オークと冒険者
本日2話目
オークの集落に傷持ちのボスができて数日……。集落には殆ど何の変化も起こっていなかった。勿論、ボスに命令されようが半分くらいは無視してしまい、半分の半分は命令を実行しきる前に内容を忘れるような者達ばかりなので、実際に変化がないというのは、異常、とまではいかないのだが。
少し不気味に思いつつも、俺はなるべく長い間集落に腰を落ち着けないよう、今日も狩りにいそしんでいた。
最近はなるべく長い間集落を空けるついでに、周辺の地理をさらに調べておこうと思い、行動範囲を広げている。正確なものは分からないし、この世界でもそうとは限らないが、現在は太陽が出てくる方角、要は東側に向かって行動範囲を広げていた。
と、どうやら何かが戦っているようだ。ガンガンと硬い物を叩くような音と、怒り狂った豚のような鳴き声……つまるところオークの声が聞こえて来た。
しかし、オークは単純な腕力に任せた戦闘能力ならば随一である。このあたりにオークが何度も攻撃しなければならない相手などいないはずだ。さもなければ逃げ惑う獲物を追いかけて、行ったり来たりしているはずだ。
だが、そのオークの声はほぼ一か所にとどまっている。
気になった俺は声の方を覗いてみた……そして、俺は一瞬、思考が止まった。俺の目線の先、そこには一体のオークと、四人の人間がいた。
三人が男で一人が女、皆武装していて、いかにも戦闘を生業にしているようではあるが、年齢的には20代後半、と言ったところだろうか。
構成は、長剣を持った男が攻撃し、盾持ちの男がオークの攻撃を受け流す、そして、弓持ちの男があたりを警戒し、唯一女である杖を持った人物が火の玉を出して攻撃を仕掛けているようだ。
……この世界魔法があったのか!自分自身がオークであるので、もしかしたら、と思ったこともあったが、身の回りにオークとゴブリンと森の獣たち、それに、極々僅かな人間の雌しかいなかったためこれまで魔法を見たことがなかったのだ。
普段なら、俺は初めて見た魔法に興奮していたかもしれない。まあ、それで相手に発見された段階で敵対必死だと思われるので、結局反応はあんまり変わらなかったかもしれないが……。
だが実際には、俺は魔法に驚きつつもそれに興奮することは出来なかった。
なぜなら、彼らに相対しているオークが、血まみれだったからだ。体中が焼けただれ、鋭い傷跡がいくつも走っており、そこからは鮮血が滴っている。
オークの生命力は非常に強い。仮にここで戦闘が終わり、十分な食料が手に入るのならば、全身自分の血でまみれた今の状態からでも何事もなかったかのように復活することができるだろう。
ただし、それはあくまでも今この瞬間に戦闘が終われば、という話だ。近くに死体の類もないことから相手の四人組は、たった四人でこのオークを相手取っていたと考えられる。
そこから導き出せることはただ一つ、現在まで大した痛手を与えられていない以上、オーク側の勝利の目は、無い。
それは俺にとって、地面が崩れたと錯覚するほどの衝撃だった。なんだかんだ言って、俺はオークの身体性能を信頼していた。
腕力ならばこの森に棲む魔物のどれよりも強く、素早さだって極わずかな逃走特化の魔物達以外であれば追いつけるだけの力を持っている。耐久性と再生力は折り紙付きで、更に状態異常にもならないため彼らの行動を妨げるには、オークの力を無理やりねじ伏せるか、そもそも攻撃の届かない場所から攻撃するしかないと思っていた。
だが、現在俺の視線の先にある4人はそうではない。盾持ちがオークの攻撃を受け流し、剣持ちと杖持ちが攻撃を繰り返している。
他の者の立ち回りも見事だが、一番の功労者は盾持ちの男だろう。本来なら強力な破壊力を有するオークの攻撃を弓なりの盾の表面を利用して受け流している。
オークがたやすく狩られる、ということは、即ち、俺も場合によっては狩られる立場になるということだ。
静かに見つめていると、剣持ちの男が息を殺して背後に向かっていた。そろそろとどめを刺そうとしているらしい。
それを見て、思わず俺は足元の石を盾持ちの男に投げつけてしまった。
目の前のオークの攻撃に全神経を集中していた盾持ちの男に、それを察するほどの余裕はなかった。木の幹をえぐり取るほどの威力を持ったオークの一撃が、彼の頭にクリーンヒットする。どれほど強い戦士なのかは知らないが、オークの一撃を頭に受けた時点で、その意識は手放されていただろう。
というか、頭が肉塊にならなかっただけですごいことだろう。
そして、その瞬間、勝負は決してしまった。高い攻撃力を持つオークの一撃は、盾持ちの男を弾き飛ばし、後ろで指示を出していた弓持ちの男が巻き込まれて気絶してしまう。
残ったのは2人、しかし、剣持ちは追撃を加えようとするオークの前に立ってそのまま弾き飛ばされた。
そして、男三人が動けなくなったすぐ後、オークはゆっくりと振り返る。
恐怖の顔を浮かべる女性、彼女の抵抗も空しく、そのオークは彼女を攫って行った。残ったのは、動くことのできなくなった3人の男と、それを見ている俺だけだった。
俺は罪悪感を感じつつ、そのオークの消えた茂みに向かっていくのだった。
次回、いよいよ……!




