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11、ゼロの真実

ボスがいなくなってしまった今、この場所に残り続けるのは全く意味のないことだった。

俺は腹をくくった。

「隠し部屋に行ってみよう」


俺が68層で隠し部屋を見つけられたのは、本当にいくつもの偶然が重なった結果と言えた。

たまたまボスの居場所の近くにそれがあったこと。そして、俺が狭い範囲を慎重に探索し続けたことがきっかけだった。

ダンジョンの石壁に、ほんの少しだけ周囲と色の違う石がある。

俺は息を呑みながら、その石をぐっと押し込んだ。

――ココココココ……。

重苦しい音を立てて石壁がスライドし、人一人がようやく通れるほどのスペースが姿を現した。

「よし、行こう。時間が経つと閉じちゃうからな」

「うん」

ライアと一緒に、俺は素早く隙間へと滑り込んだ。

すぐさま内側の壁を確認すると、そこにも外側と同じ色の違う石が存在していた。

「良かった……。内側からも開けられる構造みたいだな」

閉じ込められるという最悪の事態は免れそうだ。とはいえ、ここは前人未到の68層。俺はナイフを握る手に力を込め、警戒を怠らないまま奥へと進んだ。

隠し通路を抜けた先。そこには、ぽっかりと開けた小部屋のようなスペースが広がっていた。

しかし、そこには本当にダンジョンの中なのかと疑うような光景が広がっていた。

「な、なんだこれは……?」

そこはおよそダンジョンの中とは思えないほど快適な『居住スペース』があった。


頑丈そうな本棚が並び、その奥には快適そうなベッドまであった。

そしてベッドの上には、

「人間の死体、白骨化してる。68層は人類未到達だと思っていたが、まさか俺以外に、ここに来ている人間がいたなんて」

信じがたい事実を前に動揺しつつも、俺は部屋の探索を始めた。

一番最初に目を引いたのは、骸骨となった手の先、その手元に遺されていた一冊の本だった。

通常、ダンジョン内では紙が黒く変色してしまうが、稀に発見される『魔導書』と呼ばれる書物は、特殊な紙と特殊なインクが使われているため、何百年経っても全く劣化しない。

この部屋の本棚を埋め尽くしている本も、おそらくすべてその類だろう。だとすれば、この本棚一列だけで、地上の価値に換算すれば数百億円を下らないのではないだろうか。

息を呑みながら、俺は骸骨の手からその本を取り、そっと表紙を開いた。

だがそれは魔導書ではなかった。

そこに書き連ねられていたのは、この骸骨が生前に綴ったと思われる『日記』だった。

この骸骨が何者なのかを突き止めるためにペラペラとめくっていくうち、俺は驚愕の事実を知り、時間も忘れて、その日記を読み漁った。

日記によれば、この男は数百年前『大賢者』と称される伝説的な魔法使いだったようだ。

数百年前に、すでに第六十八層に到達していた人間がいた。その事実だけでも恐ろしいが、この大賢者は、単独でここまで潜ったというのだから、化け物じみた強さだったに違いない。

しかし、なぜこれほどの化け物が、この部屋で命を落とすことになったのか。

読み進めると、日記にはその決定的な理由がしっかりと書き残されていた。


『魔法の実験を行っている最中、いきなり背後から植物の魔物にグサリと触手を突き刺された。迂闊だった。慌ててなんとか対処し撃退したが、かなりの量の魔力を吸い上げられてしまった。……私は、もう長くないだろう』


日記のその一節を読んだ瞬間、俺の顔に引きつった笑いが浮かんだ。

なんという偶然か。魔力の塊である賢者を不意打ちし、致命傷を与えた「植物の魔物」――それは他でもない、俺を育ててくれた『ボス』のことに違いなかった。

「なんか……うちのボスがすいません……」

思わず骸骨に向かって、そんな独り言が漏れた。

しかし、本当に俺を驚愕させ、目を釘付けにしたのは、その一文の後に記されていた記述だった。


『魔力を探知し、それを吸い取る魔物が深層にいることは、もちろん知っていた。こんなことならば、探索の時はあらかじめ魔力を封印し、魔力量を完全なゼロにする、あの術を使っておけば良かった――』


「魔力を、ゼロにする……?」

心臓が、ドクンと跳ね上がる。

俺は一つの仮説に突き動かされるように日記を閉じ、部屋の本棚にある魔導書を片っ端から引き抜いて調べ始めた。

「なぁたくと、らいあ、ひまひま」

「ごめん、ポーションあげるから、それ飲んでて」

本棚には、大賢者がこれまでに生み出した、数々の魔法や、研究結果が記されていた。

(これじゃない……どこだ……きっとある……ない、ない)

そして、ついに見つけた。

「…………これだ……」


『元来、生まれながらにして魔力が完全に「ゼロ」な生き物など、この世界には存在しない』


この記述が本当なら、俺が魔力がないのは明らかにおかしい。俺ははやる気持ちを抑え続きを読んだ。



『だが、魔力察知を行う魔物の目を欺くため、意図的に魔力をゼロにして完全に封じる魔法が必要だと私は感じ、この術を編み出した』


ページをめくる俺の指が、驚愕でカタカタと震え始める。


『以下に魔力を封印し0にする術と、その解除の仕方を記す』

お読みいただき、本当にありがとうございました!

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