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コケティッシュ


★第55話目


「殿下達はまだか?」

西の空が赤を基調としたグラデーションに染まる頃、街道脇に止めた馬車の中からナッシュ老が顔を出し、遠くを見つめているピッケンズ男爵に尋ねた。

「ええ、残念ながら……」

「かれこれ半日近く経つが、やはり何かあったのじゃろうか……」

「……かも知れませんが、我々が気を揉んだ所で、どうにもならないでしょう」

ピッケンズは溜息混じりに苦笑を溢した。

「それにもうすぐ日も暮れます。そろそろ出発の用意をしないと……」

「ピ、ピッケンズ!?」

「伯父上の言いたい事も分かりますが、今の我々に出来る事は何もありません。それに、私は守護天使様の力を信じてますので」

「だ、だがなぁ…」

まだ何か言いかけるナッシュ老を、男爵は手で遮った。

「伯父上。殿下は守護天使様がきっと守ってくれています。私達は、私達の家族を守りましょう」


★


「報告します。帝国第三軍は街道の北、バオア山山麓ドロタス盆地にて野営の準備中との事であります」

「……予想通りか」

パインフィールド軍、次席将軍のウィンウッドは、斥候の報告に軽く頷いた。

「で、目的の補給部隊は?」

「ハッ。数はおよそ1000。右側面周辺に展開しております」

「ふむ……」

「だとすると、丘の上から強襲攻撃が掛けれるっぺ」

大将軍ミトナットウが、地図を見ながらニヤリとほくそ笑むが、

「しかし……それだと攻撃してからの脱出が困難になりますぞ」

パーソンズ親衛隊長が異を唱えた。

「ここは多少時間が掛っても、山を迂回して敵の背後を衝くに限ると思いますがねぇ」

「確かに、それも一理あるっぺ。けれどもし仮に、迂回中に我が軍の行動が察知されたら、それこそ包囲殲滅される怖れがあるっぺよ。夜間の行軍は、戦に不慣れな軍隊にはキツイっぺ」

「……なるほど」

「かと言って大将軍の仰る、丘の上から強襲と言う流れですと、此方もかなりの損害を覚悟せねばなりませぬぞ?」

渋面を作りながらウィンウッド。

「いや下手をすれば、敵の補給部隊を叩いたは良いが、こちらも全滅した、と言う事態になりかねません」

「う~ん……だったらどうしたら良いっぺよぅ」

呟きながらミトナットウは、少し離れた所にある、子供ぐらいの大きさの小岩の上で、うつらうつらと小船を漕いでいる黒猫に声を掛けた。

「黒兵衛殿。何か良い知恵があるっぺか?」

「あん?何や……まだ作戦が決ってないんかい」

薄目を開け、面倒臭そうに黒兵衛。

「ええ歳こいた大人が雁首揃えて……何をしてるっちゅーねん」

「も、申し訳ないっぺ」

「せやなぁ…」

黒兵衛が岩の上で前足を踏ん張りながら伸びをする。

「ワテが思うに、隊を二手に分けるのが得策やな。補給部隊を攻撃する本隊と、敵の目を惹き付ける陽動部隊や」

「す、少ない戦力を更に分けるっぺか?」

「その通りや。どだい最初っから、無茶な作戦なんや。だったらもっと無茶でも非常識でもエエやろ。この際何でもありやで」


★


「……ッ……」

か、体が……痛い。

背中が……ゴツゴツとしている。

俺は……倒れているのか?

「痛ッ!?」

な!?い、痛いぞ?

足は……どうやら動くけど……右腕が……猛烈に痛い。

小便チビりそうなほど痛い。

と言うか、既にチビってたりして。


俺は重たい瞼をゆっくりと開けた。

ボンヤリと、辺りの景色が霞んで見える。

……ここは……どこだ?

薄暗い光に照らされた岩肌。

時折、ピチョンピチョンと、水の滴る音が聞こえる。


洞窟?鍾乳洞?どうやら死なずに済んだ様だが……や、もしかして既に死んでるかもねぇ……

歯を食いしばりながら半身を起こすと、

「―――ッ!?」

突き刺すような強烈な痛みが右腕を襲った。

俺は涙目で、痛む個所を押さえる。


ぬぅ……こ、この感触は……骨が砕けちったかな?

