オークと小休止
「ふぅ、いきなりボス部屋に突入とかならなくて助かった」
俺はそう言いながら、マネキンに貰った水を飲みほした。
「まあ、今回は最初のボス部屋ですからこうやってアナウンスありますけど、今後はそれもないですからね。最後まで、ボス部屋に至るまでには何かしらの異変、というかサインがありますが、それを見つけるのも挑戦者の資質として求められるんですよ」
そう言ってリストがおいしそうに焼いた骨付き肉をかじる。
そう、俺たちは現在、偽物と戦った部屋で休憩を取っていた。また、この部屋の偽物、というかマネキンは、敵意なく交渉した場合はある程度交易も出来るらしい。
で、今回はボス部屋(うちのオークナイトの部屋ではない)だということで、しばしの休憩と夕食……だろう、多分。とにかく休憩の為に夕食を交渉で手に入れて休憩しているのだった。
アンネはあの後、何とか意識を取り戻し、交渉で手に入れた回復薬などを使った事で回復しつつある。が、えぐり取られた羽根と折れた腕は現状だと放置していては回復しないだろう。今は、自身の腕に麻痺魔法をかけようとしているもののそもそも痛みで魔法自体が発動していない。
流石に部位欠損を治すような回復アイテム(実際にあるのが驚きだが)の類を交渉で手に入れることは出来ないようなので、次のボス戦ではアンネは数合わせ以上の活躍を期待するのは無理……というか、戦闘自体がかなり厳しいところだ。
本当にこの次の階層を突破できるのか、少し不安に思っていると、リストがほほえみながら近づいてきた。
「グォークさん、不安そうな顔ですね」
「……まぁ、さっきここでかなり苦戦してからのボス部屋だからな、不安にもなるさ」
それを聞いて、リストは微笑んで俺の横に座る。
「大丈夫ですよ。自分を信じてください。グォークさんたちは私が案内した中でもなかなかの強さを持っているんですから」
それを聞いて、俺はリストにさりげなく問いを投げかける。
「……この階層に入った時も薄々感じてたんだが、リストさんって、あえて情報を絞ってるよな?」
「……まぁ、全てを話しているわけではないですね」
それを聞いて、俺は静かに頭を振る。
「一応聞いておくが、それは、悪意があって、というわけじゃないんだよな?」
「……もしも、仮にどうしても最短で先に進みたいというなら、言ってください」
リストは少し困ったような顔でそんなことを俺に告げて来た。
「いや、アンネも、もう少し時間が欲しそうだし、俺も自分たちで塔を進んで行きたいって気持ちはあるさ。つまるところ、貴方が情報を絞っているのも、そう言う事だろ?」
アンネの話や、塔の住人の対応を見るに、恐らくリストは塔でも上から数えたほうが早いくらいの有能な案内人なのだろうと思う。そして、そんな有能な案内人が塔の管理者、つまり賢者の勢力に認知されていない、なんてことはないのではないだろうか?
少なくとも、3層のエリアさんが彼のことを認知していたり、この階層のマネキンと楽しそうに話していたりするのだから最低でも10階層までの塔の住人には認知されているはずだ。
そして、同じく3層で与えられた試練は、案内人が解決してしまっては意味のないものになってしまう。果たして案内人にそう言った情報を公開するのを制限しているのかは不明だが、少なくとも、リストは、案内をしつつも、なるべく俺たちがこの塔の本来の目的、冒険者として強くなることを考えて静観しているのだろう。
と、そう言った推察を話すことは無かったものの、俺の言葉で目論見を看破されていたことは分かったのか、頭を掻きながら恥ずかしそうにそっぽを向いている。
「まぁ、アンネも、ボスもそうだけど、いけるところまではやってみるさ。だから、本当に危ない時や、致命的なことがあったら教えてくれよ」
「それはもちろん」
そう言って俺は微笑んで、そしてもう一度リストに向き直る。
「それで、本当に次のボス戦は大丈夫なんだよな?」
リストが、今の流れでその話する?みたいな顔をするが、今回はアンネがほぼ戦力外なのだ。
「今回だけだ。攻略方法とかは聞かないから」
「……大丈夫ですよ。そもそも、こちらの能力と武器……武器は対処できなかったようですけど、こちらの能力をそのままコピーしてきたここの魔物、コピードールが異常なだけで、次のボスは下の階層で成長して塔を登り始めた子ども達ですから」
なるほど、確かにゴブリン勢にやられたり、クイズに失敗したりして酷い目に会された後に、さっき以上の相手に敗北するとか、攻略を模索するとか以前に攻略を諦めてしまう難易度かもしれない。
「本来は、ハズレの道を選ぶと、鏡の魔物とかでこちらの攻撃を反射する敵が居たり、弱点以外無効の相手がいたり、或いは普通にフレンドリーに話しかけてくる魔物が居たりして”十分に魔物を観察しないと痛い目に会う”っていう経験をさせてからの試練なのに、あなたたち最初の一回以外全く間違えないし、かと思えばこの部屋入るなりすぐさま戦闘態勢になるし……正直、一回登り直しかな、とか思ってましたよ」
「お、おう」
かなり静かな人物かと思っていたが、どうやらいろいろ考えていたようだ。言い切ってから、言いすぎたと思ったのか少し恥ずかしそうにしていたリストを見ながら、俺は立ち上がってボスとアンネに声をかけた。
「よし、それじゃあ、行くか」
なお、この後挑戦したボス部屋で戦ったリトルドラゴンだが、飛行せず、火を吐き、基本噛みつき攻撃、というマザーサラマンドラとサラマンドラを足して2で割ったような魔物だったため、さして苦労することなく倒すことができたことを追記しておく。
なお時間的には
塔侵入時 6時
1階層突破 1時間
2階層突破 2時間
3階層突破 3時間
4~8階層突破 3時間
9階層突破 2時間<イマココ
休み有りとはいえ11時間戦闘含めの運動とかヤバい。基本順路に沿って次階層に行くために1時間、そこに戦闘やらいろいろ加わるとこれくらいの時間になる。
10階層はボス部屋だけなので戦闘時間だけ。
リストがいないと順路を探す必要があるため、平均で1.5倍程度最悪グルグル回っていつまでたっても進めない可能性がある。
リストさんは生存能力は随一、塔の知識も非常に多いが、賢者の塔という魔境は、(作中におけるクイズ迷宮だけでなく)定期的に内部構造が変化するランダムダンジョン方式なので正確な道案内はそれこそ塔側のマッシュ老がやったみたいに情報を持った住人が案内するしかない。
ただし、精霊郷が行きたいと思った場所に移動するランダム形式だったが、賢者の塔はその階層のコンセプトを維持しつつ模様替えするタイプ。何日もかけてゆっくり変化していくため、短いスパンで行き来していれば一応道の完全把握は可能。




