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推参なり


★第47話目


ギラついた、野獣のような目をした男達が、鎖に両手足を縛られて身動きできない私に群がる。

……誰か……助けて……

枯れるほど叫んでも、それは空しく薄暗い室内に響くのみ。

いや、その声が益々男達の情欲を掻き立てる。

……私は……何の為に今まで……


疎まれた存在。

与えられた力。

見返してやろうと、それだけの為に続けた努力。


孤独の中で私は、辱めを受けて殺されるのか……


何本もの野蛮な男達の腕が伸び、我先にと露になった乳房に触れようとした瞬間だった。

涙で滲んだ視界に写る男の影が一つ。

何時の間に部屋の中に入って来たのだろうか?

兜を深く被った男は、そっと静かに扉を閉め、私を見るや半ば呆然と言ったような感じで一瞬だが動きが止まり、次に拳を強く握り締め、ワナワナと震えながら、ただ黙ってその場に突っ立ていた。


「ヘ、ヘヘへ……こんな綺麗なおっぱいは、初めてですよ」

下卑た笑いを浮かべた男が、私の胸を眺めながら呟いた。

「さ、さすがは皇女様だ……」

「……やれやれ。見てばかりいては、皇女も我慢が出来ないでしょうに」

ヴィンスが唇の端を引き攣らせるように笑うと同時に、

――グイッ

扉を背に立っていた見知らぬ男は、いきなり背後から伯爵のマントを掴み、それを引き裂くようにして奪った。

「――なっ!?」

驚き振り返る伯爵。

それと同時に男の拳がその顔にめり込む。

「……あ゛?」

私を取り囲む野獣達が一瞬、呆気に取られた。


「……」

その兵士は無言で、呆然としている3人の男達を掻き分け私の前に進み出ると、そっと優しく露になった胸を覆い隠すように奪ったマントを被せてくれた。


「あ…」

だ、誰?どうして……助けてくれるの?

男の顔は兜が邪魔をして分からない。

だけどその唇はキュッと固く閉ざされ、ギリギリと奥歯を噛み締める音が微かに聞こえた。


「は、伯爵閣下ッ!?」

「き、貴様何者だッ!!」

我に返った男達が見知らぬ男に襲いかかる。

だが彼は、

「……フンッ」

短い気合と共に反撃した。

自由自在に手足を使った、見た事の無い体術。

蹴り、突き、極めては投げ、まるで躍るように瞬く間に私に襲い掛かろうとした3人の男達を葬ってしまった。


つ、強い……

この男、ただの兵士じゃない……


「き、貴様ぁ……ここ、この私に手を挙げるとは……自分が何をしたのか分かってるのかッ!!」

鼻頭を押さえ、伯爵は怒声を放つ。

そして腰に下げた剣を掴み、じりじりと近寄って来た。

「どこから紛れ込んだかは知らんが、貴様も反逆罪で死刑だッ!!」

叫ぶや剣を水平に薙ぎ払おうとするが、

――ガシッ!!

