表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/55

THE・茶番劇


★第63話目


帝国の騎士達の間から軽いざわめきが起こった。

だがチェイムはそれを無視するかの様に、

「帝国の使者とやらは、他国の王の前で突っ立ているのが礼儀と心得ているのか?」

静かな声ながらも、毅然と帝国の者達を玉座から見下ろす。

その身からは持って生まれた皇族としての威厳を漂わせていた。


「こ、これは大変、御無礼を……」

慌てて跪く使者と護衛の騎士達。

この時点で既に、この場の主導権をチェイムは握ってしまった。

もちろん彼女はそのような事はおくびにも出さず、ただ平然と、それが当たり前のように受け止める。


「……さて、それでは用件を伺おうか?」

優雅に足を組み、チェイムは玉座の肘掛に僅かに半身を預けながら静かな声で言った。


「は…はっ」

恭しく頭を下げ、そしてゆっくりと、どこか恐る恐る玉座を見上げる使者。

その瞳には驚きと、どこか畏怖めいた色が浮かんでいた。


「ん?どうした?そなたは口が聴けぬのか?それとも、我に喋る事は無いと申すのか?」


「い、いえ。そ、それでは、我が帝国第3軍の口上を述べさせて頂きます」

額に浮かんだ汗をハンカチで拭い、小太り気味の使者は厳かに口を開いた。

「て、帝国軍は無用の戦闘を避けるべく、パインフィールド王国に対し、降伏を勧告します。速やかに城を明渡し、武装解除を求めます。もちろん、将兵の命は……」

そこまで使者が言いかけた時、チェイムは軽く手でそれを遮りながら、どこか面白そうに、

「御使者は、無用の戦闘、と言ったが……何が無用なのか、我には分からぬ。聞かせてたもれ」


「ハッ。い、いえ、それは何と言いましょうか……」


「ふ、どうした?この戦は、我にとって決して無用の戦などではない。だが帝国が無用の戦闘と申すのならば、さっさと兵を纏めて帰るが良かろう?」


「お、恐れながら……陛下は我等が帝国に勝てるとお思いか?」

ニヤリと、使者はどこか余裕めいた表情を浮かべようとするが、それはチェイムの鋭い眼差しを受け、途中で凍りついてしまった。


「……ふ、勝てるかどうかは、戦ってみないと分からんな。逆に御使者に問うが、この我が率いる軍が負けると思うか?」

チェイムはそう言って、サッと長い黒髪を指で梳いた。


「そ、それは……」


「……ふむ。よくよく見れば、そなたとは以前、宮廷でお会た事があるな?」

今更、と言った具合に使者を見つめるチェイム。


「はッ。申し遅れましたが、某は、ホリーズ子爵、ボビー・エリオットと申します。で、殿下…いえ、陛下とは、軍務で催されました剣技会におきまして、そのお姿を拝見した事が……」


