第20話 惰性に無勢
アライランスライン地下要塞のどこか。前線にいることはおぼろげながら解る。出てくる敵を撃つ。まんぷくテロリストにとっては射的観光だ。
プロペインが無線機を見てため息。地下ということもあり無線が繋がらない。耐久値も減っているので故障したかもしれない。そこまでリアルだとストレスだが、と文句を言いつつ進軍。Dブロックと書かれている。
部屋を発見。流れ作業で片付ける。また食堂だ。ブロックが変わったことが影響しているだろう。抵抗勢力は難なくキル。まだ監視室は見つけていない。食堂制圧。
草食が扉を見る。敵はまだ来なさそうだ。メンバーに声をかける。
「ちょうどいいし、軽食でも取る? まだ先は長そうだよ」
「そうですね。そうしましょう」
レモンも賛成。疲れている。言い出しっぺの草食は警備についた。他は食糧を略奪。さっさと終わらせようと、BBは缶を取った。
カウンターに座り、ナイフで蓋を開ける。コーンだ。もう一つの缶はツナ缶。皿を持ってきて二つを混ぜた。調味料を探すと、意外にもマヨネーズがあった。コーンツナを食べる。
オサムは当然の如くカレー。見つけた瞬間に手にしていた。レトルトなので温めた。皿に盛り付け、ビスケットと共にいただく。具が寂しいが満足していた。
レモンとプロペインはパスタを茹でた。オサムといい、時間を贅沢に使っている。トマト缶と粉チーズで味付け。ハズレのハズがない。
草食は四人へ呆れの目線をくれる。最近いいものを食べられていないのは確かだ。だがここまで正直にならなくてもいいだろう。空腹ゲージは八割を切った。彼女も食にありつきたい。
食べ終わり、草食と交代する。早速食糧を探し始めた途端、銃声。プロペインが撃ち返す。
「草食、攻撃だ!」
「何で今なのォ!」
室内に弾丸。テーブルを盾にする。天井を見る。カメラは制圧中に破壊。それでも見つかる。さっさと終わらせようと早撃ち。
部屋の外、遠くからも銃声。気にせずBBが射撃。上半身を撃ち抜いていく。手榴弾を投げ入れられた。投げ返す時間がないので退く。爆発。ブレードを抜きかけて、さらなる銃声。扉近くの敵をキルしていく。食堂内に踏み入った敵は混乱した。
人影が室内へ。一人でキルを重ねた。全滅。五人が見守る中、彼はリロードした。
「おまたせしました。連邦軍が到着です」
オーウェルだった。スーツに山高帽。右手にはアサルトライフル。背後から拳銃警察隊が突入。ハリーはいない。
「オーウェルさん」BBが目を見張る。「なぜ?」
「従軍記者って奴ですよ」
拳察隊はハンドサインで外へ。残ったのはオーウェルとまんぷくテロリスト。草食が食糧を探すのも気にせず、話を続ける。
「外はどうなってるんですか?」
「ピースサイダーの人達が来て、クローム社を援護しています。解放旅団は地上を、拳察隊は地下を。ハリーさんもいますよ。ここにはいないですが」
「どうやってここまで?」
「自分がクローム社の反乱を察知しましたので。それを伝えただけですよ」
「そうだったんですね」
「ちょっといいか」プロペインが遮る。「どうやってクローム社の反乱を? 昨日今日のことだぞ」
「それは企業秘密です。情報提供者のプライバシーは守らないと。とはいえ、このタレコミで戦争は変わります。さぁ行きましょう」
「そうだな。行こう」
プロペイン達はオーウェルの後を追った。
「ちょっと待った! あたしがまだ食事中でしょ!」
「あ、悪い草食。待つよ」
彼女は缶詰を開けて中身を口に入れ、酒で流し込んだ。むせた。咳。ノンアルとはいえ、急いで飲むものではない。
「よし、行こう」
澄まし顔。「そんなに急がなくても」とオサムは言うが……草食もその通りだと腕を組んだ。
五人は食堂を出て進む。オーウェルが道順を知っているらしい。あくまでも連邦軍が進む道だが。
一時間後。夕方。まんぷくテロリスト達はノタノタ歩いているを急いでも仕方ない。なにせ嫌になるほど長いのだ。道中、ベッドルームをハエよりも潰した。弾は弾薬庫を襲って入手。
彼らの無線機は壊れていたため、オーウェルが無線を担当。無意味なリアリティだ。現在Dブロックを突破。Eブロックにいる。敵の守りは依然厳しい。だが首を絞めるような緊張はない。惰性のキルは続く。
「それにしてもベッドルームが多い」
BBが通路の敵を撃ちつつ言う。独り言だった。それに反応したのはオーウェルだ。
「そうですねぇ。防衛的には正解です」
