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殲滅『第二次・ゾウアザラシ作戦』


★第66話目


と言うわけで、グッスリと睡眠を取った翌朝の洸一チン。

体力も全回復だし、昨晩はチェイムとお楽しみタイムもあったので気力も充分である。


「さて、飯も食ったし……敵の様子はどうだ?」

朝食を食べ終えた俺は、椅子に腰掛けながら伸びを一回し、同じテーブルに着いている幹部連中を見渡した。

ちなみに今日の朝食は、薄焼きパンとベーコンのオムレツ、ジャガイモのスープだった。

とても美味しく頂きました。

ごちそうさまです。


「報告によりますと……南と北に分かれていた敵軍は本隊と合流し、明け方近くに北側城門前で陣を張った模様です。その数は1万以上。我が軍の3倍以上の兵力です」

ウィンウッドがナプキンで口元を拭いながら、的確に状況を説明した。

さすが生粋の軍人だ。


「そうか。俺様軍団は投降者を吸収したと言っても、戦力比はまだまだ大きいなぁ」


「ところで、西側で固まってる敵軍はどうするんだっぺか?」

とミトナットウ。

「出来れば、説得して我が軍に組み入れたいんだども……」


「ふむ……」


「いや、そんなに簡単に味方にする訳にはいかんな」

チェイムこと真咲姐さんが、睚を上げ、少しだけキツイ声で言った。

「彼奴等は私の声に応じなかった者ばかりだ。信じる訳にはいかぬ」


「うん、そうだな。俺様の大切な彼女に刃を向けたヤツを許す訳にはいかんな」

俺は彼女の瞳を見つめながら断言した。

「可愛い女の子をイヂめるヤツは許さないのだ」


「洸一……」

どこかうっとりした表情で俺を見つめ返すチェイム。

その頬は、少しだけ朱に染まっている。

実に良い雰囲気だ。

昨夜のステッキーな事がモワワ~ンと脳裏に思い起こされる。

ここが自室だったら、俺は間違いなく彼女を押し倒していただろう。

いや、ここでも別に構わないかも知れない。

何故なら、それが俺様の醍醐味だからだ(意味不明


「って、何をしてんねん、自分?」

チェイムに抱きかかろうとした俺に向かって、黒兵衛がどこか醒めた声で言った。


「は?なにって……朝食プレイ、かな?」


「さて、バカは放っておいて、今日の軍事活動やが……」


「おやおや、スルーですか」

俺はヤレヤレってな感じで席に座り直し、コホンと咳払いを一つ。

「あ~……さて、これからの事なんだが……」

そこで一旦言葉を区切り、皆をゆっくりと見渡す。

「ハッキリ言って、俺様ちゃんが居ればあんな軍隊如きを全滅させるのは容易い。ちょいと深く魔法を掛ければ、一瞬で奴等を虫ケラにする事が出来るんだからな」


「だったら…」

何か言い掛けるミトナットウを、俺は手で制した。

「だが、それでは根本的な解決にならないだろ?目の前の軍団を一瞬の内に全滅させようが、帝国はまた軍を発するだろう。しかも多分、今度は魔法に対して色々と対抗する術を考えて来る筈だ。それに対して俺は、何かしらの策で持って対応する……ん~~……こう言うのをイタチごっごと言うのかな?」


「では……具体的にどうすれば良いと?」

ウィンウッドがテーブルの上で手を組み、軽く身を乗り出して尋ねてくる。


「一番は、有利な条件で講和条約を結ぶとか帝国をパインフィールドの従属国にするとか……そんな所だな」


「帝国を滅ぼさないので?」

「守護天使様の力だったら出来ると思うっぺが……」


「出来るよ」

俺は簡潔に答えた。

「けど、滅んだ帝国を誰が統治するんだ?ぶっちゃけ、俺は無理だし、お前達もそうだろ?この辺を統治するだけで四苦八苦しているじゃないか」


「確かに……我が国の人的資源を考えましても、広大な帝国領を治めるのは些か難しいかと……」


「だろ?だからさ、敵を一瞬で壊滅できる力があるけど、敢えていきなり使うことはせず、小出しにしながら勝利しつつ、何とか有利な条件で講和する……微妙に面倒だけど、これが一番の策じゃないかな、と俺は思うんだ」


「あ~……洸一の考えも分かるんやが、それだと時間が掛るやろうに……」

黒兵衛が唸った。


「……まぁな。だが、速攻で片を付けても後が困る。ま、この件に関しては俺に一任してくれ。で、取り敢えずは目前の敵軍なんだが……こいつらには、俺様軍団の恐ろしさってヤツを味わってもらおうと思う。多少気は引けるが、パインフィールドに敵対すればこうなるぞ、と言う事を、身を以って認識させてやるのだ」


