いざナダへ
針葉樹海を抜けると広い広い平原が広がっていた。
「これからは女性化している時はカエデ、男性に戻っている時はモミジと名乗ることにするか」
あの剣士達に合う前には決めていた。
「過ぎたことはしかたなし、これからはこの両性とも上手くやっていくしかないな」
言語も問題ないようだし
人生切り替えは大事だと俺は思う、グレーな会社で唯一学んだ生きていく秘訣である。
「遠くに見えるアレがナード地方の中心都市ナダの砦かな?長いしデカいな」
1キロほど先に砦が見えてくる。
「ゲームにはゲームのよさもあるが、リアルは生々しさを感じるよな」
風、それに運ばれてくる匂いや地面を歩く感触は悪くない
その間にも材料採取と薬作成の手は止めないでいる。
「でもそろそろ止めないと駄目か…馬車が通り始めた」
道も土から石畳に変わり、すぐ横を馬車や荷馬車が通り過ぎていくので薬作成は中止し、材料はさり気なく採取することにした。
「しかし、スキル[商人]は手に入れとけばよかったかも…薬水の時は銀貨2枚で大きくふっかけたつもりだったんだけどな」
結果、安かった…
この世界は石貨・銅貨・鉄貨・銀貨・金貨があり、石貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で鉄貨1枚という硬貨価値。
「だから日本円で2000円くらいだったんだけどな…まさか相場がもっと上だとはな」
そこら辺スキル[商人]があればわかったんだろうなと思う。
「はいっと、もう悔やんだからおしまいだ。切り替え、切り替え」
大分、砦に近づいてきた。
もう見上げないとてっぺんが見えないほどである。
大きな門に人や馬車が並んでいる。
ここから見るに通行証やお金は必要ないようで、ただ一時停止は必要なようだ。
荷物チェックとか人相確認かな?色々と確認しながら兵士が動いているのがわかる。
人の列に並ぶ…意外と早く列は進む。
そんな中、俺はふと…
「あっ…俺の姿は平気なのか?」
自分が珍しい種族だということを思い出した。
そういえば俺はまだ自分の顔を見ていない
今の姿は女性化しているので女である。
見える範囲では問題はない、しかし顔はどうなんだ?
触った感じは問題ない気はするけど…
フードを目深に被っているから平気か?いや、取れと言われる気がする。
ここは一旦、列からはなれて…
「次!そこの商人らしき女性!」
呼ばれたーー!
いざとなったら全力ダッシュで逃走!それを胸の奥に秘めて呼んだ兵士の方へと歩いていく。
兵士の格好は意外と軽装である。急所を守るような鉄の鎧を身に着けている。
四六時中こんな所に立っているのだからこれくらいの軽装なのかな。
腰にはロングード、右手には槍を握っている
「何の用でこの街に?」
兵士が問いかけてくる
「行商人をしておりまして、こちらで露店でもしようかと…こちらで露店は可能ですか?」
なんだ?俺が話だしたら兵士が目を見開いたまま黙ってしまった。
「あの…?」
「あ、ああっ、露店か!?もちろん可能だ、通行人の迷惑にならなければどこでも出来るぞ。ただしこの許可証を銀貨1枚で購入するのが条件だがな」
兵士が早口で話だす。
もちろん許可証を購入させていただく。
「その許可証は一週間有効だ。一週間ごとに更新してくれ、それと露店をするのなら中央広場でするといいぞ、あそこなら同じ露天商達が集まっているからな」
「そうですか、情報ありがとうございます」
許可証は一週間ごと更新、中央広場で露店か…なんかワクワクするな。
「では…」
「あー、最後に顔を確認させてくれ。手配犯とかなら大変だからな」
ですよね~…勢いでは通れないようだ。
しかたなし…
俺は意を決してフードを外した。
するとどうした事だろう
兵士はまた目を見開いて固まっている。
それだけではない、後で待機している兵士達も俺の隣で待機している馬車の御者も乗っている乗客も俺を見て固まっている。
なんだ?俺の顔はそんなに変なのか?
忌避感ではないのはわかるのでよかったとするか。
「えっと…通ってもよろしいですか?」
「へっ!?あっ!は、は、はいっ!どうぞお通りください!」
話かけた途端、今度は顔を真っ赤にしながら挙動不審に答える兵士。
「ありがとうございます。お仕事頑張ってください」
フードを被り直す、すると周囲からため息が聞こえる。
「は、は、はいっ!ありがとうございます!」
兵士から感謝の返事、なんで感謝されるんだ?
「まぁ、いいか…これでやっとナダに入れた」
ここからが露天商としての第一歩だ。