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会談

★第76話目


うぅ~む、これは参りましたな。

昼食中も、チェイムは俺と視線すら合わそうとしなかった。

何だか、益々険悪な状況になってきている。


(……おい、洸一。自分……真咲の姉ちゃんと、まだ仲直り出来へんのか?)

すぐ近くで猫マンマ(本日は牛乳に浸したパン)をハグハグとぱく付いている黒兵衛が、辺りに聞こえぬ様に囁いてきた。

ちなみに俺様の昼飯は、お粥だ。

何故ならさっきブン殴られて、奥歯がグラグラしているからね。


(……まぁな。どうにも聞く耳をもってくれないし……あまつさえ、忍者の真咲ちゃんの事も疑い出しちゃったからなぁ)

そう呟き、チラリと隣の席に座る忍者ちゃんに目をやる。

(ま、四六時中一緒だから、嫉妬するのも分かるんだけどさぁ。もう少し、俺様を信用して欲しいよね)


(……お前のどこを信用したらエエねん?)


(し、失礼な事を。信頼と実績を誇る老舗な俺様だぞ?安心して信用してもらって結構なのだよ)

言いながら俺は、軽く溜息を吐く。

(しっかしまぁ……あれだけ怒ってるって事はだ、裏を返せば僕チンの事をそれだけ愛してるって事だから……悪い気はあまりしないな。ふふふ)


(……自分、ホンマに幸せな脳みそ持っとるなぁ……病院へ行った方がエエと思うで)

黒兵衛は失礼なぐらいに嘆息した。


(……ほっとけ)

そりゃ俺だってさ、チェイムの気持は痛いほど分かってますよ。

時空を超えて出会え、そして結ばれたんだ。

しかも邪魔者まどかも居ないし、今がイチャラブする好機。

……そんな風に考えるのは普通だ。

俺自身も、偶にはそんな甘い生活を送りたいと思ってるし……

が、しかし……しかしだ、チェイムだけに構ってやれるほど、今の俺に時間が無いもまた事実なのだ。

優ちゃんのこと……そして現在の状況。

チェイムの為だけに割いてやれる時間はあまりにも少ない。


うぅ~ん……以前の真咲姐さんだったら、その辺の事は理解出来たと思うんだけどなぁ……

やっぱ『いづみちゃん』の事が気に掛ってるのかな?

俺はムフゥと軽く鼻を鳴らし、食べ掛けの粥を啜る。

うむ。薄味で物凄く不味い。

病人になったような気分だ


「ところで守護天使様」

軍に帯同している唯一の官僚、内政事務次官のピッケンズ(愛妻家)が、おもむろに切り出した。

「間も無く帝国からの使者が、この駐屯地に到着すると思いますが……如何様に取り計らいましょうか?」


「如何様にって……どう言う意味?」


「先ずは使者の出迎えからですが……儀礼プロトコルに沿い国賓、又は上級外交官待遇で出迎えるか、はたまた戦場ですので簡易的な……」


「んぁ?そんなモン、テキトーで良いんじゃないか?」


「や、適当と申されましても……」


「その辺に茣蓙ござでも敷いて置けば良いだろう。あ、お茶ぐらいは出してやれよ」


「帝国からの使者に対して、それは少し乱暴では……」


「別にこちらが謙だる必要はないからな。現に戦に勝ってるのは俺達の方だ。イニシアチブはこちらにある」

そこで一旦言葉を区切り、俺は皆を見渡した。

「使者に対して多少無礼に振舞っても良いが、危害を加えるのはダメだぞ。無防備な者に害を与えたとあっては、俺様の沽券に関わるからな。その辺のところは、兵士達には伝えておくように」


「分かりました」

ピッケンズは頷いた。

「あ、それともう一つ。仮に和平交渉が決裂した場合は……どう対応します?」


「ん?ん~……そうだなぁ……計画通り、ここで永久陣地の構築を進めるのは当然として……そうだ、直接この俺様が帝都に出向いて、皇帝とやらに直談判してやろう」


「しゅ、守護天使様自らが?」

皆が驚きの声を上げた。

中でも忍者の真咲ちゃんは眦を上げ、

「それは死地に飛び込むようなものですッ!!」

どこか叫ぶように言った。

「ここは一つ、心有る者に使者の役を任せては……」


「あ、それはダメだな」

俺は速答した。

「第一俺は、交渉を纏める気は無いぞ。そもそも上手く行くとは考えて無い。話し合いで済むなら、戦争なんか起きるもんかってこと」


「では、何の為に……」


「ん?一言で言うと、嫌がらせ」

俺は軽く肩を竦め、笑いながら言った。

「皇帝とやらに会った事はないしねぇ……ま、一度は顔ぐらい見ておきたいしね」


「ですが万が一、神代様の身に何かありましたら……」


「はは……心配すんな。偉大な俺様に、万が一は存在しないのだよ」



帝国からの使者が到着したのは、太陽が中天から西に傾き始めた頃、丁度オヤツの時間だった。

数名の官僚に護衛の騎士等を含め、総勢20名程度と言った至極ささやかな団体だった。

だがその中には、さすがの俺様とて、思わず「ンゲっ!?」と妙な声を出してしまう奴もいたわけで……


「……ヴィンス……」

使者達と会談する為に用意した簡易的な会議室へ入った瞬間、チェイムの口から呻くような声が漏れた。

ピッケンズ男爵も、驚きに目を丸くしている。


「これはこれは……殿下も男爵も、実に久し振りで」

ヴィンスは大仰に腰を曲げ、丁寧にお辞儀をした。

いかにも、慇懃無礼と言った感じだ。


「き、貴様ぁ……」

ワナワナとチェイムの拳が震える。

瞳は瞬時に殺気に染った。


やれやれ、これだからなぁ……

どうも女性と言うものは、理性よりも感情が優先するらしい。

俺は軽く溜息を吐き、怒る彼女の肩に優しく手を置いた。

「……落ち着け、チェイム」


「――ッ!!」

キッと俺を睨みつける。


うきゃっ!?こ、怖い……

(あ、相手が何者であろうと、使者には違いないからな。感情を露にするな。お前は津田三蔵か)

