オークと戦後処理
本日3話目です。
あの後、キールの実を口に放り込んだり、目つぶしに近くに生えていた渋い木の実を投げつけたり、さらに念入りに投石をしたりして動きを鈍らせ、その後は喉を潰した時と同じように水魔法と松明で削り殺すことになった。
戦ううちに、あれほど好戦的に俺たちと対面した時の雄々しいマザーの姿は見る影もなくなり、最終的には抵抗すらも諦めて弱弱しく鳴き声を上げるだけとなった。ちょっと罪悪感を感じるが、放置していればいずれ狩られるのはこちら側だ。罪悪感を押しやってとどめを刺した。
基本的な能力的には、俺たちよりはるかに強いはずのマザーだが、戦法がはまってからは殆どヒヤッとする場面もなく倒せたのは、相手が戦意を喪失してくれたからだろう。
そして、そんな強力な相手を倒したことで手に入った物は数多い。
「マザーサラマンドラの肉に鱗、それに逆鱗も無事ね。爪と骨もあるわね。内臓は薬とかになるけど……ここでは加工できないから放置するしかないわね。それと……火炎袋の中身は……やった!結構残ってるわ!これで燃料にはしばらく困らないわよ!それと……」
主にアンネが指導し、俺が解体を行って有用な素材を手に入れていく。まあ、大きさが大きさのため全てを持って帰るのは怪力のオークであっても不可能だ。多くはここに放置するか、新集落の方に持っていくだけとなるだろう。
そして、得られたものは形のあるものだけではない。
「しかし、だいぶレベルアップしたな。レベルが7になったぞ」
そう、マザーとの戦いを通して、俺はレベル7、アンネはレベル9と、レベルが2以上上がっていた。流石にマザーとの戦いはすさまじい経験値を得られたようだ。レベルを3から4に上げる時に10匹以上のサラマンドラを狩っていたことを考えると、どれほどの経験値だったか、マザーがどれだけ強かったかというを今更ながらに実感する。
……しかし、戦闘で一息ついたことで、気になることも出て来た。
「アンネ。一つ質問だが、マザークラスのモンスターというのは、そう簡単に住処を移すものなのか?」
それを聞いてアンネは、いつの間にか熾した火でマザーの肉を炙りながら応答する。
「……逆にあると思う?」
「……それは、無いな」
俺もマザーの肉を枝に刺し、火の近くに立てながら応答する。
「その通り。普通は……といっても、魔物の性格や環境によって変わるけど、少なくともマザーサラマンドラはヘルシックル級……は分からないか。要は冒険者ギルドにおいてもベテランが相手にするレベルのモンスターなの。具体的には、難易度の高い魔境に生息している一部の魔物や、突然変異で異常に強くなった魔物を除けば、基本的には土地の主と言われるレベルと言えば分かり易いかしら」
そこまで言い切って、アンネはトカゲ肉を頬張って幸せそうにする。俺もかじってみるが、まだ生焼けだった。まあ、オークはこう言った場合でもおなかを下したりしないので生焼けだろうが問題ないが。
「土地の主、か。それは動かんだろうな」
「そうそう。それに、マザーって名前の付くモンスターは繁殖力を引き換えに移動が不得手になるように進化しているはずよ。本来は住処として決めた場所を変えるなんてことはないと思うわ」
自発的に別の場所に行かないとなれば、何か外的要因があったと考えられるだろう。
ここまでは、まあ、アンネに聞く前にも薄々予想していたことだ。マザーのようなモンスターがあっちこっち歩いていれば普通に考えて生態系がめちゃくちゃになるだろうし、マザーと名の付くなら、子どもにエサを取ってこさせることが可能だろうしな。
問題はマザーがどうして移動してきたか、という理由だ。可能性は2つ。何らかの自然的な理由で元の住処が居住に適さなくなり、移住してきたという可能性。
この可能性だって十分あるだろう。サラマンドラは比較的繁殖力が高いのだから、獲物を食べ尽くしてしまった、という可能性も思いつく。また、例えばマザーが進化直後だったとすれば、マザーが進化したせいで生態系が変化して狩場を変えざるを得なかったという可能性もある。
ただ、もしそうでない場合は……。
そんな風に思っていると、アンネが深刻そうな顔で俺を見つめていた。
「グォーク。一つ言っておくわ。多分だけど、マザーサラマンドラは何かに追われてこっちに来ている。しかも、相当ヤバい奴に追いかけられてる……と思うわ」
アンネによれば、サラマンドラが本来棲息するのは、この森を超えた先、この森と同じ12魔境の一つである〈火竜山脈〉であるらしい。
サラマンドラが出て来た時点では、山脈に近い場所にサラマンドラの巣があり、そこからさらに大量繁殖したサラマンドラの幼体が、住みやすい地を求めてかなり移住してきたのではないかと考えていたらしい。
だが、それならマザーが出てくるはずがないし、サラマンドラが棲むのに適した場所から移動したとなると、山脈から十数日かけてここまで来たことになる。マザーが普通に移住先を探すなら、流石にここから火竜山脈までの間にいくらでもあったはずだ。
そこから導き出される厄介ごとを思い浮かべたのか、アンネがすごく渋い顔で言葉を続けた。
「正直、オーク達を見捨てるほうがいいような気がしてきたわ。多分、いろいろ来るわよ?マザーサラマンドラみたいに逃げ出した奴とか……追い立てた奴とかね」
「それは分かっているんだが。それで割り切れれば今まで苦労していないさ」
それを聞いて、アンネは俺に困ったように笑いかけた。
「なら、少しでも何とかできるよう、いろいろ作っておきましょう。罠や武器があれば、少しは対処がしやすくなるかもしれないわ」
そう言うわけで、俺たちは以前作った斧やハンマー、それに罠を設置しながら集落に戻っていったのだった。
マザーサラマンドラ「QURUUU?(イジメる?)」
グォーク「何言ってるか分からねえよ!」
アンネ「チャンスよ!首狙って!首!」
なお、雄サラマンドラは、マザーを逃がすために犠牲になった模様。
次回更新は来週……と言いたいところなのですが、次の次からの3話分は連続投稿したほうが良いと感じたので、明日もう一話投稿します。
そんな次回はアルトバイアン村以来の主人公以外の視点での閑話となります。
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