10、贈り物
できあがったそれは、いつものポーションとは色合いも風味も全く異なる、神秘的な輝きを放っていた。
「我ながら、凄いものを作ってしまった!」
もちろんライアの分も作っておいたので、一本手渡してやる。それを一口飲んだライアは、目を丸くして驚嘆の声をあげた。
「これ、すごい! いつものと、ぜんぜんちがう!」
「そうか! やっぱり凄いか。よし、これならきっと、ボスも……!」
意気込む俺。
しかし、そんな俺を、ライアはなぜかとても寂しそうな瞳で見つめていた。
俺は弱り切ったボスの前に進み出た。
「ボス、これを飲んでくれ!ライアと一緒に、一生懸命材料を探して作ったんだ。きっと美味いし、絶対に元気になるから……!」
ポーションを差し出して、俺は驚いた。
ボスはゆっくりと、本当にゆっくりと触手を伸ばし、俺の手からフラスコを受け取ったが、その動きは通常の低階層の魔物相手にすら勝てないのではないかと思えるほど鈍い。
「……さぁボス、飲んでくれ!大丈夫、きっと大丈夫だ!」
ボスは中身をゆっくり、味わうように吸い上げる。
いつもは数秒で飲み干してしまうポーションを、今日は10分以上かけてゆっくりと。
俺はボスが飲み切るまで、ずっとその様子を見ていた。
飲み終えたボスは、嬉しそうに
「キュイ、キュイ」
と鳴いた。
「そうか、そうか! 旨いか、良かった! 早く、早く元気になってくれよ!」
俺がボスの幹に縋り付くようにして言うと、ボスは空になったフラスコをそっと置き、大きな葉っぱで俺とライアの頭を優しく、本当に優しく撫でてくれた。
温かい余韻に浸ったのも束の間、ボスの全身がキラリ、キラリと淡く煌めき始めた。
「な、なんだ……!? 何が起こってるんだ?」
慌てる俺の横で、ライアがぽつりと声を漏らす。
「きえようと、してる……」
「え……? どういうことだ! 前に言ってた『ダンジョンに還る』のは、まだ先の話のはずだろ!?」
「じぶんから、きえようとしてる……」
「な、なんで?嘘だろ……!? やめろ、やめてくれボス!」
俺が叫んだ瞬間、ボスの大きな葉っぱが、俺の身体をギュッと強く抱きしめた。ライアもまた、泣きそうな顔でボスにそっと抱きつく。
「だいじょうぶ。ままは、いますごくうれしいって。だから、きえる。たくとに、おくりものがしたいんだって。いままでの、おれい」
「そんなの……いらない!いらないから!待ってくれよボス! お礼を言いたいのは、俺の方なんだ! 待ってくれ……!」
俺の懇願が届くよりも早く、ボスの巨体はパッと眩い光の粒子となって霧散した。
俺の腕が、虚空を掴む。
「……ボス……」
コロン
ダンジョンの冷たい地面に、何か転がった。
それはみずみずしい緑の光を放つ魔石だった。
それは魔石というよりまるで宝玉のようだ。
「まま、しぬまえに、じぶんのませき、のこしたかった。ふつうだと、ませき、のこらないから……」
俺は地面に両膝をつき、がっくりと肩を落とした。
ライアはボスの魔石を拾い上げ、俺の前にそっと差し出した。それは、紛れもないボスの形見だ。
「お前はボスの娘だ。……お前が持っているのが、一番いいと思う」
俺が掠れた声でそう言うと、ライアは静かに首を振った。
「まま、たくとにもってほしいって、おもってる。だから……たくとの」
悩んだが、コクリと頷きライアの手から、ボスの遺してくれた魔石を受け取った。
手のひらに収まったその結晶は、どこまでも美しく、見ていると自然と胸の奥が熱くなった。
「ありがとう……ボス……」
魔石にポツリと一粒、雨が落ちた。
魔石はその雫を虹色に煌かせる。
それは今まで見た何よりも綺麗な虹色だった。
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