4、奇妙な共存
俺は自分の仮説を証明するために、危険を承知で先ほど投げ捨てたリュックを回収に行った。
中には食料と――。
「あった!」
俺はそれを持ち、植物のところまで行く。
「ほ、ほら、これあげる」
聞こえるかも分からないのに、俺は植物に向かってそう言い、自作の魔導ポーションを差し出す。
すると、ゆっくりと触手が伸びたかと思うと、
しゅるり。
目にも止らぬ早さでフラスコをひったくり、植物は器用に細長い触手をフラスコに刺し入れ中身を吸い上げる。
すると……
「きゅいー!」
「う、うわ! うるさっ!」
植物は突然甲高い音を出した。
「も、もしかして喜んでる?」
魔導ポーションが気に入ったのか、葉がわさわさと揺れている。
「も、もっと欲しいのか?」
「きゅい」
うんと言ってるように見える。
俺はまた、次の魔導ポーションを差し出した。
この時から、俺はこの深層の植物を畏敬の念を込めて『ボス』と呼ぶことにした。
ボスは、俺の手元から丁寧にフラスコを取ると、また器用に細長い触手を刺し入れて、ごくごくと音を立ててポーションを飲んだ。まるで極上のジュースでも味わっているかのように、実においしそうに。
「あ、瓶はちゃんと返してくれよ。新しいのを作る時に必要だからな」
言葉を理解しているかは分からなかったが、空になった瓶を、ボスは触手でそっと俺の手元へ返してきた。
(もしかしたら……こいつとは、本当に共存できるかもしれない)
ふと、ボスが魔力を吸い上げた魔物の死体に目をやる。
大丈夫だ。ダグラスたちとの地獄のような探索のおかげで、魔物の解体だけは嫌というほど慣れている。
俺がナイフを握り、皮を剥いで血抜きをしようとした、その時だった。
「うわっ」
ボスの触手が超スピードで伸びる。
ボスは俺の意図を察したのか、魔物の身体から今度は血液を吸い取っているようだ。
「す、すごい」
一瞬にして魔物の干し肉が完成した。
これなら……魔物を食べられるかもしれない。
本来なら、魔力が体中に巡っている魔物は、人間が食せば猛毒になってしまう。それに、とても食えたものではない酷い味がするはずだ。しかし、ボスが本当に魔力を吸い上げたのだとしたら……。
俺は綺麗に処理された魔物の肉を一口サイズに切り分けた。
カバンの中に入れていた道具で火を起こし、肉を焼く。
「匂いはうまそうだけど……」
どのみち、これが食えなければ、いずれ俺は空腹で死ぬことになる。ええいままよ!
俺はガブリと肉を食らう。
「うっ!」
思わず声が出た。
「うまい……」
美味い。グロテスクな魔物の肉とは思えないくらいジューシーで、濃厚な肉の旨味が広がる。
俺は続けざまに肉を焼き、空腹を満たした。いくら食べても体に異変はない。
やはりボスは魔力と血液を完全に吸い尽くしていたようだ。
腹が満たされると、色々と他の心配も頭をもたげてきた。
リスクが高いことは分かっていたが、俺はボスの側を少し離れ、周辺を探索することにした。
すると、実はかなり近い場所に綺麗な水源があることが分かった。
よく見ると、ボスの根がここまで伸びてきていた。ボスもここから水を吸い上げていたらしい。
「ボス、俺もお水、ちょっともらいます」
さらに、その水辺には貴重な薬草の類がいくらか自生していた。
「これは……!」
俺は必要な分だけ薬草を摘んだ。さらに、ダンジョンの至る所には小さなクズ魔石が転がっている。
「これだけの材料が揃えば……ポーションを量産できるぞ」
こうして、俺とボスの第六十八層での奇妙な共存生活が始まった。
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