オークとテイストレント
本日2話目です。
俺は、胡椒のせいで何度も目をこすり、くしゃみをするボスに飲用に確保した水を渡しつつ、とりあえずできるだけの準備をしようと荷物袋をあさる。
まず取り出したのは毛皮だ。ボスが増えたことや、アンネの服もそろそろほつれが目立つようになってきたこともあり、服に使う毛皮を確保していたのが功を奏した。素早く顔に当て、ボスにもつけてやる。
生臭い。ここに到着するまでに狩ったもの、具体的に言うと、今日の昼ご飯であるホーンラビットを調理した後のあまりであるため、なめしとか全然行っていないただの皮なのだ。正直オークでなければ感染症とかも心配しなければならないかもしれないレベルのものだ。
だが、匂いを我慢するだけでクシャミの悩みから解放されるなら、現状で言うことはない。ボスも少し恨めし気に俺を見ているが、クシャミが止んだことで渋々顔を前に向けた。
さて、第二戦と行こうか!
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「はあっ……はあっ……」
トレントの幹は太く、そして複雑だ。そして、それを住処にしているこの蜘蛛は、悪辣というほかないだろう。
私は最悪の場合、枝を飛び降りてしまうということも考えていた。そうすれば私自身も死にかけるだろうが、少なくとも蜘蛛の脅威からは遠ざかることができる。グォーク達のいる場所まで到達できれば、それでミッションクリア。トレントを倒さずともここから離脱が可能になる。
そのはずだった。
だが、現実はそれほど甘くない。
「まさか、この木のそこら中に蜘蛛の糸が張られてるとはね」
そう、このトレントの枝葉全体が、この蜘蛛の巣だったのだ。そして、さらに言えば蜘蛛がその身を軋ませ、地面、つまりはトレントそのものを叩くたび、枝葉が動き、私を遮った。
「木と蜘蛛のくせに、一丁前に連携してるってわけ?ほんとにやになるわね」
トレントと蜘蛛は共生関係にあった。恐らくだが、慎重に動く生物を蜘蛛が絡めとり、敵の襲来をトレントに伝える。そして、トレントは残った敵を倒し、養分にする。そんなところだろう。
「トレントは滅多に動かないし、普段は休眠してる。だけど、稀に触っていなくても感知されることがある。なるほど、こういうカラクリだったのね」
生き残るのに不要なことを考えつつ、私は逃走し続ける。こういう所が私の悪い癖だ。だが、そんな思考をしていても、未だに蜘蛛は私を捉えきることができないでいた。
その大きな要因は、私が初っ端放った着火の魔法だ。あれによって蜘蛛は糸を吐けなくなっているようだ。だからこそ、追いかけまわされ、先回りされ、衣服を切り裂かれても今まで何とか逃走できた。
しかし、それもこれで終わりだ。もう私の立つ先に枝はない。そこはトレントの枝葉の一番端。、そして、その先には大量の蜘蛛の糸が待ち構えており、そこに続く唯一の枝にはあの蜘蛛が待ち構えていた。
ここでよかったのか、それはまだわからない。だけど、これ以上は私には無理だ。だから。
「任せたわよ!グォーク!」
そう言って私は彼に運命を託し、枝から思い切り飛び降りたのだった。
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上空から聞こえてきた声に、俺は思わず上を向いた。すると、トレントの枝の最先端に、蜘蛛の糸に絡まったアンネを発見した。その先には巨大な蜘蛛の姿が見える。
それを見て、一瞬。俺はそこを指さしながら、ボスに大声で叫んだ。
「ボス!アンネの居る真下に走れ!」
そして、俺自身は足元の石を拾い、勢いよく投擲する。
投擲した石は放物線を描き、そして、巨大な蜘蛛に命中する。
押しつぶされたぐちゃりと言う音と共に、アンネに蜘蛛の体液が降り注ぐが、まあ瑣事だろう。
その後、2発、3発と俺が石を投擲し、アンネの方も火の魔法で糸を焼き切っていき、最後の糸が切れたことで墜落したアンネをボスが救出した。
因みに、その間にかなり攻撃をしてきたトレントだが、俺たちオークにとっては根の攻撃も枝の攻撃も大したことはないものだ。刺激物で催涙状態にさせる木の実投擲を正面から受けないようにトレントから目を背けつつ行動を続けた結果、特に問題なくアンネの救出が成功した。
アンネの救出がなったとなればトレントとの戦いも緊急性はない。アンネの状態を把握するため、素早く離脱することにした。
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アンネを救出後、俺たちは素早く平原へと向かった。本来なら人間に出会う危険があるためあまり出向きたくない場所ではあるが、上空から蜘蛛に奇襲されるよりはましである。
平原まで出て、すぐにアンネの状態を確認する。
「……!」
糸を丁寧に裂き様子を確認すると、かなりひどい状態だった。体中にかすり傷や火傷があり、その透明な羽根にも変な癖がついている。これではしばらく飛べないかもしれない。また、衣服に関してもボロボロで、もはやかろうじて局部を隠すことしかできていない。おまけに、イカ臭い腐敗臭じみたものまで漂ってくる。
「シィラの実のロケット、壊れちゃったわね」
いつぞやのオーク避け、精液まみれのシィラの実は、結局木製のロケットに最低限を入れ込むことで保管していたのだが、今回の攻防でそれが壊れてしまったらしい。
とはいえ、それほどの激しい攻防があったにもかかわらず、アンネは致命的な一撃は受けていなかった。復活がいつになるかは分からないが、それでも無理をしなければ、いつかは元通りにすごすごとができる(衣服除く)と確信できる程度の怪我の状態だった。
「……それじゃあ、帰りましょっか」
アンネがそう切り出した。俺が、さっきの魔物がテイストレントだと伝えたにも関わらずだ。
「アンネ、それでいいのか?」
「だって、これ以上あんたたちに迷惑かけられないし……大丈夫。もうご飯に文句なんて言わないから」
そう言って俯くアンネに、俺は決意をして頷いた。
「よし、なら、もう一回挑んでみよう」
「ちょっ!何言ってんのよ!あんた私の話きいてなかt……」
「俺が食べたいからな」
そう言うと、俺の言葉にアンネが絶句する。
「それとも。アンネは食べたくないのか。香辛料の効いた料理」
「そりゃ、食べたいけど、でも……」
逡巡するアンネに、俺はニヤリと笑って宣言する。
「大丈夫だ。勝算はある!と、いうか、攻撃が効かないわけでも、非常識な破壊力を持ってるわけでもないんだ。オークがなぐれば、いつかは倒れるさ」
そんな俺の言葉に、アンネは茫然と俺を見つめて、そして吹っ切れたように声を張った。
「ああ!もう、しょうがないわね!なら、私も付き合うわ!勝算があるって言ったからには、さっきみたいに私が死にそうになったりしたら許さないからね!」
そんな俺たちのやり取りを見てボスが笑い、更にそれを見た俺たちが恥ずかしさでそっぽを向く……なんてこともありつつ、俺たちは準備を整えて、再びテイストレントを倒すために森に分け入ったのであった。
なお、戦闘が長引くとトレントに実った香辛料が尽きる模様。
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