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10)侯爵領2

 突然、庭に降り立った竜騎士達への反応は様々だった。


「お待ち申し上げておりました」

ベルンハルトの命令で、先に侯爵領にて調査を行っていた査察官たちは、丁重に一行に挨拶をした。その周囲で唖然としているのは、以前から侯爵に仕えていた人々だろう。竜騎士相手に先触れがない、到着予定の連絡がないと苦情を言っても無意味だ。最速の移動手段である竜に乗っているのだ。早馬など追い越してしまう。唯一、狼煙があるが、敵国からの侵入を伝えるための手段だ。自国の竜騎士は、ある日突然飛んでくる。そういうものだ。


「ご滞在のご予定はいかほどでしょうか」

「王都を空けられるのは二週間だ。すでに三日目だ。長くて一週間。帰路の風向きが問題になる」

「承知しました。では、準備出来次第、早速ですが説明させていただきます」


 案内された執務室には巨大な地図が広げられていた。

「御領地の維持管理に熱心に取り組まれたのは、先代様までです。遅くに生まれたご子息を溺愛されました。華やかな王都での生活を好まれたご子息は、御領地を顧みられることはなかったようです」

査察官達は淡々と言葉を続けた。


 当初、領地に残っていた家臣たちは、先代の時代のような領地経営を目指したらしい。だが、侯爵と妻、息子の浪費を賄うために重税が課され、税の取り立てが厳しくなり、やがて民は耕作地を捨てた。耕作地は荒れ、多くの民が周辺の他の領主の土地、王都の貧民街に流出した。今やかつての賑わいはこの領地になく、重税にあえぐ民が残っているだけだという。


「広いな」

ルートヴィッヒは地図を眺めていた。農地もあれば山地もある。川もある。北の領地の数倍どころではない。北の領地は、大半が山林だ。人の住む地域が限られる。領地内の移動は、竜の背に乗れば数日で十分過ぎるほどだった。


「あなた方には申し訳ないが、一度領地を飛んで、全体を把握したい。何せ、この一帯に関しては、何も知らない素人だ。預かってきた手紙も配る約束になっている。まずは、地図にある主要な町や村を把握しておきたい」

ルートヴィッヒの言葉に、彼らは顔を見合わせた。


「恐れ入りますが、いかに竜とはいえ、侯爵領は広大です」

「それゆえだ。何かあったときに、現地に到着までどのくらいかかるのかを把握しておきたい。各々の場所に関して、己の目で見ておきたいとも思う」

「かしこまりました」

「急ぐことがあるならば、今のうちに報告してほしい。王都とこの侯爵領の往来を繰り返すことになる。急がないものは次か、その次の訪問に聞こう。竜騎士達は移動計画を。理想としては、主要な町をすべて回りたいが、無理だ。八割から五割程度を回る経路を複数立案して報告するように。今回は無理でも次はそれで移動する。季節風も考慮してくれ。移動中は野営する。領地の把握が目的だ。兵糧は十分にある。水場を確認しろ」

「はい」


 侯爵家に前から仕えていた者たちは、顔を見合わせた。領主が、野営し兵糧で食いつなぐなど、考えたこともなかった。新しい領主は、かつての自分たちの主とは違うのだ。

「では、急ぐものから話を聞こうか」

「かしこまりました。では、早速」

監査官達は淡々と説明を始めた。


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