オークと大トカゲ
本日2話目です。
「グォーク!そいつはマザーサラマンドラ!ただのサラマンドラとは違って火を吐くわよ!」
「助言どうも!」
そんな情報交換を続けながら、俺は慌てて奴の正面から飛びのく。直後、燃え盛る火炎が俺のいた場所をなめ尽くした。炎が止まるのを待ち、もう一度接近して一撃を入れようと、俺はマザーサラマンドラ……長いから略してマザーということにしよう。
マザーの、炎を吐き終わって地面近くに下がっている頭に手斧を振り下ろす。
瞬間、マザーの頭と手斧が鈍い音を奏でた。ただ、あまり効いていないようだ。
ただでさえそこそこの硬度を持つサラマンドラの鱗だが、マザーは更にその硬さが増しているようだ。戦闘中なので詳しくは聞いていないが、確実にサラマンドラが進化した種族だろう。
「アンネ、攻撃があんまり効いていないようだぞ!」
俺が声を張り上げると、アンネも同じく声を張り上げて応答する。
「マザーサラマンドラは高い耐久力を持つ魔物よ!斬撃はもちろん、打撃にも高い耐性を持ってるの!一番いいのは刺突で、鱗の隙間に差し込めれば効率的に打撃を与えられるはずよ!」
そうは言っても、俺の持つ武器は手斧だし、突きをする武器等オークに使いこなせないので作ってすらいない。当然そんな武器は持っているはずもない。とはいえ、どうにかして敵に打撃を与えなければ、倒すどころかここから生還することすら危うい。
そんなことを考えていると、再びマザーの火の息が俺たちに襲い掛かる。慌てて避けるが、よけきれなかった結果、手斧の先端の石が砕け骨が黒くなった。慌てて放り投げると、すかさずアンネが水をぶっかけた。
すると、骨はパキンと大きな音を立て割れてしまった。しばらく愛用していた斧だったので、なんだか物悲しいがそんなことを気にしている暇はない。
と、ふと先ほどの様子を思い起こし、俺はあることを思いついた。
「アンネ!水魔法はあとどれくらい使える!?それと、水の温度を下げることは出来るか?」
「妖精をなめないでよね!?戦闘には全く向かないけど、魔力量と魔法操作については随一よ!キンキンに冷えた水を一時間はぶっ通しで行けるわよ!」
「よし来た!なら、俺が合図をしたら、あいつの喉に向かって水魔法だ!」
そう言うと同時、俺は身に着けていた毛皮を引きちぎり、足元に落ちている太くて丈夫そうな木の棒に巻き付けた。
本当なら油もしみこませたいところだが、今は手持ちがないため、毛皮がいい感じに燃えてくれることを祈ろう。
暫くマザーの攻撃を避けていると、マザーが再び息を吸い込み始めた。俺は慎重に距離を保ち、相手が炎を吐くのを待つ。
そして、吐き出された炎を、俺は手に持った木の棒の先端で受ける。すると、火が燃え移り、即席の松明が出来上がった。
「アンネ!」
準備ができたので、俺がアンネに合図した途端、アンネはすぐさま冷水をマザーの喉にぶちまけた。
「GYUAAAAAA!?」
この戦闘で最も驚いた声をマザーがあげる。恐らくだが、身体が冷えるというのが攻撃以上に応えのだろう。ゲーム的に言えば弱点属性というやつだ。とはいえ、所詮は冷水にすぎない。実質的なダメージはそれほどでもないだろう。俺は更に畳みかける。
激昂してアンネに意識を向けた隙を狙い、俺はアンネが冷水をぶっかけた喉に、松明を思い切り突き刺した。
それによってマザーは呻き、少し後ずさった。ただ、ダメージとしてはそれほど高いわけではないようだ。オークの怪力をもってしても鱗に傷をつけることすらできなかった。
だが、完全に無視できる攻撃でもなかったようだ。苛立たしそうな声を出しながら、再び俺に向かって爪を振りかぶる。
松明は、まだ破損していないし、火も消えていない。まだまだ使用可能だ。
「アンネ!もう一度だ」
「オッケー!」
アンネが再び呪文を唱えると、突然マザーがアンネの方に向かっていった。どうやら先ほどの冷水で、アンネも脅威だと認定されてしまったようだ。
だが、それは俺たちのチャンスでもある。アンネに意識を向けた分、俺への意識は薄くなっている。しかも、冷水がかなり応えたのだろう。目の前に俺がいるにもかかわらず、完全に意識を外している。
俺は足元にある石を拾い上げ、マザーの目に向かって投擲する。生まれた直後に木をえぐり取った投擲である。その結果は推して知るべし。
「GUOOOOOOOO!?」
本日2度目となるマザーの悲鳴が響いた。流石に目への攻撃など、意識が完全に外れていなければ狙えるものではないが、逆に狙えさえすればどんな生物であろうと一定以上のダメージを与えられる部位だ。狙わないわけがない。そして、その直後に更なる水魔法が喉に直撃することで、3度目の悲鳴が響き渡る。
ここが正念場だ。足をばたつかせるも、片目が見えなくなっているため狙いなどまるでないマザーの踏み付けを避けながら喉を強襲する。
……パリン!
攻撃すること4度。極端に熱量に差がある攻撃を短時間に叩き込まれた結果、その温度差と攻撃によって軋んだ鱗が砕け散った。
鱗がはがれたならこちらのものだ。強力な突きを先ほどの傷に叩き込む。
「GYUUUU…………」
マザーの巨体から考えれば、俺の全力攻撃でも、命に届く攻撃とは言えないだろう。だが、それでも鱗を剥がされた場所への一撃はマザーに恐れを感じさせる程度には大ダメージを与えられたらしい。
マザーは身をひるがえして逃げようとしているようだ。
「……アンネ、あいつを逃がすべきだと思うか?」
「そうね……サラマンドラの大量繁殖があいつのせいじゃないとしても、あいつを放置すれば確実にサラマンドラは増えるわね。そして、いずれはオークの集落に大挙して現れるわね」
つまり?
「あいつを放置していたら、オークの集落のオーク達がサラマンドラにだんだん削られていって最終的に集落自体が消滅するわね」
それを聞いて、俺はこいつを狩ることを決めたのだった。
なお、マザーは固定砲台系の魔物であり、本来の戦法的には多数のサラマンドラに前衛を任せつつ、後ろから炎を撒きまくる模様。
また、鱗もかなり硬いため、攻撃を受けることには慣れておらず、痛みにはめっちゃ弱いです。




