オークとトレント
というわけでトレント戦&スパイダー戦です。先ずはアンネちゃんの奮闘からどうぞ。
side アンネ
蜘蛛に連れ去られ、グォークに向かって叫んだあと、私は私を連れ去った蜘蛛をにらみつけ思案していた。
グォークには何とかしてみるとは言ったもののこの状況だ。
手も羽根も使えないというハンデがあっても、只々助けを待つだけではいけない。捕らえられた瞬間に発動させた重力魔法が振りほどかれる前に作戦を立てる必要がある。
「とりあえず、この糸が切れるか、よね?」
腕を動かしたり、羽根を動かしたりするものの、切れる気配は全くなかった。まあ、予想通りだ。
羽根と手は使えない。となると使えるのは足と魔法、あと殆ど役に立たないだろうが、体当たりとかみつきくらいだ。
足があるなら逃走……と思っても、私に絡まっている糸の先は、あの蜘蛛につながっているので、殆ど無意味だ。
「蜘蛛の糸って、火に弱いのが定番よね?」
ここは木の上、もし燃え移ったりしたら自分の首を絞めることになりかねないが、この状況でそんなことを心配している場合でもないだろう。
「着火!!」
攻撃に使えるなんてお世辞にも言えない、ただ種火を付けることができる程度の火。だが、それで十分だったようだ。火は蜘蛛の尻に直撃し、一瞬で糸に着火する。
「PYUGYYY!?」
甲高い声が響き渡り、恐慌状態になる蜘蛛を油断なく見据えつつ、私は次の魔法を用意する。あの様子だと、糸も本体も火が苦手なようだ。それならばともう一度着火の魔法を使おうとして……その瞬間、地面が揺らいだ。
「!?」
慌てて魔法を中断し、下を見ると、斧を振りかぶったグォークが、トレントに攻撃を受け流されたのが見て取れた。
「グォーク達、助かるけど……こっちはちょっときつくなったわね」
先ほどの攻防で、蜘蛛にダメージを与え、弱点を知ることができた。それに、自分に纏わりついたものはまだ外れていないが、幾分か糸が燃えたことで、蜘蛛から遠くに逃げることは可能になった。
ただ、逃走可能になった一方でトレントが動き出した影響から、せっかく弱点だと判明した火が使いづらくなったのは残念なところだ。足場であるトレントが大きく動いた瞬間に魔法を使って、誤射した上に退路を塞がれる、なんてことになる可能性もあること、先ほどと違い逃げようと思えば逃げられるようになったことで、退路を失う危険を承知で、とはさすがに言えない状況だ。
そして、もう一つ、私はこの状況に慣れていないが、恐らくあの蜘蛛はこのトレントという足場に慣れているはずだ。縦横無尽に動き回る蜘蛛、そして糸にも警戒しなければならない。そんな無茶な難易度に、それでもアンネは唇を舐めて気合いを入れた。
「やってやるわよ!こんなところで、死んでたまるか!」
そうして、私と蜘蛛の追いかけっこが始まった。
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side グォーク
「行くぞ!ボス!」
「ウゴク キ タオス!」
俺とボスは、アンネを救うべく、トレントに攻めかかった。
「!?嘘だろ!」
しかし、ボスの一撃は、足元から突如現れた根の攻撃で阻まれ、俺の斧での斬撃は木の幹を使った受け流しで、防がれてしまった。
「こいつ、強いぞ!?」
強いと言っても、マザーのように理不尽な攻撃力や防御能力を持っているわけではない。ボスや俺の攻撃した箇所は明らかに傷ついてボロボロになっていること、こちらの消耗がかなり少ないことから、もしこれがただの戦闘なら、攻撃回数と戦闘時間が増えるだけでいつかは攻め殺せるだろうと思えた。
だが、現在進行形でアンネが命の危機にさらされている以上、無駄にできる時間はない。硬いうえに、防御技術を持つ相手がこれほど厄介だとは思わなかった
「ボス!そのまま攻撃してくれ!」
ボスに正面からの攻撃を任せ、俺は背後に向かう。
「……ッシイ!」