男は一瞬の内に伯爵との間合いを詰め、剣を握っている拳を掴み、流れるように投げを一閃。

伯爵の体は見事なまでに綺麗な孤を描き、思いっきり背中から石床に叩き付けられた。

「――ガフッ!?」


「……おい、鍵を出せ」

伯爵の持っていた剣を拾い、名も知らぬ男はそれを倒れている伯爵の胸に突きつけながら有無を言わせぬ口調で言った。


「あ…あ……」


「鍵だ。彼女の鎖を外す鍵だ」


「わ、分かった」

伯爵はゆっくりと半身を起こし、腰に下げた鍵の束を手渡した。

「た、助けてくれ。た、頼む。決して悪いようにはしないから……」


「……彼女が……」


「あ…あ……」


「彼女が助けてと叫んだ時……貴様は助けたか?」

そう呟くや、剣の柄で思いっきり伯爵をぶん殴った。


「――ガフンッ!!」


「蛆虫がッ」

吐き捨てるようにそう言うと、彼は伯爵より奪った鍵で私の手枷足枷を外していく。

ジャララッと重い鎖の音が響き、私を拘束していたものは取り払われて行くが、

「あ゛ぅ…」

鎮静剤の影響と恐怖、そして解放された事で緊張が緩み、私はその場に倒れてしまった。


「だ、大丈夫か?」

そっと彼は私を抱き抱える。

その兜の奥から、心配げな瞳で見つめているのが分かった。


「だ、大丈夫だ」


「そ、そうか。良かった。……うん、本当に良かった」

そう言って彼は、私を安心させるように、おでこに掛った髪を梳く様に優しく撫でてくれた。


「あ…」

暖かい手の温もりが伝わる。

それまで堪えてきた物が自然と目尻に浮かび、私は、

「うっ…ううう……」


「だだ、大丈夫だ。も、もう大丈夫だから……この俺様が守ってやるからな」

彼はそう言って、優しく私の頭を撫でながらそっと胸に抱いてくれたのだった。



いやはや、間一髪セーフで助かった……

俺は胸元で咽び泣く彼女の艶やかな黒髪を撫でながら、安堵の溜息を吐いた。


あの時、なにか声が聞こえるにゃあ?とフラフラさ迷っていたらドンピシャだもん。

扉を開けたら、いきなり勇者ちゃん陵辱寸前ですよ。

エロゲーとか薄い本で定番なシチュに出くわして、マジでビックリしちまったよ。

しかしまぁ、本当に間に合って良かった。

直感で動くのも悪くないっちゅうか、俺様、実はニュータイプなのかもしれんのぅ。


しかし……

俺はチラリと後ろを振り返ると、床に臥していた筈のボスらしき男は何時しか姿を消していた。

ぬぅ……縛っておけば良かったか……

「さて、取り敢えずここから出ないと」

俺は彼女の頬を伝わる涙を指で拭い、声を掛けた。

「大丈夫か?早くここから逃げないといけないが……歩けるかい?」


「う、うん」

彼女は頷き、立ち上がろうとするが、

「……あぅ」

膝が産まれたかと言うぐらいガクガクと震えて、歩けるどころの騒ぎではなかった。


恐怖……いや、恐らく麻酔とか鎮静剤の類か……

怒りが再び湧き起こってきた。

廊下で盗み聞きした話が思い出される。

あの男……それと一緒に話していた女……絶対に許さんぞッ!!

この俺様をダシに使った事といい、正義感溢るる勇者ちゃんにした事といい……死すら生温いわッ!!


