オークと妖精村長
結局、飛べないアンネの足に合わせると相当遅くなりそうだったので、一旦肩から降りたアンネを拾いなおし、ドクターの元へと向かう。
どうやら、ドクターは村の中央にある建物にいるようだ。
「む……」
そこまでの道のりを歩きながら、ボスが不可解な顔をする。
「どうした?ボス?」
「いえ、ここは、妖精村と言っておりましたが建物の大きさが……」
確かに、そうしてあたりを見れば、ここにある建物は小さなものでも田舎の納屋、俺たちが向かう先にある大きなものになれば前世の学校ほどの大きさの建物もあった。しかも、よく見ればそれらは全て所謂平屋のような作りになっているようだ。
「確かに……そうだな。妖精が住むだけなら、これほど大きな建物はいらないだろうな。……ただ、俺たちみたいなのが来るならその宿泊施設として用意されているんじゃないか?」
ここはアンネの故郷であると同時に、賢者の塔最初のセーフフロアでもある。普通どれほどの時間をかけて塔を登るのかは不明だが、10階層を1時間もかけずに登る……なんていう規格外でもなければ、この階層で一夜を明かさない理由はないだろう。実際、俺たちも1日かけてここまで来たわけだし、野営を経験したとしても、安全を保障されたここで上層を目指す準備をしない理由はない。
俺の予想を肯定するように、リストが大きく頷いた。
「そうですね、実際ここで数泊する冒険者の方は多いですよ」
そう言いながら、歩いているうちに、目的の場所に到着した。とりあえず建物にあるいくつかの扉の内、ある程度大きいものを開け、中に入った。
中に入ると、そこはかなり広い空間になっており、そこに白衣を着た妖精の老婆と、俺たちを超える巨大な人影があった。
「ふむ、セルバン、あんた自身が案内するなんて一体そいつらは……アンネ、アンネちゃんじゃないか!?」
のんびりとこちらに語り掛けて来た老婆は、嬉しそうに飛んでくると、アンネを抱え込んだ。
「おやおや、こんなに怪我して……」
「ドクター、アンネの怪我を治せるか?」
「私を誰だと思っているんだい、セルバン」
そう言って、ドクターと呼ばれた老婆はいつの間にか手に持った縄でアンネを縛り上げていた。
「……え?」
先ほどまでドクターの腕の中でうにゅうにゅ言っていたアンネが茫然とした声を出して硬直した。
「いやはや、羽を半ばまで失って、これは腕もイカれてるね。アンネちゃんには悪いが、途中で逃げられてもいけないから拘束させてもらうよ」
「ちょっと待って、私何されるの?え?怖いんだけど、ちょっ、グォーク助け……」
俺たちが見ている中で、アンネは更に奥の扉へと連れ去られていった。
「主殿……助けなくて良かったので?」
「いや、だってなぁ……」
茫然としていた俺たちだったが、それを見てセルバンが笑って話しかけて来た。
「安心されよ。ドクターの腕は確かだし、アンネに悪さはせんよ。まあ、あの怪我だと一晩ほど泊まりになりそうだがね」
そう言って、セルバンはこちらを向き直った。
「ボス殿、グォーク殿。重ねてアンネを助けてもらった事、感謝する。旅先でのアンネの話も知りたい。アンネも怪我が治るのは先であることだし、わが家へと泊まってはくれんか?」
結局、3階層からずっとついて来ている茸人はアンネを待って病院に残り、リストは行きつけの宿があるとかで前回のボス戦で入手した土?を途中報酬として分けて一時解散となった。一方俺たちの方は断る理由もないので、セルバンの家へとついて行ったのだった。
歩くことしばし。セルバンの家は先ほどの建物の次に大きな建物だった。どうやら2階建らしく、建物の一番高い場所に大きく立派なバルコニーが設置されている。
「……中々立派な建物だな」
「不相応だと思ってはおりますが、この村の村長等しておりますからな」
なんでも、いろいろな客の対応をするために大きな建物を持っているらしい。大きさ的には清潔な環境下での治療が必要な病院>最悪屋外で応接できるが出来れば室内で応接をすべきことが多くなる村長宅>そもそも巨大な種族は野営を日常としている者が多いため重要度が低い宿屋群>妖精住民の家といった感じだ。
