[薬学[極]と初商売
あまりの眩しさで閉じていた目を開ける。
「でかい木だな…」
眼前には巨大な針葉樹が無数に立ち並んでいる。
まるで樹海だ…
「…ここはナード地方南にあるナード針葉樹海」
ふとそんな言葉がでた。
どうやらこの世界の基礎知識は入っているようだ。
俺が立っている場所は少し円形に開けており中心には古びた石碑が鎮座している。
この石碑は神がこの世界を創るさいの目標だったらしい。
「ここから北に向えばナード地方の中心都市があるようだけど…あー…」
さっきから気になって仕方ない事がある…
それは俺の声だ。
高い、それに綺麗な声、普段の聞き慣れた少し野太い声じゃない
この声はまるで…恐る恐ると俺は視線を下に向ける。
「マジか…あの事務処理天国!」
胸が生えている!いや!胸がある!しかもかなりの巨乳である!
つまり俺は…
「女性になってるだと…」
どうなってる?
俺の今の姿は背中には中型の革リュック、黒色のフードつきローブ、所々にフリルのついた翠色の服、革ベルトにそれに付属する革袋。
下は…黒いロングスカートに革ブーツである。
「こんな時はアレか…異世界転生系定番のステータス確認だ」
すると透明な板のような物が目の前に現れ、その表面には目的の文字が書かれていた。
:名前モミジ シロタカ 性別 女
種族 エデン族 年齢20
ユニークスキル[原初の力]
スキル[薬学[極][魔導学[極][工作[極][植物魔法][毒魔法][スタミナ][古武術][アイテムボックス]:
「…女って表示されてる…もっと詳しく知るならどうしたら…」
試しに種族の文字に触れてみると…
:エデン族 すべての種族の起源とされる種族、この種は両性である:と表示された。
「両性!?しかもコレは○○って隠れてたヤツだろ!あの事務天界!故意に隠してたな!」
だがおかしさも感じる。
今の俺は胸の重さはすごい感じるが…股には寂しさを感じる。
すなわち俺はステータスどうり女性なのだ。
「まさか…試してみるか」
俺は一つの推論を試してみる。
「男に戻れ!」
そう強く念じると…
「おっ!おぉっ!胸が縮んで!股も!声も変わるぞ!」
変化は身体だけではなく、服も変わっていく…
フリルはなくなり、ロングスカートも黒いズボンに変わる。
性別を変える事ができる……そういう意味の両性とはな。
「まるで魔法だな…さすが異世界だ」
強く念じると性別が変わるようだ。
声はイケメンボイスになっている…これは慣れるのに時間がかかりそうだ。
「とにかく移動するか…目指すはナードの中心都市ナダだ」
……まさか両性で生きていくことになるなんて思いもしなかったよ。
×
針葉樹海を歩き始めて一時間くらいが立った。
「まるで疲れないな、スキル[スタミナ]のおかげか種族的にタフなのかだな」
しかも歩いている方角がわかる、これは種族的な力なのだろう。
「おっ!ブラックパインの松脂発見」
この巨大針葉樹の名前がわかる。
これはスキル[薬学[極]の効果だろう、周囲にある植物の名前がすべて頭の中に浮かぶのだ、スキルに感謝だ。
革ベルトに付属している革袋の中にあった折りたたみナイフを使い松脂を採取する。
「えっと、アイテムボックス」
空間に黒い穴が空きその中に松脂を入れる。
歩きながら色々と試した結果、意識して使えばスキルも魔法も発動するというのがわかった。
「ラノベとかで知っていたけどアイテムボックス便利すぎるな…んっ!あっちにも松脂あるな」
松脂は色々な材料になるので沢山採取しよう。
「足元に青い花、これはフルルだな」
この花には治癒効果があるそうだ。
「松脂とフルル…薬術を試すには丁度いいな」
スキルを詳しく見てわかった事がある。
スキル[薬学[極]は複合スキルらしい
薬を作る[薬術[極]
薬瓶を作る[薬瓶作成[匠]
薬に関係する知識[薬知識[博士]
この3つを合わせてスキル[薬学[極]だ。
なので薬を作る[薬術[極]を使ってみる。
アイテムボックスから松脂、手からはフルルを薬術で空中に浮かせる。
初めてなのでほぼスキルだよりで進める。
フルルから有効な成分を抽出
松脂からも有効な成分を抽出
それを空中で混ぜ合わせる。
まるで強力なミキサーみたいだな…周りに飛び散らないように制御しないと駄目らしい
少しすると緑色に光だした。
どうやら完成したようだ。
ここでスキル[薬瓶作成[匠]を発動。
近くの土が浮き上がり集まり圧縮、成形、乾燥、加熱、冷却を一瞬ですませ小さい瓶の出来上がり。
「一瞬で瓶て…本当に魔法だな」
そして、後は瓶に薬を入れたら…
「よし、完成!キズ塗り薬(下級)だ」
今の材料ではこれが限界だ。
「スキルのサポートがあるのにけっこう大変だったな」
もし0からやれと言われたら到底無理だと実感した。
「数をこなして慣れるしかないなこれは」
薬売りなどで生きていくと決めた以上は鍛錬あるのみだ。
×
針葉樹海をひたすら北に進みながら、材料採取と薬の作成に勤しむ。
薬を作ってはアイテムボックスに放り込むを繰り返し三時間ほど
「よーし、よし!だいぶ慣れてきたぞ!スキルなしじゃ絶対無理だが」
薬作りは楽しいの一言だ。
商社マンの時が馬鹿らしくなる。
「ん~…森も浅層に来たみたいだな。」
なんだか感覚でわかる。
あともう少しで森を脱出という時だった…
「人の声か…?」