「そ、その体じゃ、ちょいと無理っぽいな」

俺は出来るだけ優しくそう言って、彼女に背中を貸した。


「あ、ありがとう…」

静かに俺の背中におぶさるチェイム。

肩口をキュッと握り締める手が、微かに震えている。

よほど怖い目に遭ったんだな……

ま、勇者とは言え、女の子だもんなぁ……


「良し。そりではとっとと逃げだすとしますかッ!!腹も減ったしなッ!!」

俺は彼女を元気付けるように言うと、扉を蹴飛ばし、薄暗い階段を足取りも軽く駆け上がった。

しかし問題は、あの男がすんなりと逃げさせてくれるワケが無いって事だよなぁ……

きっと、城門とかも厳戒態勢だろうし……

はてさて、どうしたもんかな。


「……すまぬ」

不意にチェイムが呟いた。

「わ、私の事で……お前に迷惑を掛けてしまった。見た所、そなたは宮廷付きの武官のようだが……」


「気にすんな」

俺はカカカと笑いながら言う。

「兵士の鎧を身に付けているから分からんかも知れんが、何を隠そうこの俺様は……」


「……?」


「え、え~と……実は通りすがりの正義の味方デス。マントを装着すると、なんと空まで飛べます。マントなんか持ってねぇーけどね」


「???」


「ま、まぁ、詳しい事は後で話すとして……これからどうする?」


「……分からぬ。私は……理由はどうあれ、帝国の反逆者になってしまった。私を匿えば、全ての者に咎が及ぶだろう。だからもう……」

それから先は言葉にならなかった。

ただ、悲しいだけの決意が心に響く。


チェイム……

「お、俺が何とかしてやるから」


「……え?」


「俺様が守ってやる。何があろうと、この俺様が守ってやるから……心配すんな」

俺は自分にそう言い聞かせるように、彼女に断言した。

何故なら、彼女がこんな不幸な目に遭ってるのは、全て俺の所為だからだ。

この世界の歴史に関わった結果、彼女の運命を変えてしまった。

俺がこの世界に登場しなければ、おそらく彼女はホリーホックを倒し、勇者としてその名声を更に高め、そしてあの男と謎の女の姦計に嵌り……あ、あれ?

もっと不幸な事になってるんじゃね?

いや、まぁ……それが本来、この世界の歩む歴史なら、それも致し方無しだが……

ともかく、関わってしまった以上、俺は責任を取らなくてはいけない。

放り出す事なんて、とても出来ないのだ。

……

ま、それは良いとして、今は一刻も早く脱出しなくては。

そして取り敢えず何か食べなければ。

ぶっちゃけ、物凄く腹が減っているんでごわす。

しまったなぁ……弁当的な物を持って来れば良かったわい。



「う、動くなッ!!」

地下牢からの階段を駆け上がり、回廊の一角に出た時点で、俺達はいきなり兵士に取り囲まれた。


いやぁ~……すんなり逃げ切れるワケがないと思っていたけど、予想外に早かったなぁ……


およそ20人前後の兵士達が、俺様の周りを扇状に取り囲んでいる。

もちろん背後は地下牢へと戻る道だけ。

逃げ場は無い。


「そ、その者達を引っ捕らえろっ!!」

顔面に氷嚢を当てた、チェイムを謀殺しようとした張本人がヌッと現れ叫んだ。


チッ……やはり逃したのが拙かったか……

人質にすれば良かったわい。


だが意外にも、彼の言葉に兵士達の反応は鈍かった。

「ど、どうした!?彼奴等は反逆者だぞッ!!」

「し、しかし伯爵閣下。あそこにおわすは、紛れもなくチェイム殿下ですが……」

兵士達の隊長らしき男は、その男と俺達を交互に見比べ、躊躇していた。


これは……チャンスかな?

「黙れ下郎ッ!!」

俺は伯爵と呼ばれた男を睨みつけ叫ぶ。

「チェイム殿下にあらぬ罪を被せ、人知れず地下牢で謀殺しようとした男が何を言うかッ!!」


「――えぇっ!?」

と、兵達の間に動揺が沸起こる。

がしかし、伯爵は唇を歪め、

「……確かに、人知れず殺そうとした事は認めよう。が、それは兵達にあらぬ動揺を与えぬ為。……これは勅命であるッ!!その者達を引ッ捕らえよッ!!」


くッ……この期に及んで開き直りやがった。

「だ、黙れッ!!そんな勅命が出る筈がなかろうが!!」


「……いえ、それは誠です。その者達は紛れもなく、帝国に反逆する者」

伯爵の後ろから一人の女が進み出て、俺を睨みつけながら静かに言った。


「あ…姉上……」

背中におぶさっているチェイムがポツリと漏らす。


あ、姉上?この女がチェイムの姉さん?

だ、だけどこの声は聞き覚えが……

「……そうか。そう言うカラクリか」

俺の中で沸々と怒りが湧き起こってきた。

「先ほど廊下の隅で、コソコソとその男と乳繰り合いながらチェイムを殺す相談をしていたのは……貴様だったかッ!!」


「な、何を……」

その女の顔色が瞬時に蒼褪めた。


「あ、姉上が……」

俺の肩を掴んでいるチェイムの手が、ブルブルと震える。


「ふんッ。この俺様が立ち聞きしていたとも知らずに、実の妹を手に掛ける相談とはな!!とんだ姉も居たモンだ。貴様のようなドス黒い悪女には、お目に掛かった事はないぜッ!!」

