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オークと料理改革

妖精少女は野生の生活に耐えられなかったそうです。

本日も2話投稿

「飽きた」


 レベル上げ後の食事時、何やら不満そうにしていたアンネが、マザーの肉を咀嚼しながらそんなことを言った。


「飽きたって何に?」


「肉に」


 アンネの言葉に、俺は深く納得し、そして言い放つ。


「慣れだ」


 俺も、前世の記憶を持つ身だ。料理の素晴らしさは分かる。だが、数か月も肉と果物しか手に入らないとなれば、そんな憧れは消え去るものだ。郷愁より今の生活が重要なのだから。さらに言えば、オークは基本肉食だ。

 今後は兎も角、現在身体的な不調はないし「病気にならない体」を願って転生した以上、生活習慣病等の偏食による不調に関しても高い耐性を持っている可能性が高いため、無理をして別の食材を探したことはなかった。


「ちょっと冷たくない?」


「とは言っても調理できるものなんて……いや、そうか。ボスも仲間になったんだから、今は別に切羽詰まっているわけでもないのか」


 オークの集落の存続に奔走していたり、レベルアップの為に手を尽くしていたためなにか急かされる気分になっていたのに加え、ボスという、オークに命令できる立場のオークがいたことで急かされるようにオークの移住計画や強化計画を推し進めていたわけだが、本来俺たちの計画は期限もなにも決められていない計画だ。

 今回の騒動の原因になった色ボケ幼女が居なくなったのだから、レベルアップを中断して、少しぐらい寄り道したって大局に影響はない。


「そうだな。アンネ。よし、それじゃあ、レベル上げは一旦休んで、料理のレパートリーを増やすためにもう一回森を探索してみようか」


「そうね。そうしましょう!」


 そう言って、俺たちはもう一度探索をすることになった。


~~~~~~~~~~


「まずはここだな」


 そう言って俺たちは、まず南に向かった。何故なら、東と西は(人間の村の付近に入らない限りは)森であり、手に入れることができる物は集落周辺と大して変わらないだろうと考えられたからだ。


 それに、以前探索した際に、魚や木の実も見つけているため、確実に食材を手に入れられるという強みもあった。


 一緒についてきたボスは、始めて見る海におっかなびっくりしながら、俺は普通に水の中に入っていき、身体能力に任せて魚介を確保していく。


 その結果、数分で全員分の食料が揃った。俺たちが魚介を取っている間に、アンネは森で木の実を取ってきたようだ。


「これがレリンの実、それに魚に、貝ね」


 そういって炙った魚介を口にしたアンネは、しかし微妙な顔をした。


「うん、確かに、新しい味だわ。うん。でも、なんていうか、違うわね。あ、いや、今までのよりは全然いいし、しばらくならこれでも我慢できそうだけど……」


 その言葉は本当に心からの言葉のようで、苦労して取ってきたのにその反応かよ、という呆れよりは、アンネの落胆に同情のような気持ちを抱かせるような反応だった。


「……そうだな。なら、山菜やキノコ、もしくは虫なんかを探してみるか?その様子だと、肉や木の実だと多分満足できなさそうだしな」


 それを聞いて、アンネが申し訳なさそうな声を出す。


「そこまでしてもらわなくても……」


「いや、俺もアンネにはオークの集落に関する結構なところを頼ってるからな。それに、もしこの森で、おいしいものが食べられるなら、俺も食べてみたい」


 そう言って、俺が笑うと、アンネが苦笑しながら、ありがとう、と呟いたのだった。


~~~~~~~~~~

 と、山菜やキノコ、食べられる虫を探した俺たちだったが、その状況は芳しくなかった。


「ないな」


「ないわね」


「ない」


 俺とボスには植物の知識がないので当たり前ともいえるのだが、アンネの持つ知識でも、食べられる山菜を見つけることができなかったのだ。あるのは生命力のある雑草くらいである。


 虫はいくらか見つかったものの、見た目が悪く、あまり食べる気が起こるものではない。しかも、アントのような魔物でなく、普通の虫はオークにはあまりに小さい。可食部的にも、捕獲の際の難易度的にも致命的だった。


 そして、キノコだが、残念ながら見送ることになった。安全だと判断したキノコをかじったアンネが、立ちくらみを起こしたからだ。アンネは多くのことを知っているものの、専門家ではない。素人のキノコ狩りは無謀との判断だ。


