第22話 宿敵の剣
「どうする」
無線でプロペインが言う。ピースサイダーはオルスラへの攻撃を止め沈黙。当のオルスラは敵の襲来に備えていた。共通の敵だとは言うが、どうするか。
「飯テロ」ハリーが確認を取る。「黒いレインコートの奴らは強いのか?」
「装備はいい。練度もよかった。オルスラと連戦はキツいだろう」
「では、一時共闘すべきか。いいか雫?」
「問題ないわ。ピースサイダーの私達はオルスラと共同し、レインコートを破る。その後はまたオルスラと戦うわ。私が伝えてくる」
BB達も聞いている。お互いを見て、肩をすくめる。どうやら本気らしい。指示を待つことにした。オーウェルは無線機で誰かと通信する。
「トゥルー、コードヒトマルヒト、発動」
「オーウェルさん?」
目ざといBB。オーウェルは諦観の顔。
「トゥルー通信社に連絡したんです。情報戦の開始合図。敵が何者であるにせよ、不利な情報を味方に与えない。特に、貴方達のものは」
「なぜそこまで」
「憧れのまんぷくテロリストには勝ってほしいですからね」
サイレンから声。耳障りだ。子供達は顔をしかめる。雫の声が響いた。
「わたし達ピースサイダー社はオールドスランガーズと共闘する。基地に入れて。防衛陣地を作るわ。部隊の指揮権はオルスラへ。頼んだわよ」
オルスラ兵が動き回る。「まんぷくテロリスト、至急基地内へ!」BB達も聞き、走り出した。なおも声。
「会敵予想時刻まであと五分」
「急げ!」副隊長の叫び。「対空戦闘急げ! 最優先目標は帝国主義! 地上部隊を決して中に入れるな!」
戦車やらの車両が基地に集合。BBとオサム、オーウェルも中央へ。テントがあり、作戦を指揮している。プロペインや雫達の姿もある。
「来ましたか」メガネが応対。「これよりヘリ部隊は敵と戦います。帝国主義の猛攻が降るでしょう。飯テロにはその対応を頼みます。他は我々と共に地上侵攻部隊を叩く。対帝国主義にはさらに四天王を送ります。時間がありません。RPGはテント外に転がっているのでお好きに。以上、解散」
「会敵まであと二分!」
話している暇はない。外に出て、RPGを拾う。一人一個、弾頭は二つずつ。プロペラの音がやかましい。
「こちらセンチュリー1。敵と接触。戦闘開始」
「対空戦車、全車攻撃開始!」
BBは空を見上げた。ヘリの群れ。空に向けて鉛の雨が打ち上げられた。敵のヘリ各機は回避運動。帝国主義は威風堂々と。地上に向け、あらゆる弾丸を撃ち始めた。砲弾、機関砲、機関銃。
地上では自走砲が撃ち合う。戦車が突撃し、戦車戦を展開。空から支援してくれているのはレインコート側だけだ。オルスラ陣営は帝国主義の攻撃で被害にまみれた。対空戦車はヘリに狙われ、よりダメージが増える。
BBとオサムは空には向けてRPGを発射。届かない。高い場所へ。オーウェルやオサムもいて、走る。帝国主義は中央に進む。無線から悲鳴。
「総員退避! 指揮所から退避!」
空から銃声。もはや轟き。地面を抉り、テントをミンチにする。BBはRPGを背中の革ベルトに挟む。サイレンを登り、建物の上へ。オサムも続く。着地先にはねこ。RPGを二つ持っている。
BBが撃った。一発命中。帝国主義のプロペラを一つ破壊。オーウェルも続いて撃つ。もう一つ破壊。落ちた。
他の建物へ跳ぶ。帝国主義の残りをBBは数えて、狙われ始めた。帝国主義の攻撃を斬り防ぐことはできない。あの中には小型の戦車砲もある。やけくそに反撃。オサムも撃った。プロペラを二基破壊。落とした。
喜ぶ合間もない。空からヘリが襲ってくる。航空優勢は完全に奪われた。RPGの残弾ゼロ。捨てて逃げ惑う。
「こちら地下司令部! 状況を報告せよ!」
サイレンにより声が響く。BBはヘリの攻撃を弾きながら、戦車を見る。全て破壊されていた。空からの集中攻撃により自走砲もロケット砲も壊滅。もはや防衛は不可能だ。
「センチュリー隊、撤退して!貴方達まで落とされたら後がないわ!」
「了解団長。我々は退く」
空から四機のヘリが逃げる。一機落とされたらしい。プロシオンはすでに退いていた。
詰みだ。BBもオサムもそれを知った。対空戦車はやられ、戦車部隊もいない。すでにレインコート達が白兵戦を展開。空へ好きなように助けを求められる。
BB達も狙われ始めた。帝国主義が三機。対抗手段のない三人は逃げる他ない。撃たれる。建物が崩れる。飛び降り着地。土煙に紛れて逃げる。
「ハチ!」オサムが叫ぶ。「どこへ逃げれば!」
サイレンからメガネの声。
「防衛陣地崩壊! 全部隊地下へ! 繰り返す、地下へ!」
地下とはどこだ。とにかく逃げる。中央より外れた場所へ。そこに、地下へ続く通路が現れていた。