と、取り敢えず治療を……って、魔法剣が行方不明だよ……マジかよ。


フゥ~と心を落ち着かせるために大きく深呼吸しつつ、額に浮かぶ脂汗を拭いながら辺りを見渡す。

さてさて、ここは一体どこじゃろうねぇ……

起伏に富んだ湿り気のある岩肌。

入り口が直ぐ近くにあるのか、月明かりのように弱い光が反射しながら辺りを微かに照らしている。


「ふむ……一体、何がどうなったんでしょうか」

俺はトホホ~な溜息を漏らした。

「って、そんな事よりチェイム……いや、真咲しゃんはどこだ?」

ようやく暗さに馴染んできた目を凝らし、360度全方位洸一レーダーを作動させて探索を開始。


「ピコーンピコーン……むッ!?1時の方向に未確認物体発見ッ!!」

見ると鍾乳石的岩の間から、ニョキっとした感じで真っ白な足が飛び出ていた。

俺は濡れた岩肌に足を取られぬよう、注意しながら駆けつける。

「ま、真咲しゃん……」

彼女は尖った石の間を縫う様に、俺様の愛刀を胸に抱きながら横向きで突っ伏していた。

見た感じ、外傷は無い。

俺は指先をそっと、彼女の首筋に当てる。

トクントクンと、微かに伝わる鼓動。

鼻先に手を翳すと、呼吸もある。


「……フゥ~」

安堵の溜息を吐いた。

や、やれやれ……どうやら気絶しているだけみたいだ。

いや、単に爆睡しているだけかも知れん。

中々に呑気だ。

「ま、何はともあれ、無事で良かったわい」

ホッとして気が抜けた瞬間、

「あうッ」

再び砕けた腕がズキンズキンと痛み出した。

「い、いかんいかん……さ、先に怪我を治さねぇーと」

チェイムの抱えている剣をそっと取り、柄に指を掛けて精神集中。

どう言う原理か未だに分からないが、砕けて波打つように曲がっている右腕は、モキョモキョと音を立てて元に戻った。


「な、なんか……どっと疲れが出てきたぜ」

眠っているチェイムの傍らに腰を下ろす俺。

俺様の治療魔法は、どんな怪我や病気でもたちどころに治す事が出来るが、生憎と失った体力を回復させる事は出来ない。

体力の回復には、休息するしかないのだ。


その辺が不思議なんだよねぇ……

空腹とか喉の渇きも癒せないし……魔法って複雑だね。

ま、単に俺がやり方を知らんだけかも知れんが。


「う゛~…」

大きく腕を振り上げて伸びを一回。

強張った筋肉と背骨が少しだけ音を立てる。

「ンフゥ~……肩なんか凝り凝りだぜ。高校生なのにねぇ」

呟きながら俺は、チラリとチェイムの顔を覗った。


「……スー…スー…」

此方に顔を向け、静かな寝息を立てている。


「……」

俺は彼女のほっぺに掛った黒髪を、そっと指で梳いてみる。

「……真咲しゃん」


「スー……スー…」


「……ぬぅ」

何故だか分からんが、心臓がドキドキとしてきた。

無防備な寝顔を曝け出している美少女がすぐ隣に。

それだけでもう、思春期ど真ん中である男子高校生の理性は砂上の楼閣だ。


「真咲……あ、いや……チェイム」

俺は彼女の耳元で囁く。

「そろそろ起きろよぅ。僕チン、退屈なんだよぅ」


「スー…スー……」


「はい、起きません」

悪戯心がニョキニョキと芽生えてきた。

「お、起きないと……こうだぞ?」

首筋を、そっと指先でなぞってみる。


「……ン」

チェイムの体がピクンと少しだけ跳ねた。


「お、起きたかい?」


「……スー…スー…」


「……」

い、意外に寝起きが悪いなぁ。本当に勇者か?

そんな事を思いながらも、今度は指先で胸を突っ突いてみた。

何故、胸なのか。

それはそこにオッパイがあるからだ。

あと、僕チンお年頃だから。

「ではでは…」

プルルン♪とした、ゼリーのようなマシュマロのような……そんな感触が指先を伝わる。


「ン…」


「お、起きたか?」


「…スー……スー…」


「ぬ、ぬぅ…」

俺は立ち上がり、今度はチェイムの逆側に回り込んだ。

目の前にはチェイムの後頭部が見える。

俺はそっと手を下の方に伸ばし、横向きになって寝ている彼女の、ちょっぴり細めのお尻(またの名を臀部)に手を当てた。

「お、起きろよぅ」


「スー……スー……」


「ぬ、ぬぅぅぅ……起きないと、擦っちゃうぞ?」

もちろん、返答を待たずして俺の手はサワサワとお尻を撫でまわす。


「ンン…」

くぐもった声を上げ、チェイムの体が微かに震えた。


「お、起きやがったか?」


「スー…スー…」


「び、びっくりさせんなよぅ」

何故か安堵の溜息。

この辺りから、自分が何をしているのか段々と分からなくなってきたのだった。


★


うぅ~む……な、なんちゅうか、これが所謂、夜這いプレイと言うヤツなのか?

