5、ダンジョンでの密かな楽しみ
ボスは俺の作ったポーションがえらく気に入ったようで、毎日二瓶ずつ美味そうに飲んだ。
それ以外に、俺は探索も兼ねて、最低3体の魔物をボスの前におびき寄せた。
気のせいかもしれないが、ボスは俺が来てから、より一層青々と茂り、なんだか嬉しそうに見えた。
ボスのお返しなのか何なのか、ボスは俺がおびき寄せた魔物は必ず血抜きしてくれたし、夜眠る時はその大きな葉っぱで優しく包み隠してくれた。
おかげで、危険な深層でありながら、俺は毎晩安心して眠ることができた。
そうして、そんな生活がどれくらい過ぎただろうか。
しばらくして、俺は自分の体に『明らかな異変』を感じ始めた。
「……体が妙に軽い」
何度も第六十八層の魔物をおとりになって走り回ったからだろうか。それとも、未知の深層魔物の肉を喰らい続けたことにより、何かしらの変化があったのだろうか。
俺の脚力は以前とは比べものにならないほどになっていた。
変化は俺だけではない。ボスにも変化があった。
毎日見ているボスの幹に、新しく『種子』のような、俺の顔ぐらいの大きさの実が生まれているのに気がついた。
俺がポーションや魔物の食料を捧げるにつれ、その実は少しずつ大きくなっていっている気がする。
変わり映えのしない暗闇の毎日の中、この実の成長を観察することが、俺の密かな楽しみになっていた。
ある日、いつも通りダンジョンを散策していると、トラブルが発生した。
たぶん、狼の上位種にあたる凄まじい牙を持った魔物――白と黒のまだらの虎みたいな恐ろしい魔物と遭遇してしまった。
俺は慌てて逃げながら、激しい不安に襲われた。
(こいつは明らかに上位種の魔物。ボスはこの魔物に勝てるだろうか? もしボスがやられてしまったら……!)
ボスがやられれば、俺の生活は崩壊する。だけどそれ以上に、これまで俺を守ってくれた大切な相棒がいなくなってしまうという想像に、胸が締め付けられるような恐怖を感じた。
ボスはいつのまにか俺の心の支えにもなっていた。
俺は、ボスのところへ誘導するのをやめ、自力で巻こうと試みた。
進化した脚力のおかげで距離は一向に縮まらない。
「よし、いける! 」
そう思ったが、相手は底なしの体力を持っている。このままでは、いずれ追いつかれて体力が尽きるのは明白だった。
「どうする、どうすればいい……!」
冷や汗が流れたその時、不意に、暗闇に
「ピーッ!」
という甲高い音が響いた。
ボスの鳴き声だ。その声はまるで、「何をしてる、こっちへ来い!」と俺を呼んでいるように思えた。
「大丈夫なんだな、ボス……!」
俺は反転し、走り慣れたボスまでの道のりを全速力で駆け抜けた。
「ボス、大物だ!」
俺が叫ぶと同時に、ボスの触手が目にも止らぬ速さで大気を切り裂いた。
ドス
もう一撃
ドス
一発目の触手は虎の脳天に。2発目は死してなお俺を切裂こうとしていた前足に容赦なく突き刺さった。
一瞬にして虎の魔物は魔力を抜かれ、血を抜かれ、ただの干からびた肉塊へと変わる。
「うわぁ、ボス、強えな……。完全に俺の杞憂だったな」
呆然とする俺の方へ、ボスはシュルリと蔦を伸ばしてくると、俺のおでこを軽く「ピン」と弾いた。
(危ない真似をするな)
そう言いたげな仕草だった。
そのあと、ボスは大きな葉っぱで俺の頭をさらりと優しく撫でてくれた。この植物には、本当に心がある。
その後俺は、虎の皮を剥いでいつも通り肉にした。
いつもは肉以外は捨ててしまうのだが、今回は牙を拝借させてもらった。
かなり長く、鋭く丈夫そうな牙なので、武器になりそうだなと思ったのだ。
恐ろしく硬く、加工するのがとても難しかったが、時間なら腐るほどあった。
68層に通用する、俺の武器作り。
これが俺の新たな、ダンジョン内での楽しみになった。
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