「サムハチか! 早く、こっちへ!」
オルスラ副隊長がいた。全力疾走。周囲の地面が削り取られた。着弾、衝撃。体勢を崩しつつ中へ。階段になっている。
さらに逃げようとして、しかしBBは振り返る。副隊長がまだ入口にいる。帝国主義の射程内だ。プロペラの轟音に負けじと言う。
「何しているんですか! 貴方も早く!」
「いや、どうやらここまでらしい。クソ……」
「どういうことですか」
上で帝国主義が待機しているのだろう。回転翼の音で耳が落ちそうだ。BBは副隊長のもとへ。彼女はBBの問いに答える。
「奴ら、この基地のことを知っているんだ。アライランスラインと同じくこの基地にも地下がある。そして、地下が制圧されても別の脱出口がある。この入口を潰しても、私達にしか利がない。それを知っている」
「じゃあ、基地内は筒抜けだと?」
「それは判らない。可能性はあるけど。サムハチ、なんとかできない?」
「RPGが品切れです」
「じゃあ弾を斬るのは? 囮になる」
「無理です。斬った衝撃で吹き飛びます」
「そりゃあそうか。そのために開発したもんな」
彼女は無線機を取った。その目には不安と覚悟がタッグを組んでいる。
「メガネ君、いるか?」
「すでに」
「よし。ねこ隊長、生きてますか?」
「だらしねぇし……」
「例のアレ、やっていいですか?」
「何の問題ですか? 何の問題もないね」
「よし……よし。やるしかない。司令部」
「了解です副隊長。例のアレを起動します」
警報。地上にいるレインコートの兵士達も困惑している。BB達からの目線では、ヘリが目的なくうろついている。明らかな緊張を肌で感じた。
「例のアレって何ですか」
「見てりゃ解るよ、ハチ公」
警報に、人の声が混じった。いつも決戦兵器の名乗りをしていた、あの女だ。
「我々オールドスランガーズが! ロマンを追い求めない奴らだと思っているのか! 秘匿兵器に憧れない老人かと思ったか! 否! 我々は! 我々オールドスランガーズ特殊開発部が! ロマンを求めないハズがない! 行くぞ! 秘匿最終兵器、機械主義試作型! 発進!」
基地中央部、指揮所があった場所。そこが若干窪む。横にスライド。開く。内部から高速で昇ってくる物体あり。帝国主義が急行。全てのヘリ、戦車部隊が狙いを定める。兵士達も様子を窺う。
地上へ、何かが。何者かが現れた。全長約二十メートル。人のような足があり、人のような腕がある。腕にはそれぞれ銃のようなものが握られていた。角張った胴体、広い肩幅、一つ目に見える頭部の砲。
それは、巨大人型ロボットだった。
BBとオサムは信じられなかった。兵士達でさえも。オルスラの四天王であっても。故に、誰も、何もしなかった。新しい兵器へ、リアクションをとれない。
「ふ、ふふふふふ」
巨大ロボット、機械主義の外部スピーカーより声が。男性。聞き覚えのあるそれはメガネ君と呼ばれた男の声だ。彼は、機械主義のパイロットだったのだ。
「……遅かったな。言葉は不要か」
シリアスな文言に対しテンションは高い。銃を持つ腕が動く。緩慢に見えた。大きさに比類する重厚感。銃は、砲と呼べるほど大きい。上へ持ち上げ、帝国主義を狙う。狙われた機があわてて動いた。
遅かった。
「いい的よ、貴方」
機械主義の指が動き、発射。砲弾は帝国主義を貫いた。無数になって崩れ落ちる。地面と激突。レインコート達が下敷きになる。
左腕も動く。黒い兵士達は、やっと敵を敵として認識した。機械主義を狙って撃つ。だがその全てが的外れ。弱点がどこか解らないために、無茶苦茶だ。どの砲撃もものともしない。戦車部隊が恐怖して後退。
機械主義は、攻撃に構わず帝国主義を撃つ。そして、BB達の真上にいるものを狙った。
「愛してるんだ、君達を! ハハハハハハハッ!」
メガネは有頂天の様子。最後の帝国主義さえ撃ち抜いた。地下入口付近に墜落。風が近くの者を揺らす。
なおも抵抗は続く。しかし決戦兵器は消えた。恐れをなし、敵は後退する。機械主義は、そんなレインコート達を見下ろす。銃を向けた。銃下部にミニガンがある。正確にはミニガンを束にした機関砲だ。激しく回り、撃つ。
銃声とは思えない破裂音。戦車さえ貫通している。プレイヤーなら掠っただけで即死。さらに砲弾も撃つ。地上は砂煙で埋まる。狙われなかったヘリが一目散に逃げ始めた。
機械主義の銃口が上がる。空へ向けて。
「あがくな。運命を受け入れろ」
右足が持ち上がる。かつてあった場所より前へ、足は着地する。左足も同じく。歩いている。歩行している。二十メートルの巨体が。そして、機関砲をヘリに撃った。バッドで殴るような無造作で落としていく。
