グォークのオークキング対策
本日2話目です。
結界用の罠は、アンネのレベルアップによって習得した”微弱感知”という魔法を使うことになった。この魔法は微弱な魔力を滞留させた物品が破壊された際にそのことを感知できる、という代物だ。
これ単体では、とても森全体を網羅などできないが、大量にジャイアントスパイダーの糸でトラップを作ってこの問題を解決……。
「駄目ね、これ」
できなかったようだ。
「そもそも、糸のトラップだと、何か人くらいの大きさの物が移動したってのは分かるけど、それがオークなのかサラマンドラなのか、それとも他の魔物なのか、はたまた人なのか、全くわからないわ」
そう言ったきり、アンネは黙り込んでしまった。確かにそれはその通りだし、駄目出しした理由の一つは、一時間ほど前に設置した4つのトラップの内、既に二か所に反応があり、破壊されたことをアンネの”遠視”の魔法で確認したからだ。
アンネの遠視は新しい魔法の上、魔力消費もそこそこ激しいらしい。まあ、本人曰く魔力の量は並ではないらしいし、実績もそこそこあるためかなりの連続使用が可能らしいが、だからと言って不眠不休ではたらかせるわけにもいかない。
「しかし、アンネの魔法でどうにもならないとなると、俺たちの罠じゃどうにもならないんじゃないか?ボスも感知能力は高いだろうし、ゴブリン達の協力を取り付けられれば警戒網くらいは作れるかもしれんが、森のどこから入ってくるか不明な現状でマンパワーに任せた作戦を遂行するには、流石に頭数が少なすぎる」
そんなことを考えていると、アンネは何かを思いついたように手を打った。
「そうよ!私達にできないっていうんなら、できる奴に手伝ってもらえばいいのよ!」
「誰にだよ」
任せられる相手がいないから悩んでいるということを否定するようなアンネの言葉に呆れたように声をかける俺に、アンネは胸を張って答えた。
「それは、今から探すけど、この森には魔王がいるはずなのよ!」
「魔王って、それ、ヤバい奴じゃないのか?」
そう問いかけると、アンネは呆れたように反論した。
「なに前時代的なことを……って、そう言えば魔王については歴史的な話でしたっきりだったわね。いいわ教えてあげる。
確かに、一番初めに現れた魔王はそれはそれはすごかった、って話よ。この話は前したわよね?」
その言葉に、俺は記憶を反芻する。確か、魔王の話はある程度言語を習得できるようになって、人間の世界での歴史的な背景も知っておいた方がいいと念話を交えつつ伝えられた物事の一部であったはずだ。
確か、歴史上の魔王が現れたのは6000年前、当時からあり現代でも繁栄を誇り、そしてこの黒き茂みの森に最も近い領土を持つ大国。リス・デュアリス神聖王国を筆頭に世界全体に宣戦布告をしたのが始まりだったという。
結果、死者こそその事件の大きさに見合わないほど少なかったものの、さりとて、全世界の総戦力でさえ魔王にかすり傷すらつけられず、1000年にわたる暗黒時代が幕を開け、強力な魔物や妖魔が跋扈する時代に突入したのだという。
アンネによれば、それが解決したのが約5000年前、それによって魔王と言う称号は意味を変質させることになった。元々は、人間たちが魔物を操る恐ろしい初代魔王の能力に恐怖した結果、長い年月を経て各地に存在した独自の領域を納める魔物の主たちもまた、魔王と呼びならわすようになったのだという。
そして、いつしか魔王という称号は”魔物を操り人々を襲う王”から、”魔境を司り管理する王”というものに変化していったのだという。
「その性質上、自分の魔境で産まれた存在であれば、優遇してくれる可能性は高いと思うのよ!」
そう言って自信満々に言うアンネは、更に魔王の強さをまくしたてる。
「魔王って言ったら最強種族よ。最弱の魔王でさえも、抑え込むためには大規模国家でも全ての防衛を投げ捨ててあたる案件、小規模国であれば4か国くらいの常備軍全てを集めてようやく討伐できるって評価なのよ。そんな相手がほんの少しでも味方してくれるなら、オークキングだって目じゃないはずよ!」
「……それ、個人に味方してくれるような存在なのか?それに、もしそれが可能だったとして、ドラゴンの時にも助力を煽ったほうが良かったんじゃないか?」
そう聞くと、アンネは頭が痛そうに答えた。
「協力してくれるか……については、よくわからないわ。一応、賢者の手によって、反抗的な魔王種は全て殲滅させられてるから、一応話が通じる魔王であることは間違いないんだけど。特に、ここの守護者に関しては、いくつか出会った時の話が伝わってて、話をしたとか、一晩泊めてくれたとか、仲間が剣を向けたら、干からびるように死んだけど、ビビッて腰を抜かしてたらいつの間にか森の外まで輸送されてた、とか、いろいろあるのよ。
それと、ドラゴンの時は、時間も場所の検討もつかなかったから協力以前の問題だったのよ」
とはいえ、旅人である冒険者でも、敵対しなければ一晩くらい泊めてくれるくらいには善良……いや、何か裏があるのかもしれないが、とりあえず希望的観測をすれば善良な可能性のある存在だ。オークキングの討伐、まで行かなくとも、森の支配者から侵入者の連絡を受けることができるようにするだけでもかなりのアドバンテージであることに間違いはない。
もちろん、戦闘に参加してくれるならこれ以上のことはないが。
アンネによれば、ドラゴン幼女襲来時に不自然に魔力が膨らんだ場所があったそうで、恐らくはそこに魔王の手がかりがあるのではないかとのことだ。
話し合った結果、新集落でゴブリンを一匹借り受けたアンネが魔王探し、俺が集落へ一旦帰還することになった。本来であれば、俺とアンネ、あるいはボスとアンネで魔王を探しに行くという選択肢もあったのだが、オークキングの接近がいつ起こるか分からないため、いち早く魔王探しをする必要性と共に、一度集落に戻って様子を見ておく必要があると判断したのだ。
新集落の方にボスがいればよかったのだが、残念ながら行き違いになってしまっていた。
そんな判断をしたものの、実はもう手遅れに近い状況だったことを俺が知るのは、この後すぐのことである。
あっ(察し
なおこれから数話はアンネちゃんが出てきません。
ま、まあ、ビジュアル的に色以外人間なゴブリナちゃんがいるから……。
いや、まあ別にアンネちゃんお色気役じゃないから問題ないっちゃないけど。




