オークと仲たがい
屋敷に戻ってみると、羽と腕が完全復活したアンネがボスに向かって何かをまくしたてていた。足元にはアワアワと慌てる茸人の姿があった。
「いいから、さっさと行くわよ!」
「ですから、我はまだこの村でやりたいことが……」
「アンネ、退院おめでとう。で、何があったんだ?」
アンネとボスの間に割り込むと、ボスは明らかにほっとした顔をし、アンネは一旦怒るのをやめてこちらに向き直った。
「ありがとう。それよりもボスがひどいのよ?私があんたが帰ってきたらすぐに先に行こうって言ったのに、理由も言わずにこの村でしたいことがって言って賛同してくれないのよ!」
……えーと。
「スマン、何で早く旅立ちたいんだ?エリアさんのところでは、なるべく時間をかけようって言ってただろう?」
「そりゃ、父さんがここに残れってうるさいからよ!それどころかドクターもフィーネも引き留めて来るし!全く、こんなことなら寄らなきゃよかったわ。リストにはもう声かけてるから、すぐ来るはずよ!」
「……すまん、アンネ、実は俺も装備を新調しようと思ってな……鍛冶屋に装備を頼んでしまったんだ。完成は一週間後……なん、だが」
隠していても仕方ないので、そう話し始めたのだが、アンネの顔が見る見るうちに険しくなり、敵意を持った目線を向けて来た。
「何で今そんなことするのよ!というか代金はどうしたのよ?」
「それは、塔での戦利品を換金して、あ、でも二人の分は……」
「そんな大事なことをなんで私に言わないのよ!もう知らない!」
そう言って、止める暇もなく、アンネはどこかに飛び出してしまった。その後ろを、慌てたように茸人が追いかけていく。
「あ……」
助けを求めるように目線を彷徨わせると、同じような視線を向けたボスと目が合った。
「……」
「……」
しばし見つめ合った俺たちだったが、そこにリストがやって来たため、とりあえず室内に入り、今後のことを話し合うことになったのだった。
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「なるほど、それで、アンネさんが怒って出て行ってしまった、と」
俺が一通り話すと、リストは難しそうに腕を組んだ。
「とりあえず、一つ疑問なのは、なぜグォークさんは正規品を買わなかったのですか?」
「はい?」
俺が疑問の声を上げると、リストは言葉を続ける。
「いえ、ですから、この村にある武器屋には、作り置きの武具があるはずですよ?勿論オーダーメイドの方が性能はいいはずですけど……」
「いや、え?でも、俺たちの背丈にあうものは……ない、んじゃないか?」
それを聞いて、リストは首を横に振る。
「そんなわけないでしょう?そもそも、9階層のコピードールの装備の一部もここから供給されてるんですから、かなり幅広く用意してるはずですよ」
「まじかよ……」
そうして考えてみると、確かにガルディン工房に入った時、店の方に行けば接客するような言い方だったような気もする。
「それと、ボスさんは、一体どうしてもめていたのですか?」
自分の馬鹿さ加減に頭を抱えそうになっていた俺だったが、ひとまずそれを横において、ボスの話に耳を傾ける。確かにそれも気になるところだ。
「……それは、うむ」
しかし、いつもは明朗に答えるボスが、今回は歯切れ悪く言葉を濁らせた。
「どうしたんだ?ボス」
「いや、主殿にも、姉御殿にも関係ないことです。いわば、我のみ……いえ、我儘のような物、それで主殿の手を煩わせるわけには……む、済みませぬ。我はここで失礼」
そう言うと、ボスは足早に外へと出て行ってしまった。ちらりと見た扉の先には、またしてもあのメイドの姿があった。
「……まさかとは思うが……」
ボスがセルバンに懐柔されたのではないかと心の中で考えていると、リストが席を立ちあがった。
「どうやら、今日探索の再開はできそうにありませんね。何とかしたいのはやまやまですが、こういった仲たがいをどうにかするのも、冒険者の素質というものです。なるべく早く、冒険に復帰できることを祈っていますよ。とりあえず魔粘土もいただきましたし、しばらくは待ちますので」
そう言うと、リストはそのまま宿屋へと帰っていってしまった。
俺は一人残された中で一つ一つものごとを整理する。
俺への紹介状。これは、おそらくセルバンに嵌められた……というか誘導されたのだろう。正直文句の一つも言ってやりたいところだが、ガルディンの様子を見るに、紹介状自体は至極まっとうなものだったんだろう。ただ、オーダーメイドをお勧めすることで、出発が遅れるようにもくろんだ以外は。
流石に、わざわざ裏口を教えたことから、何も知らずに紹介状を書いたとは考えにくいが、セルバンの紹介でオーダーメイドの装備を作ってもらって文句を言いに行くというのも、抵抗があるものではある。
とりあえず、文句を言う程度ならいいが、怒鳴り込んでも流されるだけだろう。
ボスの事。ボスについては、あのフィーリエとかいうメイドが関係しているらしいということ以外は分からない。
俺にもごまかすというのは本人が言うように知ればそれだけで迷惑がかかるから……いや、しかし、この村でそんなことが起こるか?
「まさか、いや、まさかな」
俺はボスとフィーリエが××しているところを想像しそうになり、慌てて頭からそのイメージを追い出す。ボスにはゴブリナもいるのだ。仮にそう言う関係になったとしても、この階に固執するほどというのは……。
「とりあえず、ボスを問い詰めようか」
そう考え、俺はとりあえずボスを探すために部屋を出たのだった。
ということで、アンネちゃん一時離脱