実の妹や可愛い後輩である俺に、トラウマを植え付ける程の恐怖を撒き散らす魔女は知っているけどね。


「ぶぶ、無礼者めがッ!!こ、この乱心者を捕らえるのじゃッ!!」

女が髪を振り乱しながら俺を指差すと、伯爵も、

「リドリア殿下の御命令であるぞ!!あの者達を捕らえるのだ!!」

その言葉に、兵士達は弾かれた様に剣を片手にジリジリと包囲を狭めてきた。


くッ……取り敢えず、ピーンチと言うヤツだぜ……

いくら俺様でも、さすがに数が多過ぎだ。

しかも満足に動けないチェイムを守りながら戦う事は不可能に近く、あまつさえ俺は丸腰だ。

そもそも両の手が塞がっている状態だしね。

さて……どうする洸一チン?


「わ、私を……置いて行け」

耳元で静かにチェイムが囁いた。

「そなたの腕ならば、この状況でも逃げ切れる筈だ。私の事はもう……どうでもいいから……」


「バ、バカおっしゃい」

俺は苦笑しながら言った。

「見捨てるぐらいなら、最初から助けになんか行かねぇーよ」


「……」

俺の肩を掴む手に、キュッと力が篭った。


とはカッチョ良く言ったものの、どうやってこの包囲網を突破したら良いかにゃあ……

俺は近付く兵達を睨みつけながら思案する。

もちろん、良いアイディアなんてモノはこれっぽっちも浮かばない。

心の孔明も、横になって尻を掻いているだけだ。


むぅぅ……これはいよいよ、ダメかな?

覚悟を決め、ゴクリと唾を飲み込んだ時だった。

ドタタタタタターッ!!と床を蹴る足音が近づいたと思うと、

「しゅ、守護天使殿ーーーッ!!」

ピッケンズ男爵の大きな叫び声。

彼はそのまま、呆然としている兵達の間に割り込んで、

「ちょ、ちょいとゴメンなさいよ……はい、すいません……」

等と言いながら、俺の前でいきなりコケた。


な、なんだろう……このオッサンは?何がしたいの?