なるほど、とウィンウッドは大きく頷いた。

「それで具体的な作戦は?」


「先ず、俺様魔法で動けなくなっている西側部隊に、助命を条件に敵の側面を突いてもらう」


「同士討ちさせると?」


「そうだ。北に集結している敵本隊には、真咲……じゃなくてチェイムがもう一度演説してもらい、兵の士気を鈍らせる。その後で俺が魔法を掛けて分裂させてやる。我が軍は城の中から黙って見ているだけで良い。今回の軍事行動の目的は、敵軍に疑心暗鬼と俺の力を見せつけ、そのまま敗走させて帝国国内で我が軍の恐ろしさを喧伝してもらう事だ」


「いつでも全滅させられるのにですか?」


「そうだ」

俺は断言した。

「敵にも、その事を分かってもらうのが一番だ。我々は手加減されたのだ、とな」


「で、その後はどうするんだっぺか?」

難しい顔でミトナットウが俺を見つめながら尋ねる。


「軍を出してバオア山まで進める。その後は敵の出方待ち、と言う所だな」


「出方だっぺかぁ」


「俺の予想では、おそらく何らかの使者を寄越して来る筈だ。多分、様子見といった所だと思うが……ウィンウッド、アンタが敵の大将だったらどうする?」


「そうですなぁ……使者と偽って間者か、もしくは暗殺者でも紛れ込ませますかな。敵にしてみれば、怖いのは守護天使様だけですから」


「……なるほど」

俺は大きく頷いた。

「しかしそれは、随分と危険な賭けだと思うぞ。もし失敗したら、物凄い報復を招くだけだからな。ま、何にしても……バオア山まで進んだ後は、敵の出方に応じて柔軟に対処しよう。取り敢えずの俺の目的は、敵の親玉に『ごめんなちゃい』と言わしてやる事だからな」



さて、ボチボチ始めるとしますぁ……

俺はゆっくりと開かれる西側城門を見つめながら、ボリボリと頭を掻いた。

一言で言って、無気味な光景だった。

爽やかな涼風が頬を撫でる様に吹く、朝の柔らかい陽射が降り注ぐ草原の上、まるで彫像の様に微動だにしない敵兵士達の群れ。

瞬きが出来ないので物凄く血走った瞳だけがギョロギョロと動いている。

その瞳にはある種の怒りと、それを遥かに凌駕する恐怖の色が支配していた。


昨日の内に残った敵軍が回収するなり何なりするかと思ってたんだけど……どうやら見捨てられたみたいだね。

しっかしまぁ……見れば見るほど、悪い夢の景色みたいだなぁ……って、僕チンが張本人なんだけどねッ!!


俺は今にも動き出しそうなその前衛的オブジェの間を通り抜け、敵軍の中心と思われる場所に辿り着くと、そこで大きく息を吸い込み、そして叫んだ。

「我が名は神代洸一。パインフィールドの守護者であーるッ!!」

静寂を突き破るような大音量の声。

もちろん、音声は魔法で増幅済だ。

「知っての通り、私は諸君らに天罰を与えた。このまま一生、そこでモダンアートを演じてもらおうと思った。だがしかーし、チェイムから強い懇願もあってか、一回だけ復活のチャンスをやろうと思う。良いか?本当に一回だけだぞ。で、何をすれば良いかと言うと……体が動くようになったら、諸君等は北面に集結している帝国軍の側面を突け。我武者羅に突っ込め。そうすれば全ての罪を帳消しにしてやる。簡単な事だろ?しかも奴等は、動けないお前達を助けにも来なかった。だからその分の恨みもを晴らしてやれ」

そこで一旦言葉を区切り、俺は動けない兵士達を見渡した。

表情は固まったままだが、誰もが息を飲んでいるような気がする。

耳元には、微かに響くチェイムの声が聞こえた。

どうやら、北側城門で演説を始めたらしい。


ふむ、もうそんな時間か……

「良いか?逃げ出す事は絶対に許さんぞ?もしも逃げ出せば……今よりももっと酷い、狂気に満ちた恐怖が襲いかかるだろう。それはそれで、チェイムを傷付けようとしたお前等には相応しい罰と思うんだけどな」

俺はそう言うや、手にした魔法剣を天に振り翳し、念じた。

――魔法解除ッ!!

