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3)翌日の執務室1

 翌日の午後、いつもと同じように、ルートヴィッヒはアリエルを伴い執務室に向かった。


 午前中、ルートヴィッヒは部下達に休むようにと懇願され、部屋に追い返された。部屋に戻るなり、待ち構えていたアリエルに寝台に押し込まれた。少し眠ったためか、昨日よりは体は楽だった。ただ、昨日、自分が広間で口にした言葉を思うと気分は晴れなかった。


 疲れ果てていたとはいえ、己を律することができなかったのだ。体調管理も職務の一部である。竜騎士としてあるまじきことだった。


 二人の姿に気づいた侍従が常のように扉を開ける。

「昨日は、大変失礼をいたしました。申し訳ございませんでした」

淡々と言い、ルートヴィッヒは席に着いた。

「いや」

書類を見ていたベルンハルトは、一瞬顔をあげただけだった。


 アリエルは戸惑った。ルートヴィッヒとベルンハルトの様子がいつもと違う。二人はいつもどおり仕事をしているようだったが、執務室にはいつもの、兄弟たちの穏やかな雰囲気がなかった。


 昨夜、様子がおかしかったルートヴィッヒは、何があったかを言わなかった。ただ、アリエルに傍に居てくれと懇願し、休む直前までアリエルを抱きしめていた。こんなことなら聞いておくべきだった。何か教えてくれないかと、アリエルは書記官達を見たが、書記官達も兄弟の間に漂う緊張感のようなものに戸惑っているようだった。


 マーガレットは、いつもの通り茶を淹れた。マーガレットは、宴の場に給仕の一人としていた。ルートヴィッヒの叫ぶような悲痛な声を聞いた。マーガレットも、かつて何があったか、知っていたつもりだった。だが、それがルートヴィッヒに与えた影響を思ったことすらなかった。


 ルートヴィッヒが過ごした凄惨な日々の一端を、今もそれに苦しんでいたことを、それが繰り返されることを恐れていることを、マーガレットは昨夜知った。


 午前中から、昨夜の影響か、多くの貴族が宰相代行であるルートヴィッヒに急な面会を申し込んできた。貴族達の家名を見たベルンハルトはあまりいい顔をしなかった。貴族達との面会は、日程を改めて検討し、一日三件以内に調節するように書記官達に命じた。


「今更、当時のことを詫びるつもりか。何年も放置していた者達が。私は怒りを感じるよ。しばらく待たせてやれ。大半が親の世代だ。今更ルーイは何も言わないだろし、言いたくもないだろうけれど。少しは怒ればいいのに」


 ルートヴィッヒ・ラインハルト侯爵は、王都竜騎士団団長であり宰相代行だ。下手に貴族を叱責すると、彼らを罰する必要が生じてくる。争いごとを好まないルートヴィッヒが、貴族を叱責する可能性は低かった。マーガレットも、かつての王妃派だった家の娘だ。マーガレット自身が、争い事を好まないルートヴィッヒの気質に甘えている一人なのだ。マーガレットは、己の卑しさに歯噛みした。


 執務室に現れたルートヴィッヒは、ほぼいつも通りのようだった。ただ、アリエルはルートヴィッヒを気遣うように見つめていた。それだけだった。


 習慣となっていた休憩時間中に、来訪者があった。エドワルドだ。


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