「ほぅ……あの剣技会にて、か。ふふ、懐かしいな」


「あ、あの剣技会では、陛下の圧倒的強さが際だって、そ、某は……その……」

そこで一旦言葉を区切り、彼は意を決したかの様に、

「陛下が何故、パインフィールドの女王を名乗っているのか……お、お聞かせ願いたいッ!!」


「……ふむ」

チェイムは顎に指を掛け、跪く使者達を冷やかに見下ろしていた。

護衛の騎士達も、緊張の顔色で上目遣いに彼女を見つめている。

チラリと傍らに控えているウィンウッドに目をやると、彼はニヤリとほくそ笑んだ。

「良かろう。御使者の用向きとは関係無いが、我も帝国に生まれし者として、全てを語る必要があるな」

そう言って、優美に微笑んだ。

それは見た者の忠誠を促がすには充分の、華麗な女王としての笑みであった。



「さて、ホリーズ子爵とやら。そなたは、我の事をどこまで知っておる?今回の一連の件の事じゃ」


「そ、それは……」


「ふむ……言い難い事かえ?例えば……帝国を裏切り、パインフィールドと結託しておるとか、宮廷会議において継承権を剥奪されたとか……そのような事であろ?」


「お、恐れながら……な、何分、未だ公式には何ら発表が御座いませんので……」

ホリーズ子爵は、どこか落ちつかない様子で再び額の汗を拭った。


「ふふ……しかし噂ぐらいは知っておろう?」


「は、はぁ……いえ、それは……」


「……まぁ良い」

チェイムはクスクスと笑った。

鈴の音のような声。

仕草の一つ一つに、気品を漂わせている。

「全ては、我の才を嫉んだ者のはかりごとよ」


「……」


「具体的に名を申せば、ヴィンス伯爵に第2皇女リドリア。後は、豚のような大臣と我が父か」

フゥ~と、彼女は溜息を吐いた。

「ふん、所詮は皇の血を引くと言うだけの無能と、その地位を狙う浅慮者じゃな。開祖ザッパ王の生まれ変わりである我を貶めるには、かなり知恵と勇気に欠ける者共じゃな」


「ザ、ザッパ王の生まれ変わりと……」

ゴクリと唾を飲み込み、ホリーズ子爵はチェイムを見つめた。

体中に、嫌な汗が浮かんできている。


「その通りじゃ。歴代皇族の中で、勇者の称号を得て、尚且つ将軍位を有したものが他にいるかえ?」


「そ、それは……」


「ふふ……何を下賎の者が……とでも言いたそうじゃな。ホリーズ子爵よ」


「め、滅相も御座いませんッ」


「良い。気にするな」

チェイムは静かに言った。

「かのザッパ王も、元は一介の傭兵だったではないか。それが知略と武略で伸し上がり、帝国の礎を築いたのじゃ。ザッパ王に出来た事が、我に出来ぬ道理は無いぞえ」


「……」


「っと、話が逸れたな。許せ」

そう言いながら、彼女は優雅に足を組替え、

「我がパインフィールドの王位を継いだのは、実に簡単な事じゃ。病に臥せたホリーホック女王陛下に、何卒、と懇願されたからじゃ」


「は、はぁ?」


「ふふ……姦計に嵌り、帝国を追われてた我は、ザッパ王のお導きか、偶然にもホリーホック女王陛下と邂逅してなぁ……共に反帝国と言う事で禍根を忘れ、手を取り合ったのじゃ」


「な、なるほど」


「ふ……話はそれだけじゃ。帝国が攻めると言うのであれば、我、自らがお相手しよう。例え数では劣るとは言え、かつて帝国の戦姫と呼ばれた我が率いる軍に、どこまでそなた等帝国軍が善戦出来るか……今更ながら楽しみじゃぞ」


「そ、その事ですが……何卒、ご再考を」

ホリーズ子爵は深々と頭を下げた。

だがチェイムは頭を振ると、どこか可笑しそうに、

「ザッパ王が、敵の降伏勧告を聞き入れた事があったかえ?」

と言いながら子爵を見つめた。


「……い、致し方ありませんな」


「そう言う事じゃ。それでは御使者諸君、ご苦労であった。下がって良いぞ」

言ってチェイムは席を立つが、ふと思い出したかの様に、

「そうそう、ホリーズ子爵よ。名を失念してしまったが、貴軍の将軍に伝えておいてくれ。かつての剣技会において我は全く本気を出さなかったが、今度は手加減無しで叩きのめして進ぜよう、とな」



