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オークと精霊郷

本日1話目です。

 俺たちが建物から出ると、なるほど、先ほどまでいたスライム離宮周辺の気候とは少し違うようだ。幾分か暖かく、また、風は適度に湿っている。

 地面を見れば一面の緑と色とりどりの花々であり、あたりに見える物といたら、背後にある祠以外は見渡す限りの場所にいくつかしかない木々くらいのものだ。


「……ここは、本当に地上にある光景なのか?控えめに言って楽園か何かに見えるのだが……」


 そう言って戸惑うアリシアの言葉に、俺も内心頷いた。確かに、何もない環境は物足りなさも感じるものの人工物がほとんどなく、地平の果てまでも野原が広がっているこの光景は一種の神秘性を感じさせるものではあった。


「何言ってんのよ。ここは精霊郷!精霊大陸のほぼすべての部分を占める、この世界最大の魔境よ!」


 そう言って、アンネがふわりと宙を浮いて先導する。


「あ、そうだ、そう言えばこの場所でのルールを言ってなかったわね」


「ルール?」


 その問いに、アンネは得意げに続ける。


「そ、力の弱い魔境や、黒き茂みの森なんかは例外だけど、普通魔境って普通の場所と法則が違ってることが多いの。そして、この精霊郷の場合は、座標がぐちゃぐちゃになってるのよ」


「座標が……ぐちゃぐちゃ?」


「例えば、山を登っていった先に海があったり、雪山の隣に砂漠が広がってたりするわ」


 アンネの言葉に、今まで以上にファンタジーな場所だと認識しつつ、俺たちは話の続きを聞いた。


「で、その座標もどこにつながってるか確定しているわけではないの。精霊郷を進む存在が強く思っている場所につながるようになってるのよ」


「……それって、ここに行きたいと思っていれば目的地にたどり着けるってことか?」


 その答えにアンネは満足そうに頷いた。


「そうそう、そんな感じ。ただ、明確にイメージしとかないと駄目よ。そうじゃないと、ふと見つけた気になる場所に飛んでっちゃうとかあるから。

 あと、身体の一部を触れ合わせておくことも絶対ね。そうじゃないと、もし変なところに飛ばされたときに、困ったことになるわ」


「なるほど……だが、そうなると戦闘とかが問題になるんじゃ……」


 それを聞いて、アンネはチッチッチと指を振った。


「こっちに来る前に言ったでしょ。精霊郷の奴らは気の良い奴らよ。戦闘になんかめったにならないわ」


 そう言いながら、アンネは俺たちに手を差し出してくる。


「さ、行きましょ。グォーク!」


 そうして、俺たちは精霊郷へと本格的に足を踏み入れたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~

 精霊郷での散策は、確かに不思議な体験だった。歩くごとに景色が目まぐるしく変わり、ふと気が付いた時には別の場所に移動している、といった何とも言えない感覚だった。


 ただ、そんな異常な状況であっても、アンネの言う通り、戦闘一つない、只々歩くだけののどかな旅路となった。見た目の変化も、砂漠やら湖やら樹海やらいろいろと歩き、その分天候や機構の変化も経験したが、基本的には体力が無尽蔵のオーク2体と冒険慣れしている冒険者、そして、体力こそないものの荷物の中に入り込んで休憩することが可能な妖精が一人。


 そんな一団にこの精霊郷を踏破するのは非常に簡単なこと……のはずだった。


 それが間違いだと分かったのは、漂う精霊たちが声をかけて来たのがきっかけだった。頭が痛くなるような感覚を覚えたと同時、頭の中に声が響いてきたのだ。


”誰?誰?人じゃない?精霊じゃない?”


”怖い人?楽しい人?”


”戦う?遊ぶ?”


 そんな念話に、慌てて俺は返事を返しながら、そちらを振り向いた。


「ま、まて!俺たちは戦うつもりはな……」


”戦う!戦う!”


 振り向いた場所にいたのは3体の精霊だった。3体とも子供のような姿をしており、それぞれが赤く炎を纏った男の子、青く水を纏った女の子、そして、黄色で雷を纏った男の子の姿をしている。

 彼らが嬉々として戦闘に移ろうとする様子を見て慌てる俺たちの中で、アリシアだけは落ち込んだ様子で言葉を発した。


「やはり、こうなったか」


「やはり?一体何のことだ!」


 俺の問いに、アリシアは剣を鞘に納めたまま構えた。


「アンネが精霊郷について解説していたが、私の知っている精霊郷と全く違っていたのだ。

 曰く、精霊郷は弱きものには楽園を映すが、強きものには地獄を見せる。

 曰く、精霊郷の住民の命を奪ってはならない。

 曰く、精霊郷は冒険者にとって最悪の場所、帰ろうとするときには既に退路はなく、前へ進めども目的地に着くことなしである。とな」


「妖精大陸へは船が出てるんだろ!」


 不可解な状況へのいら立ちに荒立った俺の言葉に、アリシアも怒鳴り返してきた。


「港からは賢者の塔が見えるのだ!状況が全く違う!」


 そうこうしている間に、3体の精霊がこちらに向かって炎や水を吹きかけて来た。


「グォーク!ボス!貴様らに行っておく!絶対にこいつらを倒すなよ!噂ではここを切り抜けられても、その後精霊郷に閉じ込められるらしいぞ!」


 こうして、精霊と俺たちの、倒してはいけないルールでの戦いが始まるのだった。

精霊郷を一言でいうと、こちらのレベルでエネミーが変わるランダムダンジョン。(ただし、敵を倒すとペナルティがある。)

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