当然ながら、全員の目が彼に集中した。

「ピ、ピッケンズ男爵ッ!?貴殿は一体、ここで何をしている!?」

悪の伯爵が驚いたように叫んだ。


「しゅ、守護天使殿。これを……」

男爵は俺の前で突っ伏したまま、背負った剣を差し出して来た。


「た……助かったぜ、男爵」

俺は安堵の溜息を漏らし、チェイムを床に下ろしながらそれを受け取る。

と同時に、柄から巨大な力が体内へと流れ込んで来た。


「さて、ぼちぼちお遊びはこれぐらいにするか」

俺は鞘から剣を引き抜いた。

この国には恐らく存在しない、片刃の鋭利な剣……日本刀を構える。

「取り敢えずは全員……そこを動くなッ!!」

言うや剣は金色に輝き、その場にいる者はまるで大地に足が根付いたかのように、一歩たりとも動かせなくなってしまったのだった。



「――なっ!?」

その場に居る兵士達と悪の伯爵、アーンド、チェイムの実姉は、驚愕の表情を顔面に貼り付けたまま、身動き一つする事が出来なくなっていた。

「な、なんだっ!?あ、足が……か、体が動かん!?」


「ふん、暫らくそこで愚か者のバラードでも唄っていろ。後でたっぷりお仕置きしてやるからな」

俺はそう言いながら、ピッケンズ男爵と共にその場に蹲っているチェイムの前に膝を着き、彼女の額に手を翳しながら治療魔法を施した。

「……どうだ?投与された薬物の効果を無効にしたから、少しは楽になっただろう?」


「う、うん」

彼女はコクリと頷き、マントで破れた胸元を覆いながらゆっくりと立ち上がった。

「も、もう大丈夫だ。少しふらつくが、何とか自力で歩ける」


「……そうか。そいつは良かった」


「うん……ありがとう。だが、そなたは一体何者だ?あの体術といい、この魔術といい……」

チェイムは動けなくなってしまった兵士達を一瞥し、真剣な眼差しで尋ねてきた。

「このような力を持ってるとは、この国の者ではあるまいに」


「あ~……それはそのぅ……」


「こ、この御方は、地上に降臨された天使様なんですッ!!」

タイムリーに男爵が絶叫した。

「病で光りを失った妻を治療してくれた、我が大恩ある天使様なのでスッ!!」


「て、天使……様?」

チェイムがポカーンとした表情で俺を見つめた。


「ま、まぁな。地上に降りた最後の天使とは、お、俺様の事よぅ。そこはかとなく100万ボルトだしな!!」

うぅ~む、今更『実は大魔王でごわす。よ、久し振り』とは言えねぇよなぁ……

言ったら最後、悪の伯爵より先に殺されそうな気がするわい。

俺はキュッと兜を深く被り直し、話題を変えるように、

「さ、さて皇女ちゃん。この男、どうしたら良いと思う?」

そう言って、剣の切っ先を立ち尽くしている伯爵に向けた。


「……ヴィンス」

今にも爆発しそうな怒りを抑えているのか、拳をブルブルと震わせながらチェイムが睨みつける。


「チェ、チェイム皇女。わ、私は……陛下の勅命で……」


「……信じてたのに」

一歩一歩、ゆっくりと伯爵に近付きながら、チェイムは感情を押し殺した声で呟く。

「私だけを見てくれてると、本気で信じてたのに。味方だと思っていたのに……」


「た、助けてくれ。わわ、私は今でも貴方の事を……」


「……ヴィンス。好きだったのに……」

――ブゥンッ!!

風を切り裂く音と共に、チェイムの拳が伯爵の顔面にめり込んだ。


――ゲッ!?

メシャッと聞いているだけで眩暈がしそうな嫌な音を立て、伯爵の体が思いっきり後ろに倒れるが、魔法を掛けてあるのでまた直ぐ戻り、直立不動。

すると再びチェイムの猛烈な勇者パンチ。

鈍い音を立てながら伯爵は倒れるがまた戻る。

そしてまたパンチの繰り返し。

まさに生身のパンチングマシーン。

洸一、見ているだけで卒倒しそうである。


「あ、あ~……皇女さん?もうその辺で、良いんじゃないかなぁ?」

俺は恐る恐る、無抵抗な伯爵にデンプシーロールを極めている彼女の肩に、そっと手を置いた。

「な、なんちゅうか、えらい勢いで死んじゃってるような気がするんだが……」


「ハァハァハァ…」

チェイムは荒い息を吐きながら静かに拳を下ろした。

手の甲にはびっしりと鮮血が飛び散っている。


う、う~わ~……撲殺と言うのを初めて見たけど、中々にショッキングな映像じゃないですかぁ……

既にトラウマ確定だ。


俺はチラリと、顔面を風船のように腫れ上がらせた新種のクリーチャーのような伯爵を見やると、

「う゛…うう……」

意外な事に、辛うじて生きていた。

どうやら思ったより、人間というのは頑丈に出来ているようだ。


「ま、まだ生きていたか」

チェイムが再び戦闘力を増大させる。


「あ~……もう、やめとけ」

俺は優しく彼女の手を包み込んだ。

「ほら、拳の皮膚が破れて血が滲んでいるじゃないか」


「……」


いや、何故に俺を睨む?

凄く怖いんですけど……

「こ、こいつには、俺様が死すら生温い罰を与えてやるから……ね?」

そう言って俺は、手にした剣に念を込めつつ、朦朧としている伯爵の頭を押さえ付ける。

―ズ…ズズズ……

鈍い音を立てて、伯爵の体が少しづつ、垂直に石床にめり込んで行った。


「ヒィィ…」

周りの兵士達が恐怖の声を上げる。


―ズズズズズズ……

やがて暫らくの後、伯爵は頭だけを床から出し、残りは完全に埋まってしまった。

素晴らしく前衛的なオブジェの誕生だ。


「フゥ~……これで良し。未来永劫、貴様はそのままだ。己の罪を心から悔いた時、そこから這出る事が出来るだろうよ。……多分だけど」










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