歓楽街と修理
可憐騎士さんが去り、もう客は来ないと思っていたのだが……
「あの、あなたがモミジ様ですか?」
前髪は装飾された花の髪留めで止め、髪を後ろでお団子にした濃い紺色の髪、大人美人な顔立ちに妖艶さを感じる青紫の瞳。
少し和服に似た服を着た妖艶美人さんが話しかけてきた。
「そうですが……あなたは?」
「私は怪しいものではありません。歓楽街の宿[ランファ]という店で働いているシズナという者です」
歓楽街の[ランファ]って、城門で話したおじさんがものすごく高いとか言ってた店だっけ?宿だったのか…
「そうでしたか、それで私に何かご用ですか?」
「実は早急に直してほしい魔導具がありまして、私どもの宿に来ていただきたいのです」
魔導具修理の依頼か………俺が魔導具に詳しいって誰に聞いたんだ?
「私の事を誰から聞いたのですか?」
「困っていた時に警邏中だった警備隊第4隊長のグレイ様が通りかかりまして教えてくれました」
グレイさんか……何で俺を勧めるのかな。
「いつも頼む魔導具師とかは…?」
「夜も遅いですから時間外でして、頼めるのはモミジ様しかいません」
まぁ、確かに…夜に遊ばない人はほとんど寝てる時間だもんな。
「直してほしい魔導具はお風呂のお湯を出す魔導具でして、いきなりお湯が出なくなってしまい困まってしまいまして、持って来ようにも大きくて持ってこれないのです」
宿でお風呂のお湯がでないのは問題だな。
………仕方ないか。
「わかりました。修理しにうかがいますよ」
「あ、ありがとうございます!」
露店をかたづけてクロロと一緒にシズナさんの後ろをついて行き、[ランファ]に向かう。
×
歓楽街は中央広場から東へ少し歩いた所にあるらしい。
段々と喧騒が大きくなってきた。
開けっ放しの大きな門が見えて来て、そこをくぐると歓楽街へと入る。
「これって…」
飲み屋や食べ物屋がズラッと並び立つ街並みに
そこかしこで酒に酔う者たちと酒を誘う者たちの喧騒が聞こえる。
……正直うるさい。
クロロもうるさいのを我慢している感じだ。
しばらく歓楽街の大通りらしき道を歩いていると……
ひときわ大きな建物が見えてきた。
少し和風っぽい4階建ての建物に沢山の男達が吸い込まれていくのが見える。
「ここが[ランファ]です」
いかにも高そうな高級宿だな。
シズナさんはそのまま暖簾のような物が下がった入口へと入っていく、何人かの客らしき男達がシズナさんに見惚れていた。
クロロを店先にある立派な騎獣場で休ませておいて俺も暖簾をくぐる。
「女将さん、魔導具師のモミジ様を連れてきました」
女将?まるで旅館みたいな呼び方だな……
シズナさんに女将と呼ばれた女性がこちらに歩いてくる。
長い狐耳を生やし、金髪の髪を後ろで一つにまとめている。
優しげな青い瞳に泣きぼくろ、和服に似た紫の着物にふわふわ揺れる尻尾がよく似合う。
そんな美女狐獣人女将だった。
「ようこそ、いらっしゃいませ。私、ここの宿[ランファ]の女将をしておりますギンレイと申します」
「モミジです。早速ですが修理する物はどこにありますか?」
挨拶は手短くして、さっさと修理をしてしまおう。
「ふふ…仕事熱心な方ですね。シズナにご案内させますよ」
仕事熱心と勘違いしたのか、それとも俺が挨拶を手短くしたかったのが分かったのか…どちらでもいいか。
「こちらです」
シズナさんに案内されて廊下を歩く。
建物内も少し和風っぽさを感じる。
通り過ぎる襖みたいな戸の向こうからは男女の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
一階の廊下を歩くこと数分、青い暖簾が見えてきた。
その暖簾の前でシズナさんは立ち止まり
「ここが浴場となります」
この向こうがお風呂か…
暖簾をくぐると左右に分かれる道がある。
ここで男湯と女湯に分かれるようだ。
「男湯の方に行きます」
右の男湯の扉を開けると広いの脱衣所があり、その奥に進むと浴場があった。
かなり広いの浴場だ。
この世界にきてから初めて風呂を見た気がするよ。
ただしお風呂にお湯は入っていない、空状態である。
「こちらです」
シズナさんに案内されたのは男湯と女湯を隔てる壁の中央についている大きな水晶の所であった。
見てすぐにスキルが反応してわかった。
「これが魔導具ですね。ああ…魔力回路が劣化してダメになってますね」
「えっ?見ただけでわかるのですか?」
何だこの魔導具は……明らかに作りが荒いというかなんというか…雑だな。
「魔石の効率が悪くありませんか?」
「えっ?コレは2年前に取り替えたばかりの最新の魔導具ですよ」
………このレベルが最新なのか。
俺が自分のスキルに慣れすぎてるせいなのかな?
