第23話 終戦の布告
経済同盟と三千連邦の戦争は終わった。アライランスラインの完全崩壊を受け、同盟の諸企業は離反。最後に残った企業とオールドスランガーズの敗北により、同盟は消滅。連邦とは互いに都市部を破壊しないまま終わった。
ピースサイダーはオルスラを連れて帰還した。副隊長とメガネが社に同行。他はどこかで暇を潰している。
雫、ハリー、まんぷくテロリスト全員と先の二人。彼らが社長室の前に立つ。雫がノック。「どうぞ」の声で開く。デスクを前に、河流がいた。
「社長、ただいま戻りました」
「おぉ雫君。皆も。話は聞いているよ。大活躍だったね。政府からも多額の報奨金を得た。文句の付けようがない。して、その二人は?」
「オールドスランガーズの副隊長とその側近です」
「これはこれは。どうぞこちらへ」
応接間に通す。副隊長はいささか緊張している。メガネが切り出した。
「はじめまして。我々はオールドスランガーズの者です。我々は、貴方達ピースサイダー社に投降しました。そして、御社に編入していただきたいと、ここに参りました」
「なるほど。オールドスランガーズなら聞いたことがありますよ。南東の、今はプレイヤーズの領地にいたという。それが同盟に。戦力も耳にしています。それほどの方々が、なぜ?」
「ピースサイダー……そのまんぷくテロリストとは繋がりもありまして。そして、我々は負け続きです。そんな傭兵を雇うところなんてありませんが、しかし。我々と戦った貴方達なら、オルスラの優位性が理解できると思います。どうでしょう? 我々を、仲間に。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが」
副隊長の目線が痛い。とても頼み込む態度ではない。失礼にさえ当たる。恐る恐る河流を見れば、彼は意に返さず悩んでいる。
「雫君、ハリー君。彼らは強いのかい?」
「驚嘆すべきは、その組織力です」ハリーが答えた。「一つの軍事組織として独立しています。兵器開発は特に。決戦兵器の名を聞いたことは?」
「同盟が特異な兵器を持っているとは……」
「それを作ったのがオールドスランガーズです。彼らは資金さえあれば、並のクラフターでは造れないものも造ります」
「作戦指揮もいいですね」プロペインが割り込む。「我々だけで戦った際、物資不足に追い込まれました」
「まんぷくテロリストが?」
「はい、社長。クロームの反乱がなかったらどうなっていたか」
「なるほど」
河流はあごに手を当てる。人が増えれば単に兵士が増えるワケではない。維持をするための資金に、彼らの戦力回復のための資金。これらを加味した上で、オルスラを雇えるか考える。彼は手を組んだ。
「オルスラは何人ほどいますか?」
「詳しい数は総隊長しか知りません」メガネをクイッと上げる。「しかし百人は最低でもいます」
「百人。詳しい数は解らない、と?」
「総隊長に誘われて入隊した人は多くいます。しかし、いわゆる幽霊兵士が結構いまして。いつの間にか消えていることもあります」
河流の目が雫に向けられる。少しの不満を見せている。自軍の数も知らず、最高責任者も来ず、それでいて多い。雇うのは土台無理だ。
メガネはそんな彼を見てわずかに口角を上げた。体を河流に寄せて言う。
「ここで、我々からも提案があります。オールドスランガーズは、元々自分達でもやれていました。ですので、御社が全て引き受ける必要はないかと考えます」
「というと?」
「我々を子会社化するのはどうでしょう。自分達の資金は稼ぎます。もちろん利益は御社と共有です。貴方達は直接養わず、それでいて金は貰う。こちらはある程度の自由を獲得できる。素晴らしい話です」
「よろしいのですか? 私達に有利すぎる」
「ダメで元々ですよ。このぐらいはしませんとね」
「解りました。よろしい。ではオールドスランガーズを子会社にしましょう」
「ありがとうございます」
オルスラの二人は頭を下げた。正式に、オルスラはピースサイダーの仲間となった。とはいえ、好きにやるだろうが。それを見越して書類にサインさせた。書類。飯テロ一行が驚く。紙がある。量産できるようになったらしい。
まんぷくテロリストも書類へ正式にサインした。紙面上でも社員となった。
「ところで社長」雫が提案を口にする。「ヘリについてなのですが」
「うん、一機……いや何機も落とされてしまったね」
「ピースサイダーのヘリ部隊についてです。今までは私達解放旅団が管理していました。しかし、オルスラが加わるとなると、ヘリの管理が忙しくなります。そこで、ヘリ部隊を統合すべきかと思います」
