グォークとボス
今回はボス回です。
「……」
「……?」
冒険者の二人組に会ってから数日たったある日、今日は、俺とボスのみで狩りに出かけていた。今までは無かったことだ。
なぜ今まで無かったかと言えば、それはアンネがいたからだ。そもそも、アンネの貧弱さはレベルの上がった現在でもこの森最下位。ハイドスネークが居れば食われかけ、ゴブリンが居れば攫われかける。膨大な魔力と多彩な(しかし威力的には生活に便利程度の)魔法を使えるが、それらに攻撃力は皆無で、仮に攻撃に転用するほど威力を上げると魔力不足で一戦すれば戦闘能力を失うという貧弱さだ。
一応、俺たちがテイストレント戦でやったことを応用して、水で気道を塞ぐ、みたいなこともできるらしいが、体内に入った時点で水を操れなくなる上、至近距離でなければ精密駆動できないという残念仕様だ。場所と時間を限定したドラゴン幼女戦の時の毒水爆弾は例外と言えるだろう。
それでも、潜伏と手札、それに対応力は高いため、逃げ続けることに関しては蜘蛛以外に関してはかなりの成功率を誇るようになってきている。蜘蛛は週一ぐらいで捕獲されているが……なんだろう。特攻でもあるのかもしれない。
と、まあそんなアンネだが、シィラの実を持った状態なら、他のオークに襲われる心配は皆無だ。今回は、アンネの気分が乗らなかった……というか、集落のオークの観察を優先したかったらしく、留守番ということになった。とりあえず万一があるので、アンネには隠れて観察するように伝えている。
と、言うわけで、俺とボス二人での狩りとなったわけだ。ただ、実のところ、この狩り、殆ど意味が無かったりする。流石にマザーの肉はもう腐敗が進んでしまったものの、狩りによって得られた獲物は昨日までの分でも十分足りるほど確保している。更に、アンネの重力のアシストが無ければ経験値稼ぎも効率がかなり悪い。
それでも俺たちが狩りに出たのは、ボスのためだ。
ボスは現在、お手伝いに目覚めた子どもみたいな感じになっている。獲物を倒したり、素材を持って来たり、あるいは指示に従って剥ぎ取りや解体を手伝って褒められることが嬉しいらしく、積極的に俺たちの役に立とうと、狩りや採集に行こうとしてくるのだ。
いくらオークのかわいげの無い顔だとしても、そんなキラキラした目で見つめる相手の提案を理由なく断ることは出来なかった。
それに、今回の狩りには一つ目的があった。
そう、ボーイズトークである。
いや、キモイとか考えてはいけない。なにしろ、俺たちはほぼほぼ3人で一緒にいるのだ。ボスや他のオークは気にしなくても、アンネや俺が気にする男のあれやこれやというのは(特にオークなら)一つや二つあるだろう。
それに、ボスについては一つ気になることがあるのだ。最近、ボスが致しているところを見ていない、という少々下品なものだが、三大欲求に忠実なオークにあるまじき行動である。もし仮に俺たちのせいで我慢しているのだとすれば、場合によっては定期的に単独行動の時間を作ったりするのも、二人を巻き込んだ俺の役目だろう。
そんなことを思いつつ、俺は意を決してボスに話しかけた。
「ボス。少し質問があるんだが、いいか?」
「モチロン! デモ ナゼ シュウラク チガウ?」
俺に質問されてうれしかったのか、即答するボスだが、すぐさま疑問も口にした。
「あぁ、いや、アンネに聞かれたらまずいこととかもあると思ってな。例えば、雌のこととか」
「?」
分かってなさそうな顔をするボスだが、まあ、予想通りだ。気にせず続けた。
「とりあえず、ボスは俺たちと過ごし始めてしばらく経つわけだが、何か不満点とかはないのか?」
それを聞いて、ボスが真剣に腕を組んで考え始める。
「フマン……グォーク ネエサン ヤサシイ チシキ チエ イッパイ イママデデ イチバン タノシイ」
そうして、うんうん唸りながら、最終的に申し訳なさそうに伝えてきた。
「フマン ナイ グォーク オレ フマン アッタガ イイ?」
「いやいや、そんなことはないぞ!ただな、ほら、最近ボスが雌を抱いてるのを見てないから、気を使ってるのかと思ってな、な?」
予想外の解釈に慌てて否定した俺の言葉に、ボスはきょとんとした顔で呟いた。
「メス? メス! タノシ イッパイデ ワスレテタ!」
俺はがくりとずっこける。というか、俺たちとの生活が、三大欲求の一つを忘れさせるほど楽しかったのか。なんというか、うれしいやら、邪推してた自分が恥ずかしいやらで複雑な気分になっていると、ボスが興奮したように声をかけてくる。
「ヒサシブリ メス シタイ! メス カル!」
……一応、そう言ったことも想定してこのメンバーなので問題ないと言えば問題ないのだが、なんかさらに複雑な気分だ。まあ、原因が半分くらい俺とはいえ、このままボスを放置して性欲が変なところで爆発しても困る。手伝うことにしよう。
「まあ、いいよ、協力しよう。ただし、人間は駄目だからな」
「ワカッテル!」
そう言っている俺たちの目の前に丁度良くゴブリンの集団が通りかかる。最近はラビットやウルフ、それにサラマンドラと言った肉の美味い種族が狩れるようになっていたので、経験値的にも肉的にも美味しくないため見逃していたゴブリンだが、ボスの相手ということなら人型のこいつらがいいかもしれない。
……と思って突然遭遇したオーク二体に遭遇して硬直しているゴブリン集団に目を向けて、目を疑った。そこには、十匹前後のゴブリンに守られるようにして、肌こそ緑でゴブリンそのものの色をしているものの、整った顔立ちは人間そのものの見た目をした少女が佇んでいたからだ。
「ボス、さっき人間は駄目と言ったが、少し変更だ。あの人間みたいなやつを確保しよう。ゴブリンに捉えられてるにしろ、そうじゃないにしろ、捕獲する必要があると思う」
そうして、俺とゴブリン達の逃走劇が始まった。
ゴブリンもオークと同じく、独自言語を持っています。……訂正、ゴブリンはオークとは違い、”まともな”独自言語を持っています。
この世界では、進化の際に言語を自動習得することがありますが、ゴブリン語が自動習得できることがある一方で、オーク語はいくら望んでも習得できません。
要するにオーク語は進化を司るシステムに言語と認識されていません。




