オークのボス
今日も後一つか二つ投稿します。
ある日、オークの集落に一体のオークが姿を現した。少なくとも、俺がこの集落に来てから一度も見たことのないオークだろう。
と、言っても見慣れぬオークが来ることそれ自体はそれほど珍しいことではない。オークの知能の低さはここでも発揮されており、そもそもオークは集落を認識してすらいないと考えられる。
オークが群れるのは、単純にそこに多くの雌と食べ物があるからなのだ。
それゆえ、(そもそもの集落があまり多くはないが)複数の集落の中で一番近い場所に、追加の雌やエサを求めて移動して体を休めるわけだ。勿論、そんな不確かな生活はまっぴらなので、俺はメインの集落を決めているが……。
と、それは兎も角、今回来たオークは今まで見て来たオークとは少し雰囲気が違った。なにか、歴戦の勇士、と言ったような雰囲気を感じたのだ。それを感じさせるのは、左目を割くようにつけられた傷跡のせいだろう。
オークに生傷は絶えない。強靭な身体と再生力をもつオークであるが、持ち前の愚かさで無用な傷を作ってくるのがオークだ。だが、それでもオークに大きな傷が目立つことはない。骨折であっても、自然に回復してしまうのがオークというものだ(流石にそこまで行くと上手くしなければ折れた部分が変形してしまうが)。
その再生力をしても治らない傷跡とは、いったいどれほどのものだというのだろうか。
……まあ、それさえもしょうもない理由のような気もしないでもないのだが。
変化の少ないオークの集落では珍しい変化だったのでしばらく観察していると、傷持ちのオークはどうやら他のオークに喧嘩を売ったようだ。不意打ちだったせいもあり、不運なオーク一体が馬乗りで滅多打ちにされている。
あれでは勝ち目はないだろう。
……案の定傷持ちが勝ったようだ。そして他のオークたちがゲラゲラと笑い始める。
そして、オークたちの笑みがなくなってすぐ、彼らは一斉に傷持ちに襲い掛かった。
もちろん俺はそこには参加しない。加勢する理由も見当たらない。ただ、珍しいことではあるのでもう少し見ていくことにした。
ここはオークの集落。しかも、時間は夜に入ったあたりで集落にいるオークはそこそこの数だった。その分行為にふけってこちらを感知していないオークもいたが、絶対数が多ければ当然この新参者に興味を引くものも多くなる。
つまるところ、傷持ちは一瞬にして十数体のオークに襲い掛かられたのだ。
今までの経験上オークの身体能力というのは、雌雄の差や俺という特殊な個体を除けば、基本的にそれほど差がないようだし、万が一、傷持ちのオークが何らかの理由で普通のオークの2倍の力が発揮できたとしても、あれほどの多勢に無勢だ。何割かのオークが同士討ちで被害をこうむるのが確実だとしても、その過程で傷持ちも圧殺される……そう考えていた。
だが、そうはならなかった。傷持ちはオークたちを見据えた後、一歩下がったのだ。
オークは基本的に敵に向かって一直線だ。それ故に、オーク達は傷持ちオークの目の前で団子になって崩れ落ちる。轟音と肉のへしゃげる音が響き渡り、僅かなオークの亡骸と、腕や鼻のひん曲がったオークたちが闘志を燃やして、殴り合う。
もはやその場は乱闘だ。傷持ちだけでなく、目の前に見えるオークを手当たり次第に殴り合っている。もはや、傷持ちを倒すという思惑などどこかに吹き飛んでいるようだ。
そんな中、傷持ちはというと、元々いた場所からさほど離れない場所で一体のオークに殴りかかっていた。
周囲で乱闘しているオークたちがいるとはいえ、もはや勝負は決定的と言えるだろう。何度も何度も殴打されたオークから力が抜ける。そして、その瞬間、オークたちがピタリと動きを止め、一斉に傷持ちの方を見つめた。
そして、傷持ちはそんな彼らに向かって叫んだ。
「オーク!グォォル、ルゥア!(オーク ツヨイ ボス!)」
こうして、俺たちの集落にボスが現れてしまった。以前現れたボスのことを思い出し、どうしようかと思案した俺は、とりあえず傷持ちに会わないように気を付けようと決めたのだった。
傷持ちとの戦闘場面
オークA「あいつうざくね?やっちゃう?」ダッシュ
オークB「処す?処す?」ダッシュ
傷持ちオーク(アトズサリー)
ゴツン!
オークA「ざっけんじゃねえぞこの三下ァ!ぶつかってくんじゃねえ!」
おーくB「そっちこそふっざけんなよ!死にてぇのか!」
本当にこいつら協調性ねぇな。