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スピンオフ 忍者エージェントカノープス 賢者の書の秘密  作者: クワトロばなな


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エピソード1 影の行方、緑の封筒

貴族風異世界忍者スパイアクション


ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。のエピソード0 勝手にスピンオフ

少女スピカが学園に編入する数ヶ月前――世界「エキティカ」の裏社会を激震させる凄まじいスクープが駆け回った。

『ロメーダ帝国が極秘裏に保有する、あの【賢者の書】に、新たなページが加えられたらしい』

しかも驚くべきことに、帝国はその事実を隠蔽し、内容を完全に非公開にしているというのだ。

【賢者の書】――それは、これまで世界を襲った数々の大災害や災い、そして奇跡の到来をことごとく予言してきた、世界の絶対指標である。かつて世界を破滅の一歩手前まで追い込んだ『邪神龍の災い』も、この書によって予言されていた。

世界エキティカは、長きにわたりこの書の恩恵を受け、予言を共有することで国境を越えて一つになり、知恵を絞り合って数々の危機を乗り越えてきたのだ。

書を管理する責任は便宜上ロメーダ帝国にあるが、その予言は世界の共有財産として公表されるのが、古くからの絶対の通例であった。

それを、帝国が秘密裏に独占している。

帝国の目的は一体何なのか。新たな予言には、一体何が記されているというのか。

各国の諜報機関は一斉にざわめき立ち、水面下で暗闘を開始した。ミルキーウェールズ王国の諜報機関もまた、例外ではなかった。


そんな折、メレンヘア学園の生徒会長室に一通の書状が届いた。受取人は、学園の生徒会長にして王国の第一王子、シリウス。差出人は、王国の裏の顔を統べる諜報機関の責任者――すなわちカノープスの実父。


第一王子でありながら高位の魔法剣士でもあるシリウスは、学園を統べるだけでなく、すでに国政の重要局面にまで携わる傑物である。


シリウスは静かに、生徒会庶務を務める少年を呼び寄せた。

カノープス・チュワートス。

中肉中背でどこにでもいるような、これといった特徴のない平凡な青年。しかし、それこそが擬態だ。彼の真の姿は、シリウス王子を闇から守る影であり、ミルキーウェールズ王国が誇るトップエージェントなのである。


「失礼します」

呼び出しに応じ、足音もなく生徒会室に現れたカノープスに、シリウスは静かに視線を向けた。

周囲に何者もいないことを注意深く確認すると、卓越した魔法剣士でもあるシリウスは、淀みのない手つきで強固な魔力壁を構築し始めた。

「――『バリア・コンストラクション(結界構築)』」

瞬時に室内を覆う淡い光の檻。シリウスはさらに呪文を重ねる。

「『サウンド・インシュレイション(消音付与)』……よし、これで外に声が漏れることはない」

シリウスはデスクの引き出しから、鮮やかな緑色の封筒を取り出した。

「カノープス君。君の父君から、私の元に書状が届いた。……緑の封筒だ。これが何を意味するかは、君も分かっているね?」

緑の封筒。それは隠密の最高暗号において、「シリウスと情報を共有すべし」という絶対の信頼を示す最高機密のシグナル。

シリウスはカノープスを見つめ、「封を開けても良いかな?」と促した。

カノープスは姿勢を正し、短く応じた。

「――仰せのままに」

二人は息を呑み、世界を揺るがすであろう帝国の陰謀が記された書状に目を落とした。

名門隠密家系の首領が、王国の未来を勝ち取るために記した、血の滲むような暗号の内容は――以下の通りであった。


『カノープス。お元気ですか。あなたが家を出てから久しく経ちます。あんなに甘えん坊だったあなたが、今ではメレンヘア学園の生徒会庶務を立派に務めていると聞いて、母は誇りに思います。あなたも年頃になり、色んな誘惑があると思いますが、お金と女の人にだらしない男になるんじゃありませんよ。母はあなたを信じています。無理はせずに身体には気をつけて下さい。また会う日を楽しみにしています。――母より』

「…………」

「…………」

静まり返る結界のなか。

世界エキティカの運命を左右する極秘作戦の会議室で、主君と一緒に「ガチの母親からの過保護で愛に満ちた手紙」を隅から隅まで音読させられたカノープスは、耳の裏まで一瞬で真っ赤に染まった。

あまりの恥ずかしさと精神的ダメージに全身をガタガタと震わせながら、カノープスは蚊の鳴くような、今にも消え入りそうな小声でシリウスに懇願した。

「……王子。……火を、貸していただけますか」

シリウスは、同情と察しが入り混じった何とも言えない表情で、ぽつりと呟いた。

「……やっぱ、それ(炙り出し)かぁ」

シリウスは苦笑いを浮かべながら、指先に魔力を込めて呪文を唱えた。

「『ファイヤーボール』」

手元に出現した小さな、しかし安定した熱量を持つ火球。シリウスはその熱に、母親の愛のメッセージが書かれた便箋を、焦がさないよう慎重に近づけていく。

じわじわと熱が加わるにつれ、実母の優しい筆跡の隙間から、全く別の、鋭く冷徹な茶色の文字が浮かび上がってきた。

――『ロメーダ帝国に潜入し、賢者の書の秘密を掴むべし』


これこそが、王国が影のエージェント・カノープスに下した、真の絶対任務。

カノープスは赤面を必死に抑え込み、鋭い密偵の瞳を取り戻すと、夜の闇へとその身を投じる決意を固めるのだった。


忍者の隠密活動よりも過酷な羞恥心に耐えながら、カノープスの大スパイミッションの幕が、静かに上がった。

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