エピローグ オーク達の出立
本日3話目です。
黒き茂みの森から抜け出し、賢者の塔に向かう。と言っても、すぐさま出発する。というわけにはいかなかった。一つ目は集落のこと、そして、もう一つはゴブリナのことがあったからだ。
とりあえず、5人で連れだって集落へと向かう。本当はオークキングの集落に近い新集落へと行こうとしたのだが、リリスウェルナが「メインディッシュは最後に食べる派」だと謎の言葉を吐いたので、先にオークの集落の方に行くことになったのだ。
そして、集落に着いた時、集落の入口には、仁王立ちする雌オークの姿があった。
「……げ」
「おお!雌オーク殿ではないか!我が主、グォークは息災であるぞ!」
嫌そうな顔をするグォークと、対照的に嬉しそうに声をかけるボスに反応し、雌オークは俺への突撃を敢行した。
「グォウ、グォーク、ガルァ」
そして、謎の言葉を発しながらぶちかましを敢行した雌オークをよけきれなかった俺は、そのまま組み伏せられるかと思いきや、雌オークが顔を俺の胸に顔を当てて抱きしめていたのだった。
「へぇぇぇ♪」
「なんですか、リリスウェルナ様」
「いいやぁ、なぁんでも♪」
それはそれは良い笑顔でそんなことを宣うリリスウェルナに軽くいら立ちを覚えつつも、そのまま放っておくわけにもいかないので、とりあえず幼子にするように彼女の頭を撫でてみた。
……おかしい、めっちゃ雌オークの腕が食い込んでくる。というか、彼女の息もすごい上がっているのだが……。
「グルゥ♪(オカス♪)」
「いや、ちょっと待て!ちょっと待ってください俺にも心の準備があるんです。っておいボス何見てるんだお前早く助けろよ!」
そう言う俺に、ボスは心底理解できないという顔をして返答を返す。
「前々から思ってはおったのですが、なぜ主は雌オーク殿の誘いを断るので?これほど一途で素晴らしい乙女など、この森では一人も……いや二人くらいしかおりますまいに。あ、これはのろけではありませんからな!」
そう言い切るボスに、これは協力を取り付けるのは無理と判断し、視線をアンネに向ける。当然だ、リリスウェルナとは出会ってから一週間も経たない仲ではあるが、彼女がこの状態を納めるつもりなどあるはずがないことはなんとなくわかる。というか、むしろ嬉々として扇動する側だろう。
そして、その頼みの綱であるアンネはと言えば。
「あら、いいじゃない子ども作ってあげれば、しばらくはここともおさらばなんだし、あ、でも子供ができたらその時は情報収集に協力してね。あんたとオークの子供ってだけで、研究価値はかなり高いわ」
「アンネェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」
俺は絶叫した。まさかの裏切りに涙さえ流した。しかし、その後起きたことは驚嘆すべき事実だと言えるだろう。
常識人のアリシアが止める前に、雌オークが自ら俺を解放し、そして涙目でどこからか肉を持ってきたのだ。そして、それと同時にアンネに目を向け、自分の心臓を指さしたのだ。
「え、どういう事かしら?」
悩むアンネに、しかしリリスウェルナが気楽に言い放った。
「聞いたらいいじゃない。妖精種なら、アレ、持ってるでしょ?」
「あ、念話魔法」
そう、アンネは念話魔法で、相手に言語能力が無くても意志を伝えることができた。これが重要だった。何度も質問を続けた結果。
「……え?なに、じゃあ、雌オークはさっきの言葉を理解したうえで、グォークを引き留めようとしたってこと?……ねぇ、一回確認するけど、この子、ほんとにオークよね?正直、ちょっと前のボスより賢いわよ。こいつ」
「愛のなすわざねぇ♪あなたたちとの約束が無ければ、積極的に手助けしたいところよ」
まて、この女が手を貸すだけで詰み状態だぞ。
「あらあら、そこの童貞、安心しなさい。私は約束は守るわ。守らないと頭でっかちの塔のあの子がうるさいしね」
そう言って、リリスウェルナはくすくす笑いつつ、雌オークに何かを耳打ちする。すると、雌オークは最初リリスウェルナに殴りかかろうとするものの、そこをぐっと抑えて頭を下げていた。
……いや、やっぱりあいつオークの皮を被った何かなんじゃないか?そしてリリスウェルナはなにを吹き込んだ!
