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オークと精霊の子ども達

本日2話目です。

”行く、よ!”


 そう言ってまず初めに動いたのは、炎を纏った赤い精霊だった。

 たった一言、そうつぶやいただけで、頭一つ分ほどもある大きさの火炎が生じ、ボスに向かって飛んでいく。


「笑止!これしきの炎!」


 迫ってきた巨大な火球を、ボスは大剣で切り伏せた。というかすごいな、ボス。


「姐さんの炎の方が切りにくいですからな!」


 何だか微妙な顔をしているアンネを無視して、俺は頭を回転させる。

 まず、物理攻撃だが……あれ、物理攻撃効くんだろうか?半透明なんだが。


「アリシア!精霊ってのは物理攻撃は効くのか!」


「牽制にはなる!魔力を纏わせれば、痛打も与えられる!だが、それで倒しきるのは無謀だ……って、絶対に倒そうとするなよ!私はこの大地で果てたくはないぞ!」


 慌てて付け加えるアリシアに、俺は頷いて再び思慮を巡らせる。だが、そんな俺に向かって今度は水の弾が押し寄せて来た。今度は、頭ほどもある水の弾が複数だ。

 俺はそれを避けつつ、甘んじて一発だけ右手に受ける。


「ッ痛!だが、部位欠損無しだ!」


 俺は衝撃で傷む手を何度も握りながら、先ほどの結果を反芻する。勿論炎と水は違うだろうし、精霊たちの中で実力に差がある可能性もあるが、少なくとも水の精霊の放つ攻撃ならば、よっぽど当たり所が悪くなければ致命傷にならないことが分かった。


 ならば、警戒すべきは赤と黄色の精霊たちだ。


 と、そう思っていると、最後の黄色の精霊も手を前にかざしている。


 チュンッ


「……え?」


 まさに光速で放たれたそれは、俺の腕へと吸い込まれていく。

 その瞬間、右手を中心に衝撃が体を突き抜け、思わず体全体が痙攣する。


「ガッ!?」


「主!?」


「グォーク!?」


 慌ててこちらに来ようとするボスたちに、何とか左手を上げて応える。


「……ぶ、じだ!それ、よりも、精霊、たちを!」


 しゃがみこんだままそう言う俺に、ボスたちはハッとして精霊たちに向かい合う。

 しかし、あれほど素早い魔法を行使してくるとは、黄色の精霊が帯電していることから、素早い攻撃が来るというのは予想しておくべきだった。


 幸いなことに、雷を放った精霊は肩を大きく揺らして連発は出来なさそうだ。


 炎はボスが切断できる。水は当たっても致命傷にはならない。なら、雷がまた飛んでくる前に対策を考えなければ。


 必死に考えるが、何故か集中ができない。対策を考えるよりも先に、そちらの原因を探る方が早いと、少し意識を向ければ、感電してプスプスと音を立てる荷物袋から甘いにおいがしているのだった。


「これ、砂糖が焼けた匂いか?」


 そう考えた俺は、もう一度精霊たちの姿を見据え、荷物袋を見つめる。

 アンネの言葉と、アリシアの言葉を反芻する。……もしかしたら、何とかなるかもしれない。


 俺は手の状態を確認する。オークの再生能力はすさまじく、感電によりひどい状態になっていた手はかなり再生していた。これなら何かを投げるくらいは出来そうだ。

 戦況を見渡すと、炎の精霊はボスに攻撃を防がれ、水の精霊は、アンネの重力でことごとく水弾を叩き落とされていた。アリシアは雷の精霊に注意しているが、自身の言った通り倒すわけにもいかないためか攻撃はしていないようだ。


 俺はそんな状態を確認して、雷の精霊に狙いを定めた。これで失敗したって、戦況に大した打撃はない。その時は別の方法を考えよう。


「アンネ!ボス!恨むなよ!」


 そう言って、俺は肩で息をしている雷の精霊に向かって、砂糖の袋を投げつけたのだった。


”!”


 驚き、小さな雷を放った雷の精霊の攻撃は、狙い違わず砂糖の袋に当たり、中身をぶちまける。甘い匂いがあたりに充満し、双方が驚いたような顔で攻撃の手を止めた。


「ちびっこ共、俺たちは戦いに来たわけじゃないんだ。だから、攻撃をやめてくれないか?」


”敵、違う?”


”いい人?悪い人?”


”あやしい?あやしい?”


 ざわざわと話し合う3人の精霊たちだが、俺たちは話している間も隙を見ては体に付いた砂糖をなめとっている雷の精霊の姿を見逃さなかった。


「もしも攻撃をやめてくれるなら、この砂糖の袋を進呈しよう」


”””わーい、いいひとー”””


 精霊たちはめっちゃちょろかった。皆に安堵の息をつき、武器を納める間に、精霊達は俺から受け取った砂糖の袋から競うように砂糖を舐めとっている。

 そして、一通りなめ終わると今度は俺に抱き付いてきた。


”いいひと!いいひと!”


”あそぼ!あそぼ!”


”どこいく!どこいく?”


「……なんていうか、こうやって見ると、子どもをお菓子で釣った犯罪者みたいね」


 おい止めろアンネ、自分でもちょっと思ってたから反論できない。そしてアリシアさんはその氷よりも冷たい視線止めてください心が折れてしまいます。


 まあ、そんなこんなで、俺の心を犠牲にしつつ、俺たちは精霊たちとの戦闘を双方の犠牲無しで終えることができたのだった。


 

一応、精霊郷の回答としては正解っちゃ正解だったり。興味を引ける物が手元にない場合は頭を抱えたり、降参と言って五体投地すると、戦いをやめてくれたりする。

 ただ、はっきりと自我を形成したような精霊が手を緩めてくれるかは、また別の話。

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