騎士と湖の精霊
本日2話目
「んあ……もう朝か」
目が覚めたアリシアは、伸びをしてから、先ほど見た夢を思い出した。
「ふむ、懐かしい夢を見たものだ。思えばあれが、私が騎士を、人々を守るための力を得ることを決めるきっかけだったな」
そうして微笑むアリシアは、しかしその数瞬後に顔をこわばらせ、せわしなくあたりを見渡した。
「いや、ちょっと待て、ここはどこだ!テントも……あのオーク達さえいないぞ!どうなってる!」
アリシアは考えを巡らせ、そして、夢の内容と、この場所の特性を思い出す。
「いや、そんなまさか。だが……この状況は……私が夢で見て、そして願ったことが影響して移動してしまった?」
その答えが真実だと何となく感じ、うなだれつつもアリシアはもう一度考えを巡らせる。もしもそうならば、早くあのオーク達と合流しなければならない。少なくとも、私一人で賢者の塔に行ってもどうしようもないのだ。一応塔自体は冒険者が一度は行ってみたい場所、と言われる程度には人気の場所ではあるが、一人では攻略もままならないだろうし……。
そうして、アリシアはグォーク達のことを考え、ふと思いついた。この精霊郷が行きたいところを念じればたどり着くのであれば、そして、精霊達が自分と同じ程度の相手を探して歩いているのであれば、私も同じことができないか、と。
つまり、私もあのオーク達と合流したいと強く願えば、たやすく合流できるのではないのか、と。
アンネが逸れないようにと警告していたが、別にそれほど心配はいらなかったんじゃないかと思いつつ足を踏み出したアリシアは歩きながら、はたと思いついたことを頭の中で整理する。
もしあのまま目的の場所まで行っていたら、私は何に遭遇していたのだろう、と。
強くなれる場所?そんなお手軽に強くなってたまるか。
それでは憧れの存在であるエルナートや賢者の方々?それこそお笑い草だ、エルナート騎士王ははるか昔の存在だし、賢者の直弟子の方々は殆どが世界各地に出払っていて、賢者の塔にすら滅多に帰ってこないと聞く。それに、彼女たちの強さへの憧れはあっても、彼女たちに会いたい、とか弟子入りしたい、といった願望は持ち合わせていない、強いて言うならテュフラ様にどうやったら精霊と仲良くできるか聞きたい程度だが、それもこの大樹の精霊の証を……。
そこまで考えて、アリシアはハッとした。私が憧れたのはファンレイ様とテュフラ様の二人、それはつまるところ、最高の騎士と、最高の精霊使いに憧れたという事だ。そして、騎士関連の二人がこの大陸にいる確率が0に近しいとなれば、結論はただ一つだ。
「ま、まさかいるのか。わ、私と契約してくれるような、精霊が!」
慌ててキョロキョロするアリシアだったが、残念ながらここには一人しかいなかった。答えてくれるものはない。
「……いやいや、そんなバカなことであのオーク達に迷惑をかけるわけには……」
そう思いながらも、アリシアの脳裏には、はぐれてしまったきっかけについての思考が止まらないでいた。
「と、とにかく戻るんだ!うん、合流して、塔に行ってからでも遅くないんだ!」
そう、自分に言い聞かせながら歩き出したアリシアだったが、彼女は失念していた。この場所での移動には一心に移動したい場所を考えている必要があり、それは自分に言い聞かせなければならないような思考を持っていれば達成できないということに。
~~~~~~~~~~~~
「さて、アリシアを探すためには……アリシアの場所に行きたいと考えればいいのか?」
「そうよ。ただ、相手が移動してると、その分だけ出会うのが運頼みになるけどね。簡単に言えば、転移魔法で移動している相手を、同じく転移魔法を使って追いかける、みたいな」
なるほど、確かにそれだと運頼みになりそうだ。
「姉御殿、その話で行くと、我々が動くのも少し問題があるのではないか?アリシア殿が移動していれば、すれ違うことになってしまうのではないかと思うのだが?」
「あぁ、便宜上転移魔法って言ったけど、どっちかっていうと転移門の方が近いのよ。……うーん。説明が難しいけど、すれ違うことはないわ」
まあ、すれ違わないのなら問題ない。とにかく進んで行くことにしよう。しばらく進むと、またしても景色が変わる。
不思議な感覚だが、もうこの状況を一日ほど経験した後ではいちいち驚くこともない。アリシアがどこへ行ったか、どうして逸れたのかなどを話しつつも、歩みを進めること3時間。
「……会わない、わね」
「そうだな」
「ですな」
この場所では、空間と移動距離の相関性はそこまで強くない。どちらかというと思いの強さが移動距離と関係するらしい。要は行きたい、会いたいと思っていればいるほど早く目的地に着ける、らしい。だが、現在3時間たってもアリシアに出会うことは出来ていない。
「これ、あっちも移動してるわよ、しかも私達と合流するのとは別の目的地を持ってるんじゃないかしら」
「……この状況で単独行動……主よ、アリシア殿と再会したら折檻する許可を」
「出すわけないだろ。まあ、気持ちは分からんでもないが」
というか、あの責任感の強そうなアリシアが俺たちとはぐれたことも、別のところに向かって移動していることも予想外のことだ。と、なると……。
「……なあアンネ、例えばなんだが、気絶した状態で何かに運ばれてたりしたら、そいつはどうなるんだ?」
「それは……運んでいる奴の行きたいところに、ついて行くことになる……わね。意識があればまた話は別だけど」
「……」
「……」
「……」
俺たちは顔を見合わせて、そして一つ大きく頷いた。
「ボス、予定変更だ。足しになるかは不明だが、走るぞ」
「承知!」
「私はあんたの袋に入るからね!」
そうして、俺たちは考えうる限りの最高速度で突っ走り始めたのだった。
なお、アリシアちゃんは自分の足で歩いている模様。