「だとしたら、他の基地もこうすればいいじゃないですか。大体ベッドを大きな部屋にまとめてますし」
「そりゃあそうなりますよ」
オサムが十字路左の敵を全員キル。右はBB。前はオーウェル。前に進んだ。
「どうして?」全滅を確認しつつBBが聞く。
「ベッドを小分けに配置するより、一つの部屋にまとめるほうが管理も維持も楽ですので。プライバシーの問題は残りますが」
「ずいぶん詳しいんですね。戦闘経験が?」
「それなりに。戦地で情報を集めるのはザラですから」
扉を複数発見。手榴弾を投げ入れた。敵がいなかったりいたり。ここもベッドルームだ。破壊し、進む。
「それにしてもまぁ、どうして飯テロは強いんですかね」オーウェルは雑談をやめない。
「どうしたんですかいきなり」
「戦地では、つまり同盟領内でボッチだったのにキルされず。オルスラを返り討ちにし、工場も破壊。敵に回ったら困りものですよ」
「よく知ってますね。工場のこととか」
「あ」少し青ざめる。「い、今のは聞かなかったことに」
少し息を吐くBB。うっかりな部分もあるらしい。
「どうやって知ったのかは聞きませんけども」
「ただクロームの人に聞いただけですよ」
「クロームは工場のこと知ってるんですか? あれは結構……地味だったような」
会議室を呼吸するように制圧。テーブル、イス、ホワイトボードがあるばかり。オーウェルはリロードを挟んだ。
「クロームも大企業ですから。そのぐらい知ってますよ」
「なるほど」
「まんぷくテロリストの浸入は予測できなかったようですがね。飯テロを強引に入れたのは正解だった。オルスラを邪魔できたし」
「そうなんですかね。どうです? プロペインさん」
「うーむ」
プロペインは機関銃を弾を込める。オサムがその隙を埋めるよう射撃。草食が助ける。話を続けた。
「俺は正直、失敗だったかと思っている。クロームがいなければ、干からびているところだった。食糧があればBBとオサムが暴れられたんだが」
「私達三人は弾がないと何もできませんからね」
レモンがヘッドショットをしながら相槌。リピーターの扱いも熟達した。アイアンサイトでも狙撃できそうだ。
「ですが、運は貴方達に味方した」オーウェルが監視カメラを撃つ。「運も実力の内ですよ」
「運ですか」BBが少し皮肉っぽく言う。敵の反撃も幾分か落ちてきた。「仕組まれているんじゃ、とも思いますよ」
「どうして?」
「いや、別に……。ただウォーターメロンとオルスラの関係はどうなのかなって。考えてみれば怪しくて」
「ウォーターメロン?」
「知ってます?」
オーウェルはBBの目を見つめたまま黙った。天井を仰ぐ。思い出そうとしているのか悩んでいるのか。あごに手を添えて、また考える。オサムがBBへ目を向ける。
「ウォーターメロンって?」
「言ってなかったっけ」
「わたしは聞いてない」
「あたしも聞いてないよ」
「姉さんも? えぇっと」
「ウォーターメロンは、経済同盟にいる実態不明の企業です」
突然オーウェルが割り込んだ。BBに違和感が湧く。引っかかりがある。
「なぜそれを?」
「隠すことではありますね。ほとんど情報がないのに、記者があれこれ言うんですから。ともかく、ウォーターメロン社は旧ハインド社で、オールドスランガーズの後援者です。資金源も全て不明。知られているのは、やはりオルスラのことだけです」
「へー投資家かな」オサムが思いついたことを口にする。「それとも陰謀家?」
「……どうでしょうね」目に入った敵をオーウェルがキル。「BBさんは彼らの関係が気になりますか」
「気になりますね。クロームの人もよく知らないそうですし」
「自分は何も知りませんよ。何も。クロームとかオルスラのことを調べていたら当たっただけです」
「オーウェルさんも知らないとは」
「何分、敵地ですので」
彼らは話し合いつつ、キルしていく。草食もその一人だ。彼女にはメロンと聞くだけで思いつくのが一つある。
マケメロン。彼女はプレイヤーズにいた。今もいるだろうか。行方不明とは聞くが、ともかく敵として別れた。最後の一発は彼女がやった。BBにも引けを取らぬ強敵であった。よく勝てたものだ。次会ったらどんな顔をすればいいか。
そういえば、帝国主義はプレイヤーズ方面に向かったそうだ。もしマケメロンがまだあそこにいるなら、関係はあるかもしれない。だが抜けていたらどうだろう。もしかして、マケメロンが決戦兵器を奪ったのでは?