 ということで、ミミズやセミ、カブトムシの幼虫のような見た目の虫を炙り、口に入れてみる。


「ん!?」


 驚いた。正直、とても美味しい。ただ幼虫を焼いただけだが、クリーミーな味わいが口内に広がった。見た目にさえ目を瞑れば、今まで食べたものでも有数の食材だ。


 今度は、セミのような虫を口に運ぶ。


「お!?」


 今度はサクサクとした感触がして、塩味が舌を楽しませた。うん。殻の柔らかいエビをそのまま食べているような感覚だ。これもうまい。


 ミミズにも手を出してみる。


「……?」


 ミミズは微妙だった。ただ、味が薄い感じなのでそれほど忌避感はない。塩とかあれば変わるかもしれない。


 ミミズは微妙だったが、他の虫は結構美味かった。これはアンネの反応も期待できるのではないかと考えたが、やっぱりアンネの顔色は優れなかった。


「……うーん」


「虫は無理か?」


「いや、そんなことを言うつもりはないし、実際食べてみたけど……何かしらね。ちょっと味気ないというか、薄味というか……」


 俺はそれを聞いて、少し考えた。そして、ふと考えついたことがあった。いや、まさかとは思ったものの、逆にあり得るかもと思い、アンネに少し質問してみる。


「なあ、アンネ。お前、料理は出来るのか?」


「したことないわよ。料理しなくても用意してくれる人がいたし」


「じゃあ、その料理をしているところを見たことあるか?」


 それを聞いて、アンネはまた首を横に振った。

 そして、俺はアンネに最後の問いを投げかけた。


「アンネ、お前は、料理の味って、どうやって決まると思っているんだ?」


「そりゃ、使った食材の味でしょ?料理人も素材そのものの味を生かした、とかよく言ってたわよ」


…………。


 うん、なるほど。


「分かった」


「分かったって何がよ」


 俺は、アンネに俺の考えを伝える。


「いいか、アンネ、肉を焼いたらそのまましょっぱくなったり辛くなったりしないんだ、野菜も焼いたり蒸したりするだけで複雑な味になったりはしないんだ。

 ……まあ、ごく一部はそう言うものもあるだろうが、基本的に料理をする場合は、食材に加えて、調味料というものを加えるんだ」


 それを聞いて、アンネはジト目で俺を見つめる。


「いやいやいや。私結構いろいろな物食べてるけど、そんなもの食べ物に入ってなかったわよ。肉とかって、生前に何を食べてたとか、今どれくらいの年齢かとかで味が変わるんでしょ?知ってるんだから……そうでしょ?」


「…………」


「え?マジなの?」


「少なくとも、俺の知る限りでは調味料というのは料理にいれてしまえば目に見えない物も多い。少量でも強く味やにおいが感じられるものが調味料とされているはずだ。まあ、場合によっては料理の仕上がりの色を赤くしてしまったりするような強烈なものもあるけどな」


 そう聞くと、アンネは顔を赤くしてうずくまった。


「……アンネ」


「話しかけないで」


「…………」


 とりあえず、研究にのめり込みすぎて料理に興味のきの字も見せなかったから知らなかったんだろうな、と好意的に解釈しつつ、俺はアンネが復活するのを待ち、調味料を手に入れるために行動を開始するのだった。

 なお、アンネが調理に調味料を使うというのを知らなかったのは、彼女の生活環境にも原因があったり。

 彼女の住む賢者の塔には、めっちゃ甘い肉を持つ糖蜜アリや、岩場の岩塩を体になすりつける習性があるせいで、狩ってすぐに焼いてもちょうどいい塩味になるソルトリザード、あるいは、カニの味がして果実のように山羊が実る木、バロメッツなど、かなり珍しい魔物が生息しています。

 また、冒険者と交流して食事を貰う時でも、とある理由で冒険者の方が一つの場所に長居できないため、カロリーメイト的な携帯食しか見たことがありませんでした。

 一方、賢者の塔での食事は、調理役の数に対して住人が多すぎるため、調理風景などは基本的に見ることができませんでした。


 そのため、アンネの中で、調理とは材料を焼いたり蒸したり煮たりしたらその味になるという考えがありました。


 ……まあ、そもそも調味料を勘違いしたのはとある人物のせいだったり。

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