オークと妖精
境も2話投稿します。
あの戦士たちと会ってから、俺はずっと考えていた。
今までは、なんだかんだ言って俺はこの世界で何とかやっていけると考えていた。前世でよく見た異世界転生モノなんてジャンルの作品では、主人公はどんなに不利に思える条件であってもすぐさま不利を跳ね返して悠々自適に過ごしていたし、俺自身もこの体になってから命の危険を感じることなど殆ど無かったのだから。
だが、彼らとオークの戦いを見れば、それがただの幻想であることは明らかだった。
確かに俺は他のオークとは違い、判断能力が高い。……それがどうした。俺と他のオークで戦えば、恐らく他のオークが勝つだろう。
前世の記憶があるから、知識チートが使える。……それがどうした。知識チートしようにもこの野生の王国みたいな森の中で活用できる知識なんて殆ど持ってないない。
それでも、現在生き残っている。……それがどうした。いつ人間がオークの集落を見つけないとは限らない。
正直八方ふさがりだが、何とか現在の状況を打開できるような案がないか日夜考えていた。一番いいのは、人間と友好関係を築くこと……なのだが、オークにそれを求めるのは不可能だ。俺だけが仲良くしていたとしても、他のオークが人間を襲うなら、結局俺も討伐される可能性が高い。
ならば人間の来ない場所に移住する、と考えるも、方法が思い浮かばない上に、どれほど移動するかという問題もある。
ならば、オークの集落の戦闘力を上昇させる、ということも考えたが、その方法もどうすればよいのかが未知数であまりいい案に思えなかった。
悩みは尽きない……だが、まあ、俺だけなら何とかなるとも思っていた。オークは確かに巨躯だが、それだって前世の創作で見た、ドラゴンやらグリフィンやらと言った、遠目で見てもはるか先から見通せる、と言った大きさではない。
素早さも持久力もその巨体を鑑みればかなり優秀な方だ。人間が全力疾走するウルフたちに余裕で追いつける……というならともかく、常識的に考えればオークの足に追いつける人間等そうそういない……と信じたいところだ。
前世の知識なら確信できるのだが、魔法を見せられた後では少し自信がないところでもある。
しかし、そうなるとせっかく整備した家や道具を捨てることになるし、意外なことにここ数か月の生活で、俺はオーク達に何とも言えない絆のようなものを感じてしまっていた。正直、俺が居なくても十中八九あの集落が滅びることはないだろうとは思う。
そうでなければ、今まであの集落が存在できていたとは思えない。……だが、それでもあのアホさを知っている俺からすると、何かの拍子に全滅してしまう可能性もゼロではないと思うのだ。
そんなことを悶々と考えていると、ガサリ、と何かの音がした。今度はオークの声は聞こえない。と、いうか、争う音というよりは何かが暴れているような音だ。もしかしたら、先ごろ人間が森にいたように、意外とこの森は人の出入りが激しいのかもしれない。
罠があるなら知っておきたい、そう思い、俺はそこを覗き込んだ。
「!?」
そこにあったのは蜘蛛の巣だった。ただの蜘蛛の巣ではなく、そこそこ巨大なもので、おそらく子どもくらいならば引っかかってしまうようなものだ。そして、その蜘蛛の巣には一人の少女が捕まっていた。
それだけなら俺も、驚きながらもすぐに行動できただろう。しかし、その少女は普通ではなかった。小さな体、一目で良いものだと分かるきらびやかなワンピース。そして、その背中に生えたトンボのように透明で、蝶のように広がった羽根。
それは明らかに人間ではない種族の少女だったのだ。俺は一瞬硬直したものの、巣の持ち主が来てはまずいと判断し、持ち前の腕力で巣を引きちぎり、少女を救い出した。
しかし、そうすると俺の姿が問題だ。俺の姿はオークであり、恐らくオーク以外にとっては即刻排除、もしくは逃走する対象となっているに違いないということだ、その予想の通り、少女は一瞬絶望の顔を浮かべた後、先ほどまでのバタつきが嘘のように停止した。
……本当は蜘蛛の巣を取ってやるのが一番なのだろうが、この状況で何かするのは相手も望まないだろう。それに両手、両足は動かすことができるようだから、何とかなる可能性はある。
今後もずっと彼女を保護することなどできないから、ここら辺が潮時かもしれない。
そう思ってもう一度少女を見た俺の脳内に、突如自分の物でない思考が割り込んだ。
醜い、汚い、弱い、馬鹿、そう言った負の感情が浮かんでは沈んでいき、それが自分に向けられていることを否応なく理解させられる。そして、そんなことができる可能性があるのはこの場においてイレギュラーであるただ一人の少女だけだった。
そして、俺がその少女を見た時、その少女はわざわざふさがっていなかった右手を目にやり、舌を出してこちらを挑発してきた。
その瞬間、俺は思わず彼女を掴み、彼女に向かってまくしたててしまった。
さっきのイメージは何か、そして、少女は誰なのか、そんなことをまくしたてた。
すると、茫然としたような少女が少し考えたようなそぶりを見せてから、俺の顔に指を指して、数秒、今度は、明確な言語として頭の中にイメージが浮き上がってきた。
"あなたは一体誰?私の考えが分かるの?分かるなら、首を縦に2回振って頂戴"
……ああ、どうやら、俺は転生して初めて、意志疎通できる存在に出会えたようだ。
やっと……!
やっとオークでもモブでもないキャラが出て来たよ!(転生前除く)