「オルスラ君もヘリ部隊を自前で持っていたからね」
「はい。再編の際、ヘリ部隊のみ新しく作るべきです」
「そうだね。では、統合しよう。皆も、それでいいかな」
誰も異論はない。あとはオルスラと河流の話だけだ。最も活躍したとして、飯テロには多額の報酬と、休みが与えられた。彼らはひとまず家に帰ることとした。
「まさかオルスラが仲間になるとはね」
道中草食が言う。オサムとレモンは久々の都会に心を奪われた。BBが答える。
「資金は自力で集めるとか言ってたね。どうするんだろう」
「兵器でも作るんじゃない? それを売り込むとか。いや売り込んじゃダメかな。あたし達が使いたい」
「企業規模的にピースサイダーが飲み込まれそうだ」プロペインは心配気味の様子。
「オルスラに野望がないといいけど。あ、そうだプロペイン。家に帰るんだから車、持ってきてよ。バイクは括ってあるでしょ?」
「おっと、悪い。行ってくる」
「迷わないでよー」
駆け足気味に駐車場へ去っていく。残りは家へ、スラムへ向かう。
「ねぇハチ。この給料何に使うよ」
「そう言う姉さんは?」
「うーんどうしようかな。ここには穴場が……あ、いや、ご飯の話だよ? 賭け事ではない」
「そんなこと誰も聞いていないよ」
見上げる。目印としていたビルを曲がる。風景から高層ビルが減っていく。もうすぐスラムだ。
「オレは、まぁ、服でも買うよ。あとは、食べ歩き?」
「服? 何買うの?」
「別に。普通のだよ」
「あたしが選んであげよっか?」
彼女の言葉を聞き、オサムがBBを見る。そこには少しの期待が含まれていた。彼もその視線に気付き、草食を見る。何食わぬ顔。気付いていないようだ。こういう時は鈍い奴。
BBは真剣に考える。ファッションのセンスはない。彼が想定しているのは、オサムと街を巡る時の服だ。それを選ぶ。オサムと一緒に選んではつまらないだろう。だからと草食と探すのは……。彼女のセンスだと、ファッションではなくコスプレになりそうだ。安心なのはプロペインかレモンになる。
レモンの場合。確かに詳しそうだ。だがそれはレディースに限る。流石に男ものまでは把握していまい。それに、彼女と一緒に行けば悪ノリされそうだ。
となるとプロペインか。それなりの社会経験もある。なにより男同士だ。もしオサムにバレてもあらぬ疑いをかけられることはないだろう。はて、あらぬ疑いとは。BBは自嘲で腹を抱えるところだった。彼の横に立つには幼すぎる。
BBの笑みに草食は困惑。何となく察した。
「あたしのセンスを疑っているんでしょ」
「そうだよ。姉さんのだとコスプレになる」
「失礼な。あたしにかかればノーベル賞受賞間違いなしだよ」
「姉さんのコスプレに学術的価値はないでしょ」「そこはせめてミスコンとか……」「よくてイグノーベルですよ」
オサムもレモンもボケにツッコミ。草食はヘラヘラと笑い誤魔化す。その流れで辺りを見渡した。
BBもおかしさに気付く。いつまで経ってもスラムに着かない。薄汚れた地面、あばら家の群れ。……そんなものはない。あるのは電柱とウッドハウスと整備された石畳の道。先までの連邦と違う。洒落ている。
「ここどこ?」
無意識に草食は言った。迷った。プロペインに言った言葉が返ってきた。BBはため息をこぼしつつ三人に振り返る。
「道を聞いてくるよ」
そう言って別れた。取りあえずと通行人に声をかける。
「すみません。この街のスラムってどこにあります?」
「スラム? なくなったよ」
「え?」背が低いBBは通行人を見上げている。絶望が混じった上目遣いに、通行人は冷や汗をかく。
「いや、スラムを探しているのか?」
「そうです」
「それなら、ここだよ。この石畳の街が元スラム。解る? オーケー?」
「……つまり、再開発がされたと?」
「そうそう。話が早くて助かる。ここに家を持っていたのか?」
「そうなんです。全部潰れちゃいましたか? ウッドハウスの家だったんですけど」
「ちょい待て」BBに迫る。「ここに来たのは久々か?」
「そうですけど」
「もしかして飯テロか?」
「そうですけど」
「あー……」
妙に納得している。状況が飲み込めず、疑問符が浮かぶ。
「ちょっと待っててな。ラスルネの人達に話してくるから」
そう言い残し、行ってしまった。かなり急いでいる。BBにも、何となく話が見えてきた。無線機を取る。
「姉さん。さっきいたところから真っ直ぐ行って。そこにオレがいるから。何でもラスルネの人が関わっているとか」