帝国からの使者が退室した後、再び玉座の間に戻って来たチェイムは大きな溜息を吐きながら、脱力したかのように大きな音を立てて玉座に腰を下ろした。

「……疲れた。凄く疲れた。馴れぬ言葉は使わない方が良いな」


「中々どうして、威厳に満ちていましたよ」

どこか可笑しそうにウィンウッド。

「あのホリーズ子爵とやら、上辺は平静を保っていたようですが、内心はヒヤヒヤものだったでしょう」


「ふふ……帝国の教育は、かなり偏っているからな。いくら反逆したとは言え、私も皇族の一員だ。無意識の内に、帝室に対して畏怖の念を感じる筈だ」


なるほど、とウィンウッドは頷く。

と、パーソンズ親衛隊長が首を傾げながら、

「しかし陛下。あのザッパ王の話は……」


「嘘に決まってるだろ?帝国には元々、英雄信仰みたいなモノがあるからな。あのような与太話でも、時と場所を選べば、それなりに相手に心理的圧迫を与えられるものだ」

そう言って、チェイムは可笑しそうに笑う。

「ま、あの使者達が帰ってから噂が広まるまで……およそ二刻と言った所かな」


「末端の兵士達は、既に少しだけ混乱している様子だっぺ」

クククと笑い声を立てながら、ミトナットウが口を開く。

「城壁に掲げた勇者殿と帝国の紋章旗を見て、何やら騒いでいるっぺよぅ」


「ふ……私は貴族出身の上級仕官には受けは悪かったが、一般兵士には戦姫として崇められていたからな」


「……なるほど。では今の所は予定通り、と言う事ですな」


「その通りだウィンウッド将軍。正攻法ではとても勝ち目は無いからな。下策だろうが何だろうが、この際、形振りは構ってられぬ。取れる手は全て取る」

そこでチェイムは一旦言葉を区切り、皆を軽く見渡して、

「良いか。今作戦の概要をしかと叩き込んでおけ。我々の目的は、この地の絶対防衛だ。その為、第一作戦が完了次第、速やかに城内へ戻る事。タイミングを間違えるな。敵を城内へ入れた時点で、我々は負けになってしまうからな。何としてもそれだけは阻止するように」



蒼穹の空が茜色に染まる頃、西側城壁の最上段に佇む無数の人影があった。

緩やかな夕闇の中、その中央には金色に輝く鎧を身に纏った長い髪の女性が、どこか神々しささえ漂う屹然とした表情で城外に展開する帝国軍を見下ろしていた。

そしてそんな彼女の背後には、巨大な剣を模った華麗な紋章旗が、あたかも彼女の持つ威厳を具現化するかの如く、緩やかな風に悠然と棚引いていた。


……頃合か。

何事か?と集まる敵兵士達に目を細め、彼女は少しだけ微笑んだ。

そして大きく息を吸い込み、

「聞けッ!!志しある帝国の兵士達よ!!」

その声は凛として、ざわめく兵士達を沈黙させた。

「我は新生パインフィールド王国第2代女王、チェイム・ヴェリテ・エヴァヌイッスマン・ド・ディラージュ・フォン・ルイユピエースである。諸君等が愛する帝国の第3皇女にして勇者の称号を得た者だ!!」

そこでチェイムは口を閉じ、見上げる兵士達の反応を窺った。

誰もが皆、驚きと畏怖の表情で彼女を見つめている。

「……既に知っている者も多かろうが、我は宮廷内の陰謀に巻き込まれ、帝国を追われた。我の力を嫉妬する者達の姦計に嵌ってしまったのだ!!だが幸いにして、このパインフィールド王国は我を受け入れ、あまつさえ、帝国開祖ザッパ王の生まれ変わりとして、我を王位につけた。だが帝国は、諸君等をこの地に派遣した。それは何故かッ!!この国を滅ぼす為か?否ッ!!我が王位につく事を阻む為である!!……心有る兵士達よ!!真実を見ろッ!!我と共に歩むか、我が正義の剣の前に倒れるか……それは諸君等の自由だ!!だが、我の剣はこの世で最も聖なる剣と心得るが良い!!」

一気にそうまくし立て、チェイムは身を翻してその場を後にした。

城外からは、無数のざわめきが響いてくる。


……ハァ……本当にくたびれた……

チェイムは気だるそうに軽く伸びを一回した。


「お見事な演説でした」

ウィンウッド次席将軍が、城壁脇の階段を降りて来る彼女に、そっと水の入った皮袋を差し出す。

「敵の兵達も、まさか自国の皇女が登場するとは思っていなかったでしょう」


「……当然であろうな。それより将軍、作戦の首尾はどうだ?」


「上々です。南門から密かに出撃したパーソンズ親衛隊長率いる偽兵隊は、演説に気を取られている隙に敵の部隊に紛れ込むのに成功しました」


「そうか。で、奇襲部隊は?」


「ミトナットウ大将軍以下、約2千の部隊が何時でも出撃可能です」


「全軍の3分の2か。残り千足らずで、ここを守り切れるか?」


「任せて下さい。私は生まれも育ちもこの城砦都市ですからね。この城の事は詳しいんですよ」


「ふふ……そうか。では、私もそろそろ出撃するかな」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