ならばあまり手は加えずに直すだけでいいか。
でも、2年で魔力回路が劣化とは…コレを作った魔導具師は腕があるとは思えないな。
「では、修理いたします」
この魔導具から床下にある魔導回路を伝い、男女各湯船に設置してあるお湯を出す魔導具に司令を出す物らしいな。
親機と子機の関係かな。
今回はその回路のすべてに劣化が起きてしまい司令が届かないようだ。
水晶に手を当てて、修復する魔力を流す。
「本当に雑な作りだなー」
床下すべての魔力回路に魔力を流して修復する。
少しおまけに前より魔力回路の強度を上げておく事にした。
これでしばらくは平気だろう……はい、修復完成!
すべての湯船にお湯が入り始める。
「はい、終わりましたよ」
「えっ!?お、終わったのですか?まだ数分しか経っていませんよ」
シズナさんは驚きながらも各湯船を確認していき。
最後に魔導具のON・OFFを数回繰り返す……
「た、確かに直ってますね…気のせいか前より魔力が通しやすくなっている感じがします」
依頼を受けた以上はきちんと仕事はいたしますからね。
「ありがとうございます。グレイ様の言っていた通りの凄腕の魔導具師なんですね」
グレイさん…なんて宣伝してるんですか。
「料金をお持ちしてきますので、ロビーでお待ちください」
これで依頼は完了だな。
俺はロビーに戻り、設置してあるソファに座る。
座り心地はなかなかいい。
「凄い腕前なのですねモミジ様は」
美女狐獣人女将ギンレイさんが対面のソファに座る。
「モミジ様さえよろしければ、この宿の専属魔導具師になりませんか?」
スカウトとは……でもそれは無理だな。
「お誘いは大変嬉しいのですが、私は露天商の方が性に合いまして…申し訳ありません」
「そうですか……残念です。ですが何かあった時はまたご依頼させてください」
依頼ならいいかな。
「 わかりました」
俺が専属にならないとわかると依頼するという形を取って接点を作っておくのか……この女将はやり手だね。
「モミジ様、お待たせいたしました。こちらが依頼料の金貨20枚です」
えっ?金貨20枚って高すぎな気が……
「深夜料金に特急修理ならばこれくらいが妥当ですよ」
俺の戸惑いを感じ取ったのか女将が答えてくれた。
「そうですか。なら、ありがたく」
俺は宿を出る。
女将ギンレイさんとシズナさんが外まで見送ってくれた。
なるべくならばもう関わりたくはないな。
モミジを見送る女将とシズナ。
シズナが女将に聞く
「モミジ様は何者ですか?」
「ふふ…私が聞きたいわ、あんなに不思議なお方には初めて会ったわ」
モミジを見るギンレイの顔は微笑んでいた。