俺は囁くように言った。

だけど頭に血が上っているチェイムさんには、僕チンの理性的な言葉は通じない。

「その手を離せ洸一。アイツを殺してやる……」

搾り出す様に言う。


飢えた猛獣か、コイツは……

「ダメだ」

俺は彼女の前に立ちはだかった。


「な、なんで……」


「や、何でって言われてもなぁ」

もし使者に対して何かあったら、会談の主導権を奪われてしまうではないか。

それに憎い相手とは言え、敵地に無防備で乗り込んできた男を殺ったとあっては、神代洸一の男が廃るってモンだ。

「とにかく、冷静になれ」


「い、いつから……いつから洸一はそんなに大人になったんだッ!!」

チェイムは逆上した。

「む、昔は……昔は気に入らないヤツがいると、家に火を火を点けたりしてたじゃないか!!爆弾を仕掛けたとか脅迫状を送り付けてたじゃないのッ!!」


それでは単なるテロリストかキ○ガイだ。

「あ、あのなぁ……」


「う、うるさいッ!!洸一の馬鹿ヒバゴンッ!!」

チェイムは半泣きで、部屋を出て行ってしまった。


しかもヒバゴンって……

どんな罵詈雑言だよ。

俺は深い溜息を吐き、振り返ってヴィンスを見た。

「……久し振りだな、伯爵」


「これはこれは、まさか貴方が大魔王とは……」

ヴィンスは唇の端を歪め、下卑た笑いを浮かべる。

相変わらず、人を舐めた野郎だ。


「それにしても、よくあの大理石の床から抜け出る事が出来たなぁ。改心でもしたのか?」


「……シャーディが助けてくれましてねぇ。ま、貴重な経験をさせてもらいましたよ」


「おぉ、そうか。だったらいっそ、後腐れなく殺しておけば良かったなぁ」


「……そうですねぇ。私もそう思いますよ」


「……」


「……」


「と、取り敢えずお席へ……」

睨み合う俺とヴィンスの間に割って入るように、ピッケンズ男爵が口を開いた。



会談は、途中休息を挟んで約3時間にも及んだ。

しかしながら、何ら進展は無かった。

どちらも、これ以上の戦火の拡大は望んでないものの、立場的には大きな隔たりがあった。

そもそも帝国は、パインフィールド軍を単なる地方の反乱部隊としか見ておらず、独立なんて事を容認する気はさらさら無い様であった。

帝国皇帝の名において、城砦都市カーレ(パインフィールド城)の自治を認める、と言うのが相手の主張だ。

一方の我が軍は、ここバオア山を境に周囲約5キロを非武装地帯にしての完全独立が目的だ。

てんで話にならない。


「全く、俺様の力を舐めているとしか思えんなぁ」

会談を明日に持ち越し、今日はお開きとなった後で、俺は会議室の椅子に深く凭れながら、大きな溜息を吐いた。


「いや、それは違いますぞ」

忍者の重蔵爺ちゃんが重々しく口を開いた。

「某の得た情報ですと……帝国国内では、守護天使様の御力について様々な噂が飛び交い、末端の兵士達の中には、軍を抜け出す者も出始めたとか……」


「それにしてはかなり強固な態度だぞ?」

俺が首を傾げると、ウィンウッドが口髭を指で撫でながら、

「まぁ帝国にとっても、我等の独立を簡単には認める訳にはいかないのでしょう。我等の独立を認めれば、帝国に反感を抱いている地方都市が右へ倣えの行動を起こすかも知れませんからね。それこそ、帝国は内部から崩壊してしまいますよ」


「……なるほど。しかしなぁ、それだったらそれで、俺様が帝国を滅ぼしちゃうかも知れないんだぞ?」


「確かに。。思うに帝国としては、何とか体面を取繕う為の有利な協定を結びたい……と言うのが本音でしょうな。それが無理ならば、出来るだけ平和的に交渉を続けた、という体裁が欲しいのでしょう」


「……ふむ」

果して、それだけかな?

俺にはあの伯爵の余裕の態度……何か企んでいるように見えたが……

「ま、何にしても会談の続きは明日だ。今日は皆、ゆっくりと休んでくれ」



さて、取り敢えず真咲姐さん(チェイム)を探さねぇーとな。

俺は会議に使っていた大テントを出て、黄昏色に染まった野営地を歩いていた。

するといつから足元にいたのか、黒兵衛が俺を見上げ

「なぁ洸一。自分……あのヴィンスとか言う男、どない思った?」

と聞いてきた。


「ん?どないもこないも……ありゃ根っからの悪だな」


「ほうか。洸一もそう見たか」


「まぁな。あの目……確実に何かを企んでいると感じたぜ」


「せやな。ワシは猫やさかい……そう言う感情とかは簡単に読み取る事が出来るんや。やっこさん、何かやろうとしとるで」


「……ふむ。ならばこっちも出来るだけ、何が起きても対処出来るように準備をしておかないとな」









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