吐き気を催した。おぞましささえ感じる。何だこれは。自分は、BBに対して何を思っているんだ。いや、この考えはBBを信じているから出る言葉だ。そうなんだ。彼女の中にいる誰か、何かが言い訳する。誰に? 何に?
違う。オサムは目を見開いた。これは依存だ。オサムは怒りで歯噛みする。今まで自分は何をしてきた。ほとんど他の仲間達のお陰でここにいるんじゃあないか。戦闘面では草食やBBに劣り、頭脳面ではレモンやプロペインに負けている。こんな自分。……こんな自分!
いつか、戦力外通告を言い渡されるかもしれない。そうかもしれない。だが、だからといって諦めていい理由にはならない。オサムは自分には無いものが多いと感じた。だか無いなら無いでどうにかする。最後まで抗うんだ。
この決意で、彼女のエンジンは動いた。覚悟を決めたのだ。今ここで、その絶望に抗うと。まずは敵の排除だ。右手のナタを握り表情を怒気で巡らす。さながら金剛力士。弱き修羅は立ち上がる。
やられることなんて考えていない。考えているのは、散弾を避けてぶった斬る。それだけだ。
今度は彼女が相手を探す番となった。足音がしないのだ。マーイッカはショットガン。ガン待ちなら向こうのほうが有利だ。知るか。覆してやる。
段々と感覚が研ぎ澄まされていく。気配を探る。目と耳でしか物事を物質的に感じ取れないハズなのに、三百六十度の空間が理解できる。
異様な殺気を感じ取る。前方、四つ先の曲がり角。奴がいる。
ゆっくりと足を進める速度を上げる。ついには走り出す。だけどもまだ撃たれない。角を曲がった瞬間を撃つつもりか。なら炙り出す。ナタを口で咥え手榴弾を投擲。三つ目の角を右に曲がる。爆発。そしてマーイッカがいる方向に体を進める。
いた。爆発を避けるため伏せている。だが銃口はこちらへ向けられている。発砲。跳躍して回避。そして着地先はマーイッカの身体の上。
全体重を乗せてのし掛かる。彼は動けない。ナタを片手に、首に斬り込む。確実にやるため、足で蹴ってナタを押し込んだ。首を切断。キルした。
出血で、HPはギリギリまで追い落とされた。マーイッカがポリゴンとなり消えた。アイテムをロストする。その中に回復剤があったので注射。HPは半分まで回復。出血も止まる。
カギを落としていた。元からここで仕留める気だったのだろう。オサムはそれをぶち壊した。
勝利に酔う時間はなかった。この作戦の成否はベッドルームの破壊にある。急いで上階へ向かう。だが方向感覚が狂う。どこも同じように見えたのだ。
数分うろついたあと、ようやく上へのハッチを見つける。頑丈な鉄だ。カギで開け、登る。
その先にもう一人男がいた。知らない奴だ。なら敵か。
「オイオイオイ、飯テロだわあいつ」
オサムはナタを構える。相手、オールドスランガーズ四天王の一人、オイオイオイがナックルを着け構える。
「ほう、BB抜きオサムですか。大したものですね」
とは言いつつ、オサムの殺気にあてられやや怯む。しかし、まんぷくテロリストを飯テロと呼ぶとは。オサムが取り戻した余裕の中にそんな感想が浮かぶ。
「BBを抜いた飯テロはエネルギー効率が極めて悪いらしく、戦闘直前に勝ちを確定するプレイヤーもいるぐらいです」
ちょっと待て。この発言どっかで聞いたことあるぞ。そうだ、大昔の漫画にあった。少しアレンジされているが。オールドスランガーズは変な言葉で喋る。そう思っていたが、元ネタがあったのか。
しかし、どうしたものか。オサムはちょっと喜んでいた。殺気も薄まる。このノリに悪ノリしてみたい。だが彼を共に分かち難くするのはムリだ。何を考えているんだ自分は。とっとと銃を抜いて撃てばいい。というかリピーターを拾うのを忘れた。
「始めいッッ!」
男が叫んだ。さてどう返したものかと悩む。ガイアとでも言おうか。ともかくマトモに戦うことにする。
が、男は断末魔をあげられないほど高速で斬られた。背後から。オサムは何が起きたと目を凝らす。オイオイオイは倒れ、ポリゴンとなって消える。
「へぇ、激戦みたいだね。サム」
その美少年は、刀を鞘にしまい飄々とする。
「ハチ!」
安心の味を再確認できた。そこにいるのは紛れもなくBBだった。
近寄ろうとして、体勢を崩す。左腕を失ったことを忘れていた。どう復活するのか、少し心配になる。
「大丈夫? 肩貸すよ」
彼女を担ぎ、部屋から出る。まんぷくテロリスト、またの名を飯テロ。集合。