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村長宅は大きな建物だ。俺やボスでも大きく感じる……というか、俺たちでさえも子どもに戻ったかと思うほどの比率で全体的に大きい建物だ。生活しにくくないかと思ったが、どうやら小さな種族のための抜け道や応接室もあるそうだ。居住スペースもこの巨大な建物の入り口部分に集まっているらしい。
どうやら、妖精村と言いつつ、常駐する妖精以外の種族もいるらしく。ドクターの病院にもいた大きな人、巨人種や人と同じくらいの背丈の鬼種のメイドなどがいるらしい。他のフロアにある病院に関しては、ここと同じように様々なサイズの種族がいるらしいが、ここまで村長宅が他種族対応しているのは賢者の塔内で初めての行政機関、要は塔側の窓口であるここだけらしい。
まあ、宿泊するうえではこれらのことは関係ないのだが。
そんな精霊村の村長というのはかなりの重責……のはずなのだが、そうとは思えないほど村長であるセルバンは柔和な男だった。
「おぉ!グォーク殿!よく飲むではないか!これは妖精村で作っている地酒でな、塔の外にも輸出しておる自慢の一品なのだよ!」
俺とボスで開けた3樽目の小樽をの淵に座りながら、セルバンはほんのり赤い顔で大笑した。ここは、村長宅の応接室の中でも、そこそこ大きい種族に対応するための一室だった。
辺りには割と美人な鬼メイド……もう角が無ければ人と見間違うくらいの見た目をしている……が周りに控えている。
目の前にあるテーブルには所謂フルコースっぽい料理が並べられており、本来なら作法などにうるさそうな見た目であったし、実際にナイフだのフォークだのがいろいろと並べられていたが、セルバン自ら作法には気遣わなくて良いと言ってくれていた。
流石に俺は様子を見ながら食事を進めたが、ボスは手づかみで食べていた。まあ、そこは俺の気分の問題だろう。何度もこう言った機会があるのならともかく、今のところ今後こういった機会があるかどうか不明だし、俺自身指導できる立場でもないので、今後の課題としよう。
そんな食事の席でのもっぱらの話題は、やはりアンネのことだ。俺とアンネの出会い、いろいろな魔物達との戦い……それに、オークの研究成果……成果というほどでもないかもしれないけれど、そんな様々なことを話した。
セルバンはそれを非常に興味を持って聞き、そして一々驚いたり、喜んだり、或いは息を飲んだりと表情豊かに聞いていた。
そんな風に話していると、ボスがおもむろに立ち上がって俺に声をかけて来た。
「主殿、しばしここから離れても構わぬだろうか。そこの女性と話していたのだが、中々気が合いましてな、一度手合わせしたいと思うのです」
「おい、ボス流石にそれはセルバンさんに失礼……」
「構いませんぞ、フィーリエ、手合わせするなら裏手でやってくれよ」
そう言うと、フィーリエと呼ばれた鬼メイドとボスは連れだって部屋を出て行った。扉が閉じ、その場に、俺とセルバン、それに控える数人のメイドが残された。
「ふぅ、今日はとても良い話を聞かせてくれてありがとう……アンネも成長しているのだな」
そう言って、寂しそうにひとみを伏せたセルバンは、その目をカッと俺に向けた。
「グォーク殿、アンネをこの村に留まらせてはくださらんか?」
俺はその声を聞いて、傾けていたコップを取り落すのだった。
なお、ドクターのところにいた巨人は大きな方たちの治療をするための助手。
巨人としては非常に手先が器用。医療技術的にはドクターの方が高いが、アンネと同じくらいの大きさなので、基本ドクターが指示して助手が医療行為をしている。
久々の医療行為なので、ドクターもハッスルしている。回復魔法は使えるが、ただ回復すると集落のオークみたいに腕が変な方に曲がって直ったりする。
すみません、年度末でバタバタしているため、暫く一話投稿にさせてください。