考えてみると面白いが、だから何だというのだ。草食は自嘲する。彼女が奪ったとして、どうせハナから敵なのだ。平常通りやればいい。そもそもリベルタリアの可能性だってある。
ここまできてあることに気付く。まんぷくテロリストは三千連邦以外の全勢力と敵対している。寄る辺ない。連邦から追い出されたら、もう頼りになる組織がない。
そんな草食の心配をよそに進軍は続く。
「オーウェルさんはオルスラについて何か知ってますか?」
狙いつつ、BBは言う。すでに戦いが日常と同化した。
「みなさん以上のことは何も」
通信が入る。「地上部隊より伝達。オールドスランガーズらしき敵影あり。注意せよ」
「ですって」
レモンは首を傾げた。歩き疲れて肩を上下している。「オルスラってそんな警戒される存在ですかね」
「えぇ。彼らの造った決戦兵器の報告で、皆殺気立ってますよ。まだ決戦兵器が消えたことは知りませんから」
「それも知っているんですか」レモンは目を尖らせる。
「え? あ」またらしい。「まだ公言するつもりないのにぃ……」
他の五人は苦笑するだけだ。ちなみにここは敵地である。
しばらく進んだ。前方から人影。轟音。それは足音だった。走ってくる。プロペインが機銃を向ける。引き金を引いた。大量の弾が敵を襲うも、怯まない。何かを叫んでいる。
「バンザァァァァァイ!」「ワー」「ソコニヤツラガイルゾ」「センメツー!」
敵は旗を持っていた。当然のように星条旗。ネパール国旗。そしてなぜかケニア国旗。服はみな近世プロイセンの軍服。
「オールドスランガーズです!」
オーウェルが叫んだ。銃撃開始。六人は下がりながら戦う。引き金と指は密着。それでも止められない。
オサムが手榴弾を投げても、BBがフラッシュバンを投げても、敵は止まらない。「こちらまんぷくテロリスト! 送れ!」オーウェルが的確に援護要請を求めた。まるで軍人のような通信。ごっこ遊びだろうか。
飯テロは撤退を開始。いくら何でも数の暴力だ。走る。草食は後ろを見ずに背後へ早撃ち。六人やったが意味はない。そしてレモンの異変に気付く。息が切れている。
だが遅かった。レモンが転んだ。声もあげられない。体力の限界だ。
BBとオーウェルが動く。特にオーウェルはオサムより速く動いた。BBがレモンを担ぎ、オーウェルがフラッシュバンを投げた。閃光の寸前まで撃ち、逃げる。彼の弾丸は頭だけ狙っていた。
レモンは過呼吸気味になっていた。連続の戦闘、それで疲労を溜め込んでいたのだろう。オサムと目が合う。
「わたしが時間を稼ぐ!」
「でも!」
制止の声はオーウェルだ。振り切って、振り返り、抜刀、突撃。刀とナタで斬りこんだ。眼前に現れた剣士に、敵は動揺せず進んだ。だが彼女の攻勢剣舞は彼らを引き止めるのに充分だった。もちろん、激しい抵抗にあった。
「オサム、どけッ!」
ハリーの声だ。すぐ伏せる。機関銃の掃射。一つだけではない。デスのポリゴンで溢れ、目が痛い。
「第八小隊、到着! 援護する!」
さらに銃撃が追加。オサムは何とか逃げ切った。拳察隊や第八小隊により、脳死突撃は失敗。対策すれば怖くはない。それに使い所を間違えている。
オサムはまんぷくテロリストと合流した。レモンは横になっている。草食も疲れたのか膝に手が行く。
「何か」草食は息を切らしつつ言う。「最近あたし達活躍してなくない?」
「いやいや。道中話しながら流しそうめんみたいにキルしていたでしょう」
「オーウェル君、それはあたしらにとっていつものことだよ」
「マジすか」「マジマジ」
BBはオーウェルを疑い深く見た。先までの動きは熟練のそれだった。射撃の腕、判断力、これらを持って、一体何が彼を記者にさせたのか。兵士ならば名を残せる。
三日間、アライランスラインの戦いは続いた。




