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9)侯爵領1

 疲れ果てているルートヴィッヒを休ませようにも、王都にいては仕事に追われるだけだ。そこに貴族達が、面会を申し込んできた。ルートヴィッヒの負担は増える一方だ。


 休むなら一度、王都から離れないと無理だ。侯爵領の視察であれば王都を離れられる。数週間程度であれば、ルートヴィッヒが王宮を離れても問題ないだろう。ベルンハルトとルートヴィッヒの意見は一致した。


 問題は、少しずつ解決の方向に向かっていた。水浸しの後宮は、放棄が決定した。更地に戻すための作業が開始されている。後宮にあった代々の王妃の装飾品などの高価な品は王宮に移された。王妃個人が散財した宝石などの装飾品に関しては、緊急時に換金するための資産として保管が決定している。


 王都にあった侯爵家の敷地からは、人骨が見つかり、屋敷の複数の隠し部屋から金品が見つかった。一時期、侯爵の屋敷には金品が隠されているという噂が広まり、盗賊が集結し、王都の治安が乱れた。


 アリエルの提案で、侯爵一家の悪霊の噂を広めたら、盗賊は姿を消した。

「盗賊は意外と迷信深いのですね」

白骨死体を掘り当てても、動揺しないアリエルに言われても、ルートヴィッヒは同意しかねた。


 侯爵家の屋敷の改修作業も開始された。救護院と孤児院に、教育施設を合わせた総合的な施設にする予定だ。火災の被災者たちに仕事を与えるため、作業は主に被災者を雇っていた。大人たちの作業に、どうしても子供たちがついてきてしまう。作業の邪魔になることも多い。


 大人達は手分けをして、子供の面倒を見るようになった。空き地で読み書きを教え、計算を教え、剣の稽古をし、各自出来ることを子どもたちに教えた。いつの間にか、教育施設の下地となっている。


 侯爵領にある故郷に帰りたいという者も、王都の貧民たちには多くいた。

「故郷への思い入れか」

「団長様が領主様だから、というのもありますよ、きっと」

―“竜丁”また、文句を言われるぞー

「アリエル、呼び方」


 見事に揃ったトールとルートヴィッヒに、アリエルは笑った。王都を飛び立って三日目の朝だ。案内の西方竜騎士団竜騎士達は昼には到着するだろうと予測を伝えてくれた。

「領地経営の経験などほとんどないぞ」

「北の領地は」

「あそこは形式的なものだ。税も集めるが、村に必要な分だけだ。あの村は農地があまりない。村で食べるための作物は作れるが。税として集めた作物の大半は竜騎士の腹に消える」

―よくわかっているようだなー

「村の人達にも言われましたね」

涼しい夏を過ごしたあの頃から、もうすぐ一年になる。ルートヴィッヒの手がそっとアリエルの頭を撫でた。村の人達が挙げてくれた結婚式を思い出しているのだろう。


「侯爵領に今あるのは、荒れた広い耕作地だ。領民が生きるに足りる収穫もあるかどうか」

「王領も、管理なさっておられますのに」

「あれは、慣れた者が管理しているのを確認しているだけだ」

「王領の管理人の手を借りることが出来たら、良いですけれど」

「管理人の手配はした。だが、余所者だ。先代の侯爵の頃の領地経営は安定していた。すぐに当時に戻るわけがない。当時を覚えている連中が、素直に従うかは難しい。過渡期は何かと揉める」


 元侯爵の家臣達が、突如国から派遣された管理人を相手に、従うとは思えない。

「監査に行かれた方々から、賄賂で誤魔化そうとした者達はすべて処罰したから、文官武官に関わらず人が減ったと連絡をいただいています。経験がある方と、協力出来ればと思っていたのですが」

「まともな経験をしていない者は足手まといだ。去った方が良い」

「それはそうですね」

―お前達らしいなー

「トールもそう思うだろう」

―当たり前だー

ルートヴィッヒがトールに話し掛け、トールが答える。ルートヴィッヒにはトールの声は聞こえないのに、二人の会話は成立する。一部の貴族に、ルートヴィッヒが変わり者扱いされていた理由の一つだ。


 火刑となった侯爵が引き起こした事件の顛末や、西方竜騎士団から不名誉な脱退者続出したお陰で、竜騎士と竜の絆の深さが知れ渡り、あれこれ言う者が減っていると、マーガレットが教えてくれた。


「領内のことは、最初は人が飢えて死なない程度に維持出来たら十分ですよね」

「最初は支出のほうが多くなる。それこそ、元領民が戻りたいと言っても、移動の費用はどうする。必要な農具と家はどうする。問題ばかりだ」

「侯爵家の宝石を順番に売っていきましょう。相場が崩れないように少しずつ売れば、大丈夫ですよ」


 リヒャルトの父はすでに、宝石を売る相手としてめぼしい貴族が、商会の顧客として国内外にいると言っていた。

「ルーイ、どうかお一人で無理だけはしないでください」

ルートヴィッヒの抱えている仕事が多すぎるのだ。おまけにルートヴィッヒは、全部確認しないと気が済まない。


「少しは人に任せたらどうですか。王領はそうでしょう」

「あれは王家のもので、私の領地ではないからな。ベルンハルトのものだ。適任者に仕事を任せ、成果を確認する。時に、仕事内容の吟味をする。任期制にして、監査もいれて、改善したはずだ」

「ルーイも少しは任せましょう。任せられる相手を見つけましょう。少なくとも、副団長様たちは、王都竜騎士団の午後の稽古や、今ここに来るための間の騎士団のことやってくださっています。任せられる人はきっといます」

「あぁ」

ルートヴィヒは鞍の前に座るアリエルを抱きしめた。



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