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オークと調味料

本日2話目です。

 まず、俺が選んだのは塩だった。海があるのだ。エグさがある可能性は高いが、極端な話海水を煮詰めれば塩ができるはずだ。


「へぇ、水からちょーみりょー?ができるのね」


 海水を汲んでいる俺に対して、アンネが興味深そうにのぞき込んできた。


「ああ、塩だ、舐めてみるか?」


 それを聞いて、俺はアンネに海水の入った入れ物を差し出した。因みに今回使っているのは石の椀だ。調理をするので木の椀や入れ物ではどうにも対応できなかった。


 本当なら土鍋なんかができればいいのだが、窯どころか粘土もないので煮物を作るためには石椀は必須である。苦労をして作ったかいがあったというものだ。


 海水を口にしたアンネは、微妙な顔をして舌を出した。


「なんか、苦いうえにしょっぱいわね。確かに食べたことある味だけど、本当にこれで完成するの?」


「塩は、確かそのまま煮詰めると苦みが残るんだ。……どうにかすると苦みがあるにがりと分離できるはずなんだが……実際に作るのは初めてだから詳しいことは分からないな」


 ジト目で見るアンネに、俺はそっぽを向いて目線を外す。しばらくすると、アンネはため息をついてニコリと笑った。


「冗談よ。流石にちょっと苦いくらいで文句なんて言わないわ。ありがとう、グォーク」


「お、おう」


 突然のお礼に少しどぎまぎしつつ、俺は塩を煮詰める作業を続けることになった。


~~~~~~~~~~~~~~~


 塩を煮詰めていくと、最終的に焦げてしまった。真っ黒になって焦げついているそれを無言で見つめているアンネは、なんだかとても怖かった。


 とはいえ、材料は尽きることはないというほどある海水だ。今度こそ完成させられるように、今度は少し水気がある状態で火を消し、余熱で炙っていく。


 結果、すこししっとりしているものの、何とか塩と言い張れるものが出来上がった。


 早速、肉にまぶして焼いてみる。

 匂い自体は普通の肉と同じだが、塩をまぶしたというだけで、なんだかワクワクするような気持ちになるから不思議なものだ。


 みな、焼き上がると同時に、口に含んだ。


「!?苦っ!?でも美味しっ」


「たべた ない!はじめて!」


「雑味がすごいが……久々に料理を食べたって感じがするな」


 三者三様の感想を述べつつも、俺たちは楽しんで食事を進める。ただ塩をまぶしただけ、しかもその塩さえ、雑味とエグみの強い、言ってしまえば低品質のものだ。多分、俺やアンネはそれ以上の、まともな料理を食べたことがあるし、実際味的な面で言えばそれほど上等なものではないだろう。

 だが、それを差し引いても、この肉は美味かったと自信を持って言える。久々に食べた料理と言える物。ただそれだけで、俺たちの欲求を満たすには十分だったのかもしれない。


 皆ががつがつと肉を食べ進め、全ての肉を食べ終わったところで、満足したような吐息がこぼれ出る。

 アンネは、残った塩を大事そうに集め、あまつさえ、補給ができず貴重なはずの記録用の紙に包んで保存している。


 皆が幸せな気持ちの中、俺は調味料について考えを巡らせた。


 確かに、塩ができたのは大きい。調味料と言えば塩、という側面はあるし、塩味があるのとないのでは味に雲泥の差が出る。


 だが、そこで止めて良いのだろうか。アンネのためだけではない。料理の味を思い出した俺はいろいろな味を、いろいろな料理をまた食べたいと思いつつあった。


「アンネ、もっと調味料、探してみないか?」


「あてがあるなら、……いえ、あてがなくても付き合うわ!」


「モット オイシイ タベル レル? ナラ オレ イク!」


 食の魅力に魅せられた三人は、更に森の中へと進むことになった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「とりあえず、今俺が考え付いている調味料はいくつかある……が、そのほとんどが自然には手に入らないものなんだよなぁ」


 日本料理に欠かせない醤油や味噌、あるいはお酢やみりん、調味酒、コンソメに味の素。こういったものは、発酵させたり野菜を絶妙な塩梅で煮込んだり、そんな工程を経て作られるものだ。

 一応醤油や味噌なら、豆に塩を振って発酵させる……程度の知識はあるが、そもそも塩も発酵させるための容器も満足に無い状態であり、さらに言うならば、成功するか失敗するかも分からない調味料制作に費やすほどに暇があるかと言えばそれは否だ。


 俺が悩んでいると、アンネが愕然とした顔で俺に詰め寄ってきた。


「グォーク!料理の味を変えるの、ちょーみりょーとかこーしんりょーって言ったわよね!」


「調味料と香辛料な」


 それを聞いて、アンネは嬉しそうにまくしたてた。


「アテがあるかもしれないわ!」


「アテがある?調味料にか!」


 アンネは興奮して頷いた。なんでも、図鑑の”テイストレント”という魔物の説明で、その実は香辛料になる、という記述があったのだという。その時は料理などには興味がないことから、地のイメージで化粧品的な物の原料だと思い読み飛ばしていたそうだが、今の食事でその記述を思い出したらしい。


「よし、それなら、この森でトレントを探してみよう!」


「おお!」


 こうしてトレント探しが始まったのだった。

アンネ「りゅうのじーじ」

竜帝「おぉ!アンネじゃないか、おうおう、ジージに何の用じゃ?」

アンネ「じーじ、ずかん見てたら分からないとこ出てきた」

竜帝「ほぉ!頑張り屋さんのアンネが知らんとな!よしよし、この物知りジージが教えてあげよう」

アンネ「うん、ここ、こーしんりょーと、ちょーみりょーが取れるって書いてある。こーしんりょーとちょーみりょーってなに?」


竜帝「……」

アンネ「じーじ?」

竜帝(まずいまずい、全く分からんぞ!え?こーしんりょー?更新料?いや、香神料?それにちょーみりょー、超魅了?いや、超美料、か?……いや!この図鑑、儂には小さすぎて文字は読めんが、ここにある瓶は見覚えがあるぞ!確か塔のサキュバス共が……)

竜帝「お、おおすまぬ。少しどう伝えようか考えておってな。うむ、それらは、良い匂いをさせたり、美しさを保つものじゃ、簡単に言えば化粧品じゃな……多分」

アンネ「そっか、けしょーひん。……興味ないかな」

竜帝「そんなことを言っちゃいかん!女性たるもの、飾り立てて良い雄を引き付けられるように……ああいや、しかしこんなかわいいアンネが化粧してしまったら悪い虫が……」

~~~~~~~~~~~


 犯人竜帝様説。なお、竜帝様は人化しないタイプの竜族かつ、生肉主義なので調味料も香辛料も縁遠い存在でした。

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