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幕間 リヒャルトと親父 3)秘密の計画

 リヒャルトの提案に、父親は二つ返事で応じてくれた。

「成る程。いい話だ。俺も番頭も世話になった御方だ。俺に任せろ。最高の仕事を約束しよう。最高の石と職人で、最高の品を仕上げてみせる」

リヒャルトの父親は、仕事の大半を兄夫婦に譲っている。それでも引退していない。


 宝飾品関連の仕事の得意先が、今も父親を指名してくるからだ。石を見極める経験だけでなく、相手の好みを知り尽くした上で意匠を提案する父親のやり方を気に入っている貴族は多い。


「そうと決まれば、お前も手伝え」

「はい」


 何を手伝わされるのか、聞いておくべきだった。リヒャルトはフレアの背に左右の重さが釣り合うように木箱をくくりつけながら反省していた。

「フレア、ありがとう」

気にするなというように寄せてきたフレアの頭を撫でてやる。


「ハインリッヒも悪いな。ヴィントまで駆り出して」

「いいや」

リヒャルトの言葉に、ハインリッヒとヴィントが揃って首を振った。


「竜に荷物を運ばせると言うと、外聞は悪いが、これは中身が中身だろう」

「まぁ、そうなんだけど」

見本の宝飾品や原石だ。使い方次第だが、数代遊んで暮らせるだけの財産になる。

「本来は、店にこちらから出向くべきだが、事情が事情だ。我儘を言ったのはこちらだから、協力するのは当然だ」

「そう言ってもらえると助かる」

生真面目なハインリッヒらしい返事だ。あれもこれもと箱詰めしていた父親が聞いたら、あと二つくらい木箱が増えそうで、恐ろしい。


「どちらかというと、君の父上が、竜丁の好みを上手く探り出すほうが大変だと思うのだが」

「まぁな」

ハインリッヒに言われて、リヒャルトは自分が父親を無条件に信頼していたことに気づいた。


「そうか。俺、親父なら出来ると思っていたけど、考えてみたら凄いことだな」

兄夫婦が追い、乗り越えようとしているのはその父親だ。リヒャルトは、己の不向きを早々に知り違う道を選んだ過去の自分に感謝した。


「君の父上は今日、ヨハン相手に商売するのも事実だが、団長と竜丁に気づかれないように、竜丁の好みを探り出すのだろう。そもそも竜丁は、己を飾ることに熱心ではない。かなり大変なことだと思うが」

「まぁ、親父も、支店の看板背負ってる連中を連れていくと言ってたから大丈夫さ」


 ハインリッヒには秘密だが、マーガレットの好みも探ってほしいと護衛騎士のクラウスから頼まれている。そのマーガレットは、竜丁の好みを探るための手伝いとして呼ばれているから気づいていないはずだ。


 ヨハンの贈り物を隠れ蓑に、二つの計画が進んでいる。竜丁の件は全員が知っている。計画を二つとも知っているのは、リヒャルトとリヒャルトの父親と従業員達だけだ。


 親父、頼んだ。


 秘密を知る者はできるだけ少ない方がいいというハインリッヒの言葉の意味を、リヒャルトは実感していた。


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