「どゆこと?」
「えーっと」説明しようとして、知っている人間が来る。「会ったほうが早い」
「ハチ君!」
声の主、サンドロチェリーが走ってきた。膝に手をついて、息を切らす。整えて目を合わせる。
「久しぶりだね。活躍は聞いているよ」
「久しぶりです、チェリーさん。ここは、どうしたんですか」
「その前に、他の人は?」
後ろを見る。「来てますね。プロペインは車を持ってきています」
草食が手を振っている。チェリーも振り返した。合流。
「いや久しぶりだねチェリー」
「草食さんも久しぶり。オサムさんもレモンさんも久しぶり。知りたいのは、この区画のことだよね」
「えぇ」BBは通行人の服を見る。日常着だ。「ここで話します?」
「着いてきて。君達の家に行こう」
家。疑問を抱きながら着いていく。レモンが見るのは無骨な電柱。チェリーが言われずとも言う。
「この街は、というか区画だね。ここをボク達が再開発したんだ。スラムを改造してね。今ではトップの扱いだ」
「へー。行政は文句付けなかったんですか?」
「いやぁ全然」レモンの問いは別のこと。それはチェリーも知っている。「資金集めに苦労したけど。まだ欠点はあるね」
「電柱ですかね?」
「そうなんだよ。まず早急に水、電気を通す必要があるから。さっさとやっちゃった。後々地下に埋めるつもりだよ。地震の心配はないしね」
言っていると、一つの屋敷に着いた。豪邸というほどではないが、大きい部類だ。草食は願望を寄せる。
「お察しの通り、ここがまんぷくテロリストの家だよ。自由に使って。お代はいらない。ボク達の仲だからね。中に入ろう」
両開きの扉を開けて中へ。外観は白樺で、どこか大理石を思わせていた。それに反し、中は木の温もりで満ちていた。木材だけでなく真鍮が使われていて、味わいを深めている。
窓も多く開放的だ。天井までも高い。入ってすぐはダイニング。さらに奥には使いやすそうなキッチン。冷蔵庫まである。
「二階はベッドルームとかだね。まずは座ってよ」
四人と一人はテーブル席に座る。これも木だ。深い色合いでシック。ここまで木材だらけだと偏執さえ感じる。
「どうしました?」BBは浅く座る。
「これから、君達はどうするのかなって」
外で車が動く音。扉が再度開けられた。プロペインだ。
「いやすごいな。行って帰ってきたらこうなっているとは。話はボクサイから聞いている」
彼も座る。話は続く。
「君達は、このゲームからの脱出を目標としている。ピースサイダーに入ったのも、そのためだろう? でも、これからどうするのさ。資金はあるだろうけど……」
「いやぁ解らん」答えたのは草食。「あたし達は連邦に来たばかりだし。これからだね、何もかも」
「そっか」チェリーは唇を噛んだ。「この家を建てたのは、詫びの意味もあるんだ」
「どういうこと?」テーブルに腕を乗せる。
「ボク達も、いやボクも君達には協力したい。けど、ラスルネ内では脱出に反対する者も多くてね。協力はできなくて。だから、すまないね」
「いやいや気にしないでよ。お互い貸し借りはチャラ。また家建ててくれたしね。自分達のことは自分達でやるよ」
「じゃあ、お邪魔したね。この街で君達に突っかかる人はいないだろうけど、何かあったら言ってね」
そう言い残し、チェリーは家を出た。オサムは冒険心を煽られたか、家を見渡す。プロペインはしかし腕を組んだ。
「さて、本当にこれからどうする?」
「休みは貰ったけどね」草食が肘を突く。「まずは休むか。でもどうするかは決めとく? 社長達との考えは一致しているし」
「そうだな。俺達が動いても仕方ない。ここは情報屋を頼ろう」
「オーウェル君のこと?」
「あぁ。彼の会社を頼って、何か手がかりを得よう。オルスラもできれば」
「あの人数だし、協力してくれるよ」
「ですけど」レモンが異論を挟む。「彼らは脱出に協力するでしょうか」
「どうだろうな。ふざけた奴らだし。期待しないほうがいいか」
「話は通しましょう。ただ、少し寝ましょう。連戦でしたし」
「だな。二階に行くか。この分だとベッドだろ」
五人は二階へ。部屋割りを決めた。プロペインは階段近く。草食はプロペインの向かい側。草食の隣にレモン。プロペインの隣にオサム。その奥がBB。
BBは部屋に入る。少し大きいベッドが一つ。タンス、テーブルとイス。窓から日光が差し込む。天井から電球がぶら下がる。スイッチは扉の近く。押す。光った。この崩壊した世界観で、電気とは重い意味がある。
横になる。フカフカだ。
不思議と早く寝付いた。初めての家なのに。