少し疑問に思いつつも、簡単に荷物を整理して集落を出発する。そもそも荷物などほとんどなく、要するにリリスウェルナに集落の場所を教えるのがメインであったため、荷物も香辛料などのみのささやかなものだ。
俺たち6人は新集落に向かっていく。え?人数が増えている?雌オークがついてきたんだから仕方ない。
まあ、俺に襲い掛からないならとりあえずひとまず置いておこう。なんだか不満そうなボスの視線にさらされながら俺は歩き続けたのだった。
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「おお!愛おしき我が妻よ!」
「……boss?」
新集落で沈んだ顔をしたゴブリナに声をかけたボス。よく考えると進化によって体格やら顔やら、声も微妙に変化しているため、人違いだとされないかと思ったのだが、愛の前には些細な問題だったようだ。そのままスムーズに夫婦の営みに入っていく。もはや見慣れた俺やアンネはせめて隠れてやれと思いながらも無視し、リリスウェルナはよだれを垂らしながら見つめ、そして雌オークは一切疑問に思うことなく周りを見回していた。
「いや、ちょっと待て!肌の色がおかしいが、あいつは人間じゃないのか?いや、人間でないとしても、その……」
唯一こう言った耐性がなく混乱するアリシアは、リリスウェルナに肩を叩かれた。
「お嬢さん、一ついいことを教えてあげる」
そして、カッと目を見開いてこう言い放つ。
「異種族姦は和姦なら合法よ!あなたのところの頭でっかちもそう言ってるわ!」
「リリスウェルナさん、それ誤解招くから。アリシアさん。ボスの恋人は、確かにゴブリンの変異種だ。アンネにも確認したし、本人も認めてる」
そんな一幕もありつつ、俺たちは新集落の方で少し休んでから人間の町へと出発することになった。ボスとゴブリナの別れも、言葉が通じないなりに色々ともめていたものの、やっぱりリリスウェルナが耳打ちすると納得したようだ。本当に何話してるんだ、こいつ。
「あ、そうだ、あなたたちにもう一つ、プレゼントがあるわ」
そう言って、リリスウェルナが俺に近づき、そして頬にキスをした。
「ちょ、何を」
「あらあら、ほっぺにチューくらいで動揺しないでよグォーク君」
そう言うと同時に、今度はボスの頬にキスをした。……ボスにめっちゃキスマークがついているんだが。俺にもついてるんじゃないだろうな。……ついてるんだろうな。
何となくテンションが下がりながらも、俺たちはリリスウェルナ、雌オーク、ゴブリナを見渡し、手を振った。
「それじゃあ、行ってくるよ!」
こうして、俺たちは生まれ育った森を抜け出し、アンネの実家、賢者の塔に向かう旅路をすすむのだった。
これにて1章完結です!とはいえ、一段落着いただけでまだまだグォーク達の冒険……いや、1章は冒険してないか。
というわけで、これからグォーク達の冒険が始まります!ご意見、ご感想等ありましたら、これを機にジャンジャン下さいね!
おまけ
雌オーク「グォーク、心配したんだからね」
グォーク「……(何言ってるか全然分からん)」
自分の感情に正直すぎて、使われてない発音を独自表現に置き換えちゃう雌オークさんの知能指数ヤバい。
まあ、例えば始めて見た車のことを「ブーブ」とか「大きな機械の虫」とかそんな感じで呼ぶようなものと考えれば……。