一瞬だけ剣が瞬き、それと同時に彼方此方からざわめきが起こった。

ある者は喚起の声を上げ、またある者は恐怖でその場に突っ伏している。


「静まれッ!!」

一喝すると、沸起った喧騒は瞬く間に沈静した。

「良いか?チャンスは一回っきりだ。一人一殺を心得ろッ!!」


「……」

無言のまま顔を見合わせる兵士達。


ま、そりゃそうか。

同じ釜の飯を食った戦友や知人達……下手したら血の繋がった者達と闘わなければならないのだ。

躊躇するのも当然だろう。

そして俺は、そんな事を平然と命じる自分自身に、内心ちょいと驚いていたりもする。


うぅ~ん、僕チン、本来は普通の高校生活を送ってる街のナイスガイの筈なのにねぇ……

ぶっちゃけ、罪悪感とかが殆ど沸かねぇ……

なんでじゃろう?

この魔法剣が、何かしら俺の精神に影響を与えているのか?

はたまた、自分の住んでいる世界と全く違う、どこか夢物語な世界だから、何でも有りかと思って良心が咎めないのか?

それとも、単に俺は元々サイコパスな精神をしていたからか?

う~ん、サッパリ分からん。分からんが……ま、良っか。

だって既に作戦は始まってるんだからね。


「グズグズするなッ!!さっさと行かんと、もう一度、木人形デクにすっどッ!!」

俺が剣を片手に叫ぶや、兵士達は弾かれた様に北へ向かって走り始めた。

ある者は半ば狂乱状態で、ある者は悲愴な決意を秘め、それぞれが武器を手に駆けて行く。


いやはや、天晴れなほど、悪党キャラですなぁ……僕チン。

ま、それはそれで、ラスボス・プレイって感じで……ちょっと面白かったりもする。


「ったく、この状況にワクワクしているとは……ホント、救いようが無いな。のどか先輩に少し毒されたかなぁ……」

俺は剣の柄を強く握り締め、そんな事を呟きながら城に戻ったのだった。



「……どうだ?敵は動いたか?」

北側城壁へと続く階段を上がり切り、俺はしかめっ面をしている幹部連中達に尋ねた。

するとミトナットウが大きく溜息を吐き、

「敵も昨日の事で学習しているみたいっぺよ」


「学習?と言うと?」


「勇者殿の演説が始まると同時に、憲兵みたいな者が集まって、兵達を追い返しているんだっぺ」


「聞く耳を持つな、ってことですよ」

吐き捨てる様にパーソンズが言った。


「ふむ、なるほどねぇ」

俺は腕を組みながら、眼下に広がる敵軍を眺めた。

一万を超える軍勢が、まるで何やら抽象文字を表すかのように理路整然と陣を構えている。

三角を基本とし、中央に本陣と……この陣形は、確か魚燐の陣だったかな?

それは俺達を威圧するかの如く、武器を構えて北側城壁に圧しかかろうとしていた。


「いよいよ攻めて来るようですが……どうします、守護天使様?」


「ふむ……だったら少し、夢でも見てもらうか」

俺は陣を形成する一部隊に向って、念を集中した。

握り締めた剣が、数度瞬く。


「洸一……何をしているんだ?」

やって来たチェイムが、不思議そうな顔で俺を見つめた。


「ん?なに……ちょいと幻覚を見せてやってるのさ」

肩を竦めてそう答えると同時に、眼下でいきなり喚声が沸き起こった。

見ると陣形の一角がアメーバーのように不定形に入り乱れ、悲惨な同士討ちを始めたのだ。

突如反乱を起こした兵達の表情には、恐怖の色が張りついている。


「ど、どーゆー事だっぺか?」

興奮しながらミトナットウが尋ねてきた。


「ふふん、あの部隊のヤツ等に、周りが全て凶悪なモンスターと言う映像を見せてやってるのさ」


「なるほど。ならば今討って出れば……」

実質的に軍を差配しているウィンウッドが次席将軍がそう言い掛けるが、俺は首を横に振ってそれを遮った。


「今回の戦に、俺達の出番は無い。彼奴等には自滅してもらう」

そう言うや、西から砂塵を巻き上げ黒い塊が徐々に近づいてきた。

先程、俺が脅した西側で一晩固まっていた部隊だ。

武器を手に、破れかぶれな声を上げながら突き進んでくる。


「こ、これは……いや、何とも鬼気迫るというか……」


「ふん、これからがショータイムだ。地獄の舞踏会の始まりだ。せいぜい俺達の為に、華麗に踊ってくれよ」







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