俺は腕を組みながら、眉を顰めてそんな事を考えていた。

目の前には、可愛い可愛いチェイムのお尻があった。

ちなみにこれは、俺だけのものだ。

誰にも渡さん。


しかしまぁ……もはや言い訳不可能な体勢ですな。

俺は何時の間にか、横向きに寝ている彼女とは、天地逆向きの方向で寝転んでいた。

真っ白な太股と、ちょっぴりピチピチっとしたショートパンツが眼前に曝け出されている。


「チェ、チェイムさん?そろそろ本当に起きましょうよぅ」

お尻に向かって呟く俺。

もちろん返答は無い。

「……ゴクリ」

唾を飲み込み、そっと彼女のお尻に手を当てた。


お、俺は悪くない。悪くないぞぅ……

むしろ悪いのは、こんな可愛いお尻をしているチェイムだ。

だから俺は成敗してやるのだ。

うむ、意味が全く分からんですな。


一人苦笑を溢しながら、ゆっくりゆっくりと、尻に這わせた掌を上下させる。

張りの有る、少し固めの感触。

チェイムは……良かった。まだ起きてないみたいだ(本末転倒)。


「し、しかし……触ってるだけにも飽きたような……ふふ、僕って欲張りさん」

呟きながらも俺の手は既に、彼女のショートパンツに手を掛けていた。しかも両手で。

「こ、これを少しだけズラすと……お、おいら……堪らないっス」

ウェストから下へ向け、ゆっくりと布製のショートパンツを下げてみるお茶目な僕チン。

ま、正確に言えば、この態勢からだとズリ上げているんだが。

――ズリ……ズリズリ……

し、慎重に……慎重にだぞ。だって見つかったら……多分、殺される。


「……ムッ!?尻が出てきたッ!!」

思わず腰の辺りでガッツポーズ。

イェーイ!!チェイムのお尻が少しだけ見えたぜ!!


ほんの少しだけだが、何やら真っ白な臀部がチラリと見えていた。

俺の理性は、それだけで半壊だ。


こ、ここまで来たんだから……全部取っても良いよね?

誰に尋ねているのか分からんが、俺はウンウンと一人頷きながら作業(?)を続行。

がしかし、

「う、うぅ~ん……」

くぐもった声と共に、チェイムさんはいきなり寝返りを打った。


「――ハウァッ!?」

思わず瞳を閉じ、寝たふりをする俺。

やがて、再びスースーと静かな寝息が聞こえてきた。


ふ、ふぅ……ビックリしたでごわす。

安堵の溜息を吐きながらゆっくりと目を開けると、

「マイガッ!?」

目の前には、チェイムの大事な部分が。


こ、こりゃアカンッ!?

さすがの俺様とて、こんな大胆に急接近されると……僅かに残った理性も崩壊してしまうッ!!

ぬぅぅぅ……た、耐えろ洸一ッ!!

親しき仲にも礼儀ありですぞ。

いくら繋がった(肉体的に)間柄とは言え、さすがにこれ以上は……

【ゴトンッ】(理性が崩壊した音)

「ごめんなさい」

俺はペコリと謝りると、

「わぉーーーーん!!」

魂から吼えた。

その声に

「ン……?」

彼女の瞼がゆっくりと開く。

だけど既に俺の理性は崩壊してるから問題ないのだ。


「チェチェチェチェイムーーーッ!!」


「わわッ!?ななな、何してるんだ洸一!?」


「うふふ」


「なな、何を笑ってる!?そ、その手を離せ!!ふ、服を脱がすな!!」


「え~……脱がさないと出来ないよぅ。それとも、着たままする派なのかにゃ?」


「何を言ってるんだ!?」


「良いから良いから……ぐふふふ」


「こ、この馬鹿が!!今はこんな事している場合じゃないだろ!!」


チェイムは激昂するが、その怒った顔もまた良し!!

「わわわわわぉーーーーん!!」


「本気の馬鹿か!?少し落ち着け洸一!!」


「止まらない!!もう、僕は、止まらない!!」


「こ、この……ッ!?」


「ぐぅふっふっふ」


「や、本当にちょっと待て洸一。何か音が……」


「にゃ?」

不意に理性が蘇って来た。

確かに、耳を澄ますと、何やらヒタヒタと地を歩く音が……

「……」

俺はチェイムの服から手を離し、魔法剣を握り締める。

……そこかッ!!

そしてバッと飛び退るや、気配を感じた方向に構えた。

薄暗い鍾乳洞の中、暗闇の中で二つの爛々と光る目がそこにあった。

「て、てめぇ……恋人達の情事、分かり易く言うと繁殖行為を覗き見るとは……俺も俺の将軍も、怒り心頭だぜ!!」


「……なにが繁殖行為や。このドアホゥが!!」


「はへ?」

それは妙に聞きなれた関西弁だった。







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