そして、気合を入れて一撃。だが、それも地面から飛び出した根っこで防がれてしまう。見れば、赤色の光が俺を見つめていた。
だが、ボスの方も攻撃を続けており、そしてこいつはそれをすべて防いでいた。
「視界を遮るのは無理ってことか」
実際に見たわけではないが、ボスの方にも赤色の光が、トレントの目が向いているに違いない。
俺は赤い光を目がけて石を投げつける。
すると、今まで以上の木の根と、それ以上の枝が赤い光を守った。
「そこが弱点か!ボス!赤い光を狙え!」
「ワカッタ!」
そうして、俺も再び石を赤い光に投擲し、それと同時にトレントに突撃する。
目への攻撃は、当然のように失敗する。だが、それによって視界は遮られている。
先ほどまでは近づけなかった場所まで接近した俺は、大きく振りかぶった斧をトレントに叩き付けた。
「ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ」
軋むような叫び声をあげ、トレントが体全体を鳴動させ、俺を弾き飛ばした。
「!?」
とっさに受け身を取った俺とボスを、先ほどの一瞬で増殖したのだろう、いくつもの赤い光が見つめ返す。
「まじかよ」
あれだけの視界を遮らなければ、もう奇襲は出来ないということだ。攻撃自体はそれほど破壊力はないが、このままではさらに討伐に時間がかかってしまう。
と、更にトレントの変化は続く。二本の枝が腕のようにしなり、今まで葉や枝で隠れていた木の実を投げつけ始めたのだ。
「カンケイ ナイ! コウゲキ スル!」
ボスがそう言って突撃を敢行する。確かにたかが木の実だ、仮に当たったとしてもオークの耐久力なら問題ない。そう思っていた俺だったが、木の実がボスの頭にぶつかった瞬間、異変が起こる。
「!?グホッ、ゲホ、ゲホッ、メガ、メガイタイ」
「目つぶし!?」
驚きつつも、俺は慌てて木の実を避ける。よく嗅いでみれば、あのくしゃみを誘発しそうな独特な匂いがあたりに充満しつつあった。
「胡椒……ってことは、こいつがテイストレントか!」
目的の魔物を見つけたのはうれしいことではあるが、かなり厄介な状況であるのには変わりない。早いうちに打開策を見つけなければならない。
それに……。
「ゲホッ、ゲホッ。ヴアアアア……」
「オークに効く状態異常があるとか、聞いてないぞ」
状態異常を気にしながらの戦闘。初めての経験に、俺は頭をフル回転させるのだった。
オークの状態異常について
オークは、基本的に毒物の摂取や電流による状態異常にはかかりません。
しかし、生物の防衛本能を利用した物や、肉体に直接的に異常を与えない状態異常にはかかる可能性があります。代表的な状態異常については以下の通り。
効かない 毒、猛毒、火傷、凍傷、麻痺、沈黙、石化、魅了、衰弱、睡眠、混乱、病気、各種能力低下系、各種能力上昇系
効くが意味がない
興奮……常に興奮しているから。また魔術的なものは無効。
怒り……特殊行動をしないから。また、魔術的な(ry
場合によっては効く
暗黒……視界周囲に暗黒の霧を出すタイプの魔法なら効く。視神経に作用する奴は効かない。そして、嗅覚がいいので効果は控えめ。
幻影……暗黒と同じ
拘束……物理的な縄や蔦を出して縛るタイプのものは効く。麻痺の上位互換的な奴は効かない。
目つぶし等スタン系……物理的に転ばしたり目つぶしをしたりすれば、それを振り払うまで行動できなくなることがある。ただし、オークはアホなので、目つぶし状態でも普通に攻撃してくることがります。
まあ要するに「攻撃で血も出るんだから、物理的に行動とか視界とか制限しちゃえば影響はあるよね?魔法無効だけど、本人に作用しない魔法はどうしようもないよね?」ってこと。
なお、実はこの影響で、即死を付与する魔法が無効だったり、空間自体にかける転移魔法(転移門タイプ)は有効でも、個人にかける転移魔法(〇ーラタイプ等)は無効だったり、回復魔法が無効だったりします。