人の声が聞こえてきた…
「4人…男2に女2かな?ここから少し北東100mって所か」
この種族になってから感覚が本当にすごいな…はっきりいって戸惑うばかりでまだ把握しきれないぞ。
「何か困っているみたいだし、とりあえず近くまでいってみるか」
早足で声の方へと向かう
「あー…1人がケガしたようだな」
4人の会話の内容からわかった。
どうやら薬も持っていないらしい…
「これは初商売の予感だ…そうだ!初対面の印象は女性の方がいいかもな」
早足しながら女性化し、珍しい種族なのでフードを目深に被る。
「初商売上手くいきますように」
×
「カント、足の傷はどうだ?立てるか?」
金髪ショートの槍士の少年が倒木に座る黒髪坊主頭の少年剣士に心配そうに話しかける。
「ああっ!このくらいのケガ平気だってキーヤ…いたぁっ!」
少年剣士カントは立とうとするが右太腿の角に刺された傷が痛み立てない
「バカっ!無理しないでよ!角鼠に刺された傷は深いのよ!」
「バカいうな!クイナ!少し油断しただけだ!」
赤髪のセミショート弓士少女クイナが心配そうに叱る。
「て、手持ちの薬草では治せませんよ…どうしたら…」
青髪ゆるふわロングの魔法使い少女が自身の革袋の中身を確認しながら不安気に呟く
「フルミナ不安がるな。こうなったらカントを僕とクイナで運ぶしかないなか…」
「でもそれじゃあ守りが魔法使いのフルミナだけになるわよ、万が一魔物がきたらどうするのよ」
全員が黙りこんでしまった…その時
「お困りですか?」
綺麗な音楽と間違えるような声が聞こえた…そして同時に恐怖を感じた。
まるで気配を感じなかったからだ。
約3mくらい離れた場所にフードを被った女性が立っている。声を掛けられるまでそこに人がいるとは思わなかった。
全員が少し身構えると
「驚かせて申し訳ありません。私は怪しい者ではありません。行商人をしておりましてカエデと申します」
「行商人がなぜこんな所にいるんだ?」
キーヤはいつでも槍を突き出せるように構える。
「ああ、それは私は道具師ですから材料採取をしていたのです。その最中にあなた方の声が聞こえまして」
「道具師…上級職。そんな人が行商人?」
フルミナが呟く
道具師は上級職だ…誰もがなれる職業ではない、普通なら王宮とか大手の大商店に1.2人いるくらいの存在だ。
「そこら辺は人それぞれといいますから。それよりも…薬買いませんか?」
「薬あるの!ポーションある!?」
クイナは警戒心を解き、行商人に近づいていく…コイツはカントの事となるとこれだからな。
「ポーションはいけません。治りは早いですが副作用が起こる可能性がありますから」
そうポーションは飲めば傷がすぐ治るが、中毒症状になる可能性が高い。
「では少し傷を見させてもらいますね」
行商人はそう言うと…僕の視界から消えた!違う!もう僕の隣を歩いている。
こんな落ち葉だらけの地形なのにまるで足音がしない!?
姿格好は行商人なのに何者なんだ!?
行商人はすでにカントの傷を見ている。
いきなり近づかれたカントは………胸をガン見していた。
「あいつデレデレして!絶対後で殴ってやる!」
「あ…なんか小声でいい匂いとか言ってる…引くなぁ」
女子2人に不評なカントだが……くそっ!羨ましいな。
「このくらいの怪我でしたら、こちらですね」
いつの間にか行商人の手には一つの瓶が握られている。
「治癒飲料薬[薬水]です」
薬水…薬草を水で溶かした薬だな。
「うげっ!薬水ぃ!苦いんだよなそれ!」
そう薬水は苦い、とにかく苦い、苦いとしか言いようがない。
「ご安心ください。これは私独自の製法で甘酸っぱく仕上げております。それに加え治癒効果も高めておりますので、今ならコレ一本銀貨2枚でいかがでしょうか?」
安いな…街の薬師が作る薬水は銀貨5枚が相場だ。
それに甘酸っぱい薬水とは興味を惹かれる。
「買ったわ!はいっ、銀貨2枚!」
クイナが行商人に銀貨を払い、カントに薬水を渡す。
「ほらっ、飲めカント!ぐいっと飲みなさいよ!」
「飲むって!急かすな…ゴクッ…!…ゴクゴク…うっめえ!」
意を決すして飲んだと思ったら、美味いだと!?行商人の言ったことは本当だったのか!
「あれっ!痛みが引いていくぞ!」
「ちょっ!もう血が止まってきてるわよ!」
「すごい…」
何と言う効果だ…道具師というのは本当のようだな。
「傷は治りますが血は戻りませんので、しばらくはこの場に待機してくださいね」
行商人は立ち去ろうとしている。
「あの!お姉さん、もう一本薬水売ってくれ!」
そんなに美味かったのか…?
「薬水は今ので売り切れです」
「そんな……」
カントが崩れ落ちる…そんなに美味かったのか!
「でしたらナダで露天商をしますので買いに来てください、それまでに用意しておきますから」
「わかりました!」
カントが立ち直った…もう立てるのか、すごい効き目だな。
行商人が去っていく…
「お姉さんの露天絶対行こうな!」
すっかり元気になったカント
「あんた…お姉さん目当てじゃないでしょうね?」
「眼福だった…アレは素晴らしい…いい匂いだったし……ゴフッ!」
クイナの鉄拳制裁。
「愚かなりカント」
呆れるフルミナ。
明るさが戻った仲間を見て思う
「薬水の味が気になるな…」
そんな呟きは森の木陰に消えていった。