あの巨大ロボットは地上など見ていない。足を動かすだけの場所。踏み潰され、為す術なくポリゴンと化す敵。ヘリの一部は錯乱し反撃。効果なし。意味もなく撃つ歩兵さえいる。戦局はあからさまに変わった。
「生き残っている兵士、リスポーンした者、全て地上へ! 形勢逆転! サムハチも行くぞ!」
副隊長に連れられ、外へ。後ろから叫声。オルスラの兵士達が出る。BBもオサムも得物を抜き、オサムは走りながらBBへ言う。
「どうなってんの?」
「デカいロボットが暴れているとしか」
混乱していた。ロボットの非現実感に打ちのめされていたのだ。
雫も負けじと無線。
「ピースサイダー、地上を掃討する! 急いで!」
バイクのエンジン音。スマイリムとオニワだ。装甲車も来た。中から四天王、ねこも出た。ピースサイダーも生き残りが出陣。草食達も混じっていま。
狙うは残党レインコート。彼らに向けて撃った。近接組は斬り捨て御免。機械主義の影の下、兵士達が戦う。奮戦でないのは確かだった。
空にはセンチュリー隊が舞い戻った。ヘリを攻撃。機械主義のスピーカーから「ハラショーッ!」と声。
敵は全滅した。残らず全てとはいかないが、戦闘は不能だ。見かけ次第キルして回る。
BB達二人はまだ副隊長の近くにいた。耐えきれず、BBが質問した。
「あのロボットは何です?」
「あれ?」拳銃を仕舞う。「あれは秘匿兵器の機械主義。まだ試作だけど。最終兵器として、造ってきたよ」
「はぁ」
聞いたところで納得できない。そもそも、どう答えられても理解の欠片も掴めないだろう。
「おーい!」
草食達が手を振ってきた。オーウェルも一緒だ。彼は副隊長に噛み付いた。
「あれは! あれはどんな兵器なんですか!」
「もう見せちゃったし、教えてしんぜよう」得意そうだ。「あれは我々オールドスランガーズがこの瞬間まで隠し通してきた最終兵器、機械主義。ハインド、じゃなくてウォーターメロンにも教えていない、四天王にも言ってない、まさに秘密の兵器」
「なるほど。最終兵器というのは、つまりどういうことです?」
「元来の定義とは違う意味での最終だね。まさに、最後に出す兵器。あのビッグさで、相手は士気を喪失するのさ」
「……確かに」あれが歩いてきたら、四の五の言わず逃げるだろう。オーウェルは容易に想像できた。「しかし……なぜ二足歩行を?」
「あー、気になる?」
「もちろんです。そこはやはり、プロパガンダ的な意味合いで?」
「……いや、ね。最初、クラフトで工夫すれば全く新しいものが造れるって判ってきて、じゃあロボット作ろうってなったんだよ。でも、そんなん使い道ないじゃん。だから特発、特殊開発部にダメって言ったの。そしたらストライキされてさ。だから仕方なしに許可したの。秘匿にしたのも、メロンにバレたらヤバいからだし」
オーウェルの顔が苦笑になっていく。
「軍事予算でおもちゃ作ったからなぁ。知られたら、ね? それで、できちゃった。でも使い道ないからここで隠してたんだよ。まさか役に立つとは」
「でも、戦車砲は耐えてましたよね?」
「いやね。いや、ね。その……」
「ヒャハハハ! 我々の勝利だ!」
サイレンからあの女の声。兵士達も歓声をあげた。それらがメガネを刺激した。
「フ、フフフ」スピーカーから声。「ヒャハ、ヒャハッ」声が震えている。「私はやったんだあああああああ」
機械主義の腕は天に向けられた。胴体は大きくそらされる。一般にイメージされる万歳のポーズ。
「あ、バカ!」
副隊長が叫ぶ。機械主義は、上半身の体重移動に耐えられず、後ろへ倒れ始めた。
「全員逃げろ! 潰されるぞ!」
誰かが大声をあげる。逃げた。二十メートルの巨人が、大地に倒れた。煙が舞う。
「あぁぁぁ! 三千億ランスがぁぁぁ!」
副隊長は喉が裂けんばかりの悲鳴をあげる。地鳴りなど気にもしない。
「バカヤロー! 姿勢制御システムはまだ完成してないんだぞー! もう二度と起き上がれないのにー! このバカー!」
オルスラの兵士でさえも、同情の目を向けた。
こうして、三千億ランス(中規模国家の予算並)の巨人を永眠させたオルスラは、ピースサイダーに投降した。ねこ、副隊長、仮面の少年が土下座。
「お願いですから養ってください! もう金も物資も威厳もないんです! このままじゃ何もできなかった傭兵になっちゃうんですゥ! 貴方達の権威に縋らせてくださいー!」
「……いいけど、さぁ」渋い顔。
「ほんまでっか? ありがとうございます!」
「もっこりランドで、就職!」
「黙ってろ!」
副隊長がねこの後頭部を叩く。彼らはあっさりと受け